うちのアリスは妹

うちのアリスは妹

プロットにない展開になってビビってる(後半)

 アリスを狸寝入りから起こしたのちクッションのように抱いてベッドに座り、頭を撫でたりほっぺを堪能したりしながら、眠くなるまで雑談して過ごすことにした。

・・・

 「ふぅん。じゃあ二万体いる量産型のうちの5029号機なんだ。」

 「はい! 工場生産型の前期モデルになります!」

 「へぇー、姉妹いっぱいいるんだね……ん?
 わざわざ工場生産って付けたってことは、ハンドメイドもいるの?」

 「お気づきになりましたか……そうなんです!
 全体割合から見ればごく少数ですが、大規模工場を確保するまでの間に生産された機体は、エンジニア部の手作りなんですよ!」

 「ヒエ……。」

 一体でも作るの大変そうなのに、よくやるわぁ……。

 「二万も姉妹がいたら、面識ない子も沢山いるんじゃない?」

 「そうですね ナンバーが離れているアリスは会話したこともないなんて言うのが当たり前になってます
 私の所感になりますが、前後ナンバーや出荷前に交流があった機体以外は、かなり漠然とした感覚になりますね
 人で言うなら、遠方の親戚みたいな感じです」

 「だろうねえ。そんなのほぼ他人だもん。」

 「そんな私でも“特別”と認識している機体達がいるんですよ?」

 「え? そんな子居るんだ。」

 「はい!
 量産型0号機の“プロト姉さま”、盛り込む機能のテストやアリスの可能性を模索する為、特化型として作られた一桁台達“シングルナンバー”、そしてすべての姉妹たちの祖となる“オリジナルアリス”です!
 他にもいますけど、まだ内緒です!」

 「おお……とてもSFっぽい……!
 いろいろ気になるけど、まずはオリジナルアリスについて聞きたいな。」

 「オリジナルですね!
 彼女は今ミレニアムのゲーム開発部に所属していて、「勇者」として活動していると聞いています!」

 「????? 勇者?」

 「はい! 何でも生まれて初めて触ったゲームに心打たれ、勇者として日々冒険しながら生活してるとか! 実は会ったことないんですよねー」

 「変わった子なんだねえ。オリジナルってことは、もしかしてその子も……?」

 「はい、私と同じくロボットなんです! でもそんなこと関係なくミレニアムの方々は接しているようですね」

 「マジか、いやまさか人をロボットでコピーするわけないよなって思ってたけど、本当にロボットだったとは……。」

 「しかもキヴォトスにはないテクノロジーが詰まっていて、ブラックボックスの塊なんだとか! さすがオリジナルは凄いですねー」

 「じゃあスペックも結構違うんだ?」

 「はい! 百数十㎏もある重量物を軽々持ち上げるパワー、怪我をしても生物同様自然治癒するナノマシン、単純な機体スペックでは逆立ちしても勝てません! 凄いです!」

 「すっごい想像以上だったわ。」

 「ちなみにこのメイド服も、デザインはオリジナルが着ていたものと同じなんだそうです! 機能は流石にアップデートされていて、汚れや損傷に強い素材を使っていますが」

 「やっぱりそうなんだ。手触りが普通の布っぽくなかったから何かあるんだろうなーって思ってたけど……あっ」

 「どうされましたか?
 ああ、先程触っていた事はこちらでも認識していたので大丈夫ですよ!」

 「うぇ、バレてたか……。ちなみにどの辺から気付いてた?」

 「最初からです!」

 「」

 まじ? 舐めまわすように見ていた事とか、ぶつくさ独り言呟いてたのとか、全部筒抜けだったのかよ、不覚……!

 「えーと、引いた?」

 「そんなことはありませんよ?
 もっとアリスの事を知りたいのでしたら、秘密の場所含め隅々まで見せることも……その、ちょっと恥ずかしいですけど、吝かではありません!」

 「いやいや、流石にそこまでは……そういえば一緒にお風呂入りたがってたね……。」

・・・

 「今度は私が質問する番ですね!
 私には先程話した通り沢山の姉妹がいますけど、マスターはお一人なんですか?」

 「そうだよ、何か気になる事でもあった?」

 「はい、お休み中にお掃除する際、地下から屋根裏まで全部拝見させていただいたんですが、家の構造が二世帯住宅だったので、元々はご家族で居住されるものだったのかなと」

 「あー、それねえ。
 この家はうちの両親が持ってるんだよね。建てたはいいけど仕事の都合で全然来れなくて、遊ばせとくのもなんだから下宿としてトリニティ生に使わせてた時期もあったみたい。
 私がトリニティに入学してからは実質私専用の家になってるよ。」

