うちのアリスはメイドさん

うちのアリスはメイドさん

撫でられアリス5029号は主人の匂いを堪能してました 最終改訂0521/22:27

 ぅ、んん~……ふぅ。   あー良く寝た、えーと時間は……日付変わるとこじゃん。

 およそ九時間か?
 もっと寝れる気がしてたけど、案外そうでもなかったらしい。

 これはもう寝れなさそうだなあ、とモゾモゾしながらぼんやり考えていたら、背後から風が来ることに気付いた。

 扇風機点けてたっけ?と思いつつ、スイッチを切ろうとスマホのライトを向けると、そこには生気の無い目を向け団扇を扇ぐ髪の長い女が

 「んぎゃああああああ!!!!」

 午前零時零分、本日の第一声は乙女らしさの欠片もない大絶叫であった。


・・・


 「!?!?!?
 どうされましたマスター!侵入者ですか!?お怪我ですか!?」

 「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 「マスター!?落ち着いて下さい、私です!アリス5029号です!!」

 「ほ、ほあ……アリス……?」

 あれっそういえばなんか見覚えあるような……そう思っていると部屋の照明が付けられ、姿をはっきりと視認する。
 そうだ!今はアリスが居るんだった!

 「ウワーッ!!アリスの事すっかり忘れてた!ごめん!!」

 「いえ、お構いなく……事故とはいえ寝起きドッキリしてしまったアリスに非がありますので。」

 「うぐ、本当にごめんねぇ……」

 本気で絶叫されたことがかなりショックだったらしく、背後に暗いオーラを幻視するほど落ち込んでしまったアリスに重ねて謝る。

 いやマジでごめんて、もう失念しないし今度からはナイトライト付けとくから!


・・・


 しょんぼりアリスを抱き寄せてナデナデしながら慰めること10分、ようやく調子が戻ってきたことを確認し離れると、今度はこっちも構えやと腹の虫が盛大に主張する。

 そういえば眠すぎてお昼食べてないんだった。

 「そうだったんですね。でも今まともに食べたらお肉になっちゃうので、軽めのものをお作りしますね!」

 「うん、お願い。」

 い、良い……。
 膝丈のメイド服を纏った超ロングポニテの女の子の、パタパタと足音を鳴らしながらキッチンに向かう背中を見送りつつ、静かに物思いに耽る。

 可愛い……性癖ドストライクですやん。
 これからこの子にお世話されながら生きていくとか、私の人生大丈夫?

~~~~

 AM6:00
 けたたましく鳴る目覚ましを止め、あと五分などと言いながら布団をかぶり二度寝の体勢に移る。
 しかしそれは許さぬと、しっかり響くようにノックされた扉が静かに開かれる。
 アリスが「おはようございます、マスター」と挨拶しながら入室し、カーテンを一気に開け放った。
 顔に日光が燦燦と降り注ぎ、嫌でも身体が覚醒させられていくのを感じながら、それでもと窓から背け抵抗を試みる。
 そんな私を見かねたアリスが正面に回り込んできて、ゆさゆさと体を揺すりながら「起きて下さい、ご飯が冷めちゃいますよ」と、耳元で囁いた。
 観念して瞼を開くと、慈愛の微笑を浮かべた彼女と目が合い……


~~~~


 うーん、彼女が居なきゃ身の回りのこと何もできないダメ人間に堕ちていく姿しか想像できないんですけど。
 ごめんねアリス、貴女の主人はこれからきっと沢山迷惑をかけるダメダメウーマンに退化していくと思うけど、どうか見捨てないでいてくれると嬉しいな……。

 などとIQ低めな妄想を展開していると、仄かに漂ってきたパンの焼ける匂いと温められた牛乳の香りに鼻腔をくすぐられる。

 程なくしてアリスが戻り、

 「マスター、出来上がりましたよ。冷めないうちにどうぞ。」

 と、数枚のトーストを乗せた皿とホットミルクを淹れたマグカップを並べたトレイを差し出される。

 「ありがとう。いただきます。」

 

・・・


 「ンめぇ~。」

 美味すぎてヤギになったわ。

 がっつきたい気持ちを抑えしっかり咀嚼し、ミルクで流し込んで一息つく。

 何でもないトースト、しかしちぎりやすいように切れ目を入れてたり、生過ぎず焦げ付かずの絶妙な塩梅で焼き上げられたこれは、私の作る雑な焦げトーストとは明らかに別物と言えた。

 トッピングもチーズ・バター・マーガリン・各種ジャムをしっかり用意されており、こちらの食習慣を既に把握されているかのような準備の良さに、すっかり腹の虫もご機嫌なようだった。

 そう、何を隠そう私は「あれこれやるのが面倒くさいので一枚のトーストを味変しながら楽しむ派」なのだ。
 アリスはそれをわかっていて用意したらしく、どうして気付いたのかと聞いてみたら、

 「トーストに使ったお皿すべてに複数のトッピングの跡が残っていた」
 「冷蔵庫で一纏めにされたバターやジャムを見つけた」
 「バターナイフが一人暮らしとは思えないほど大量にあった」

 と語っていた。

 いやはや流石の観察力、可愛いだけじゃなく有能でもあるのだね君は。
 ん? 使った食器を把握している……?

 「つかぬことをお聞きしますが、アリスさん。」

 「はい、なんでしょう? あとなんか口調固くないですか?」

 「お気になさらず……それで、キッチンは、もしや」

 「はい! マスターがお休みの間に片付けさせていただきました!」

 「」

 h、は、恥ずかしいィ~~~~!!
 初日からだらしないところバッチリバレてんじゃん!いや、家事手伝いで来たんだから当たり前なんだけども!……ということは。

 「明日、というか今日がゴミ出しの日ということで、ついでに賞味期限が切れた食材等も整理しました! お洗濯の方も準備はできてます! お休み中に始めるのは流石に控えましたが……」

 オゥフ、溜まったゴミや脱ぎ散らかしてた衣類もバッチリ見られてました。
 へへへ、もう恥ずかしいなんて感情飛び越しちまったよ……これは私の落ち度なんで、黙って反省するしかない。

 「幸いお召し物からはそれほど匂いはしてなかったので、お洗濯は日中を予定しています!」

 「嗅いだなこいつ!? 親にも嗅がれたことないのに!」

 「ええ!?ダメでしたか!?すみません!」

 「わかればよろしい!!」

 ……アリスのなかには犬のように嗅ぐことで様々な情報を取得できる仕様の個体がいると知るのは、だいぶ先の話……。

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