「うちで呪いなんかかけんじゃねェ」

「うちで呪いなんかかけんじゃねェ」


カーン カーン


草木も眠る丑三つ時、村の神社に音が響く

音の正体は一人の女が振るう金槌で、何かを木に打ち付けている

女の頭には火のついた蝋燭が二本立ち、首に円鏡を下げた白い着物姿

長い髪を振り乱しながら一心不乱に金槌を振るうその姿は、まるで鬼のようであった

やがて女は手を止め、息も絶え絶えになりながらニヤリと口元を歪めた

「ハァ…ハァ…これで、あの男も反省するに違いないわ…」

そう言うと女は神社を後にした

後に残ったのは五寸釘で木にとめられた藁の人形だけだった


家に帰った女は、目の前の人物に眉根を寄せた

部屋に見知らぬ男がいたからだ

若葉色の髪に着流し姿の若い男で、何故か腰には刀を三本差している

「誰、アンタ?」

首を傾げる女に男は「おれは剣しn…」と何か言いかけた後、少し間を置いてから「剣士。通りすがりの剣士だ」と名乗った

「その通りすがりの剣士様が何の用なの?」

「お前の忘れ物を届けに来た」

そう言うと男は女に何かを手渡した

見るとそれは、五寸釘と藁人形だった

「なっ、なんでこれを!?」

「お前なァ、こんな夜中に人んちでカンカンやってんじゃねェよ。うるさくて寝れやしねェ」

「うるさいわね!私は、これを使ってあの男w「ソイツはもう持ってくるなよ」

男は一方的にそう告げると、女の家から出て行った

気がつくと女は床に寝ており、傍には五寸釘と藁人形が置かれていた


翌日、女は再び藁人形を神社の木に打ち付けた

しかし家に帰るとあの剣士の男がおり、「もう持ってくんなって言ったのに」と言いながら藁人形と釘を返してきた

その次の日も人形を打ち付けたが、またしても剣士に返された

その時、剣士は「次はねェからな」と言って女の家を去った

女の心中には、本来の標的に対してだけでなくこの剣士に対しての恨みも渦巻いていた



*****



カーン カーン


丑三つ時、女は藁人形を神社の木に打ち付ける

藁人形の胸には二本の五寸釘が刺さっている

頭に立てた蝋燭を燃やし、髪を振り乱しながら金槌を振るう

「あの剣士、よくも余計なことを!こうなったらお前も!!」

女が叫びながら最後の一押しを振り下ろした時だった


キンッ!!


金属を鳴らしたような、高い音が響き渡った


気がつくと、女は鳥居の傍に倒れていた

「私、何してたんだっけ…?」

女は手にしていた金槌を見つめて首を傾げ、そのまま頭に「?」を浮かべながら家路に着いた

その様子を神社の屋根の上から見つめるのは、酒瓢箪に口を付ける若葉色の髪の男

男の傍らには三本の刀と、真っ二つに斬られた藁人形と二本の五寸釘があった

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