うずまき立花生存ルート

うずまき立花生存ルート


遅れて管制室にやってきた子は、自分とそう歳は変わらないように見えた

黒い髪に青い瞳、私と同じ平凡な雰囲気

彼のことがどうしてか私は気になって


「ちょっと、あなたもなの!?」


彼が居眠りでビンタされて追い出されるのを見て、少し悪い子な私はつい得意技のどこでも就寝で追い出される体で彼の後を追ってしまった

……まさか、これが旅の始まりになるなんて当時の私は思いもしなかった


私は忍者の家系だ

うずまき一族と呼ばれる封印と生命力に長けた一族の系譜

……まあ、他と比べると死ににくい、くらいなんだけど

これだけなら少し特殊な生まれの子、で片付くのだが、私には他の一族とは違う特徴がある


尾獣、九尾


妲己とか玉藻の前とか、そういうものではない

自然エネルギーの塊である精霊の一種であるそれを、私は体内に封印している

別に外に出すと暴れ出すとか、そういうものではない

和解はとうの昔に先祖が終わらせたし、九尾も舐めた態度は取ってくるけど私に敵意は抱いていない

単に外に出すには今の社会は情報化し過ぎて隠蔽が難しいから、こうして体内にしまい込んで隠しているだけだ

……昔の大戦の記録見て、隠す意味あるのかこれとは思ったけど。なんなの、山斬り飛ばす巨大な鎧武者って。どんだけ魔力いると思ってんの。普通に速攻で干からびるでしょ

というか、忍者なんだから忍べや


そう、思ったんだけどなぁ……


「まさか、自分ができてしまうなんて……鎧武者の方もいたし……」

「お互い、遠いところまで来たよね」


トレーニングルーム脇のベンチで、今や汎人類史代表という業を一緒に背負うことになった同業者と愚痴を吐き合う

どうしてこうなったんだろう。私はちょっと特殊な生まれと育ちをした普通の子なのに


「僕としては、お前らの成長具合に恐怖を覚えるよ……カルデアに居た頃からそのスペックだったなら、余裕でAチーム行きだよお前ら……」

「だって、鍛えなくても他の人いると思ってたし」

「来たばかりで訓練なんかしてなかったし」


ジュースを持ってきたカドック先輩に礼を言って受け取る

あの時は自分より凄い人が沢山いたから、自分が頑張らなくてもいいやと思っていたのだ

私自身、苦しい訓練とかしたくなかったし、サボれるタイミングがあるなら積極的にサボったものだ

だから、残ったマスターが私と隣に座る黒髪の彼、うちは立香だけと聞いた時、私思いっきり絶望したんだよ?

立香君が頑張ったから私も頑張らざるを得なくなって、結果、こんなになったけど


「? どうかした?」


チラリ、と隣に座る彼の姿を見る

彼はいつもの、青い空を思わせる瞳で私に視線を合わせる

それだけで顔が赤くなるのを感じて、思わず目を逸らす

うん、これは写輪眼対策写輪眼対策。うちはと目を合わせるのは危険だからね、うんうん


「……お似合いだよ、お前ら」

「うぇぇ!? お、お似合いって、何言ってるのカドック先輩!?」

「? 何が? あ、チームでってこと? それなら、俺はカドックとも息ピッタリだと思うよ!」

「…………」


このクソボケが

さすがは多くの女性サーヴァントに懸想されながら、一度も肉体関係を結ばなかった男である

同じタイプというか、ほとんど魂の双子のように感じているアルキャスともども、立香君の鈍感さには溜め息を吐いたものだ

しかも、これで私たちにうちは特有の重く深い愛を向けてくるのだ。正直、気が狂う


(いっそ抱けよおおおおおおお! 私、君とならいいと思ってるんだからなああああああ!)


そしてそれはアルキャス、ひいてはその果てであるAAも思っていることだろう

だって、思考回路が完全に一致してるもの。妖精國を旅してるとき、見覚えのある顔してたもの。カルデアで過ごしてるとき、見覚えのある反応してたもの

あれは、どう考えても立香君の毒牙にかかった女の子の反応だった

……彼のあれ、男にもするっていうのが本当にむかつくが

ロビン、俺のこと嫌いになった……? って壁に追い詰めて聞いてる立香君に、ロビンが俺にそういう趣味はねえって叫んでたのを覚えている

……そういえば、あの攻撃、この前の夏にAAが喰らって、慌てて否定していたな

にしても、幾ら一緒に戦場を走ったとはいえ、ちょっと距離感バグりすぎでは? アルキャスとか、心臓が爆発しかけてるシーン何十回もあったよ? 最近、あんまりにも手を出されなさ過ぎて眼が据わって来てるよ?


「これは修正が必要かもしれない」

「?」


疑問符浮かべている彼に、苛立ちを覚える

いや、知ってますよ。うちはって、心優しくて愛情深い一族だって

でもだからって、それを直球でぶつけられると困るんですよ

最初の頃とか、凄い距離感マシだったじゃん。まだちゃんと仲間の一人みたいに扱ってたじゃん


(今はそういう感情あるとしか思えないよぉ……! でもないんだろうなぁ……! あんなにホモホモしてる光景を作っていながら、普通に友情しか抱いてないんだろうなぁ……!)


目の前で一緒に踊ろうとカドック先輩の手を固く握る立香君を眺めながら頭を抱える

知らない人から見たら、そういう関係に見えるだろうが、実態は完全に先輩に懐いてるだけの後輩だ

これが今のうちは立香君の平常運転である。立香君ガチ勢の心は常に振り回されて落ち着く暇がない


「絶対、どこかで逆レされる……!」

「今何か言ったー?」


今はまだ他に大量のライバルがいるのと、人理案件という大義の前に我慢できているだけに過ぎない

だけど、その我慢も遠からず千切れるのは間違いない

その前に、なんとかこの距離感バグを修正しなくてはいけない。それこそが人理の、カルデアの、ひいては私の平穏に繋がるのだから


「いいから離れろ! 暑苦しい!」


ぶんぶんと立香君を振り回すカドック先輩の姿を見ながら、私は決意を固めるのだった

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