うつろのうつわ
両片想いで致命傷の娘ちゃんパターン1見知った金の髪が倒れ伏しているのを見て、雨竜は自分の心拍が逸るのを感じた。
急いで駆け寄りその身を抱き起こす。
「……撫子さん……」
「…………ぁ……? うりゅ、う……?」
酷い、傷だ。骨が見えている。深い刺傷がある。
まだ生きているのが不思議な程の傷だった。
「っ井上さんは……井上さんはどこに……いや……」
——完全反立なら、僕が撫子さんの傷を引き受けられるはずだ——!
雨竜は聖文字の力を使おうとして、
ぺちり、と雨竜の頬に撫子の手が当たった。
「なに……しようと、しとんの」
「……」
「むちゃ、するつもり……やろ……?」
撫子の手を取る。弱々しく握り返された。
「そうでもしないと、君が——」
「うりゅう」
「え——」
口元に、柔らかい感触。
「へへ……うばっちゃった」
残ったわずかな力を振り絞り、撫子は笑ってみせる。それがかえって尽きていく命を見せつけられているようで、雨竜の心拍が軋む。
「ねえ、雨竜。アタシより雨竜が長く生きてくれて、うれしい。いつまでも、長生きしてな……」
力を無くした撫子の手が、雨竜の手からするりとあっけなく落ちる。
「撫子さん……?」
名前を呼び、脱力した撫子を揺する。
「撫子さん」
返答は無い。その目は誰も映していない。
「なでしこさん」
どうしようもなく、命は尽きている。
「——ぁ、」
曇天の空に、金色を抱えた少年の慟哭が響き渡った。
後日。
浦原謹製の特殊義骸に搭載されていた安全装置の発動により一命を取り留めていた撫子は、黒崎一護一行が滞在している志波空鶴邸に顔を出した。
真っ先に雨竜が撫子を腕に収めて抱きしめたことは、言うまでもない。