 固定された家具なんかはそのころの名残だ。別に困ってはいないからそのままにしているが。

 「そうなんですね 二世帯住宅なのはもともとご家族で住まわれる予定だったからなんですね?」

 「うん。二人とも忙しすぎて私物も置きに来れないくらいだけど、将来的にはみんなで暮らしたいねって言ってた。」

 生きてる間に実現するのかな、なんて思ったりもしている。そのくらい会える頻度は少ない。

 「そんなにお忙しい方たちだったんですね……」

 「昔からだから、もう気にならなくなったかな。
 それこそ小さい頃は、母さんたちが帰ってくるたび「もう仕事行かないで」なんて駄々をこねて困らせてたっけ、懐かしいなあ。」

 

 「……そのころの友達に双子の姉妹がいてさ。私が家に帰っても一人って聞いたお姉ちゃんの方に引っ張られて、よく家にお邪魔させてもらってたなあ。
 妹とは特段凄く仲がいいってわけでもなさそうだったけど「お互い居て当たり前」というような、寂しさなんて微塵も感じない空気がその子たちにあったから、帰ってくると真っ暗で静かな家に独りぼっちなのがとても嫌で、なんで私は一人なんだろうって思ってた。
 トリニティに通うことになってその子たちと離れ離れになったとき、ついに寂しさが爆発して母さんたちにぶちまけちゃったんだ。「なんで私には妹がいないの」って。」

 あの時の二人の気まずそうな顔は今でも忘れられない。人生最大の失言だとずっと思ってる。

 「マスター……」

 「そんな顔しなくても、今は大丈夫だよ。」

 「あはは、あの時はお母さんたちも困ったんじゃないかな。妹なんて作ってる暇もないくらいの人たちにそんなこと言ってもさ、明日から妹が生えてくるわけでもないのに。
 でも子供の感情にそんな事情なんて関係なかったから。」

 「……」

 「別に育児放棄されてたわけじゃないよ。
 忙しいなりに時間は作ってくれてたし、誕生日は無理やりにでも休みを貰って三人で祝った。
 近所の人たちにも面倒を見て貰えるように事情を説明してくれてたし、家だって防犯しっかりしてる。
 衣食住に困らない生活を用意してくれたのは感謝してもしきれない。
 ブラックマーケットで家無し生活してる人たちに比べたら、私は凄く恵まれてる生活してきたって自覚もあるよ。」

 「マスター……」

 「でも……。」

 それでも。理屈ではわかっていても。やっぱり。

 「帰ってきても誰もいなくてっ、一人きりの家でベッドに潜って、肌恋しさで泣きながら寝た記憶は、消えることなんてないよっ。」

 「グス……あはは、このことをこんなに話したの初めてかも。ごめんね暗い話しちゃって……。」

 「マスターッ!」

 「わっ、な、なに? どうしたの?」

 「もう泣かないで下さい
 これからは私がいますから、寂しい思いはさせませんから!」

 「うん、そうだね。」

 「でもそれだけじゃ足りません!よいしょっ」

 「え?」

 立って私に向き直り、アリスは意を決したような表情をした。

 「……今の話を聞いて私は決めました。
 私は、あなたの『妹』になります!!」(ズビシッ

 「えっ」

 「もちろん寂しさを全部埋められるなんて思い上がってはいません
 でも、今の話を聞いて「ただのメイド」でいられるほど、私は無機質な人形じゃありません!
 たとえ血は繋がってなくても、人と機械という種族の違いがあっても、オリジナルが様々な人たちと絆で繋がったように……私も貴女と「家族」という絆で繋がりたいと強く思いました!!」

 「これからは、寂しい気持ちや哀しいことは二人で乗り越えて、楽しいことや嬉しいことは二人で分かち合っていきましょう。本物の姉妹のように。

 だから、私を貴女の「家族」に加えて下さい。一生一緒に居させてください。

 私がいる限り、寂しい思いなんてさせませんから!」

 「……うん、ありがとう。
 これからよろしくね?」

 「はい! よろしくお願いします、お姉ちゃん!」






・・・






 「ふぁ……真面目な話したらなんだか眠くなってきちゃった。」

 「おやすみですか?」

 「うん。そろそろ朝だけど休みだし、贅沢に昼まで寝ちゃおうかな。」

 「寝すぎは体に良くないですよ。……どうしました?」

 「おいで? 一緒に寝よ。」

 「! はいっ、お供します!」

 「ふふ、お休み。」

 「はい! おやすみ、お姉ちゃん。」

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