いわゆる魅了バグ系のネタ

いわゆる魅了バグ系のネタ


イスカリ君が(いつも通り)可哀想

不健全




「おはよう諸君!突然だが現在カルデアでは謎の状態異常アクシデントが発生している。どうやら無作為に選ばれたサーヴァントがランダムで状態異常に掛かっているようだ。原因は不明、調査が完了次第対処にあたる。法則性を調べたいから心当たりのある者は管制室に支給のタブレットでメッセージを送るか直接報告に来て欲しい。ただし毒や火傷に掛かったサーヴァントは医務室へ、できれば手が空いてる者は救護を手伝って欲しい。恐怖や混乱状態のサーヴァントは見掛けても無理に刺激をしないで管制室に報告を。以降解決まで判明した情報はタブレットに随時アップロードする予定だ。ではよろしく頼む!」

 朝からけたたましく響いた警告音と放送で今この身に起きていることが異常事態であることを知り、自分より大きな体を引き摺りながらなんとか通りすがりのサーヴァントの一人に報告を頼み一息つく。食堂に行こうとしただけなのに何故こんな目に遭っているんだ。

「私の前で堂々と余人と話すなんて妬かせてくれるね。そんなことをしなくても既に私の心は君に奪われてしまったというのに」

「五月蝿い黙れ不要だ返す」

 顔を合わせるなり人の腰に腕を回しながらすり寄って来たコルテスはどう見ても魅了に掛かっていた。べったりと張り付く男は重い上に邪魔でいくら押し返してもめげずにしがみついてくる。鬱陶しいにも程がある。

「いいから離せ!歩きにくい!」

「それならば私が抱えてどこへでも好きな所へ連れて行ってあげよう。さあ君の美しい声が誰にも聞こえないよう私にだけこっそりと囁いておくれ」

「そうだなお前が居ない所がいい」

「会えない時間が愛を育むと?それも魅力的だが今は君と片時も離れたくないな」

 決して認めたくはないのだが、普段のコルテスは会話が成立するだけマシなのだとたった数分で思い知らされた。

 それにしてもこれからどうしたらいいのだろう。こんな姿を衆目に晒したくはないが、人目の無い所でコイツの相手を延々としていたくはない。かといって魅了への対抗策を持つキャスターに頼ろうにも、この非常時に鬱陶しい男がくっついてるだけの僕は後回しにされて当然だ。

「分かった、相手をしてやるからまずは離れてくれ。これじゃ身動きも取れないだろう」

 まずはなんとしてでもコルテスを引き剥がす。その後は隙を見てシミュレーターにでも逃げ込むしかない。

 この男に譲歩してやるのは気に食わなかったが、理性を失った相手にそうも言っていられない。

「とうとう私を受け入れてくれる気になってくれたんだね、嬉しいよイスカリ」

「お前いい加減に…っ!」

「やっとこっちを見てくれた」

 見上げたコルテスの表情がどんどん蕩けて焦点の合わない碧眼が細められる。上気した頬がだらしなく緩み、勝手に腰を抱いていた腕が容赦なく人の肩を壁に押し付けた。

「痛、」

「相手をしてくれるんだろう?」

 言うが早いかコルテスの無骨な指が顎を持ち上げて、文句を言おうとした口が塞がれた。

「!?」

 引いた頭はすぐ壁にぶつかって止まり、追い討ちをかけるようにコルテスの舌が口内に侵入してくる。

 咄嗟に噛みついてやろうとしたのに、ざらついた舌に口蓋を撫でられるだけで背中をゾクゾクとした何かが駆け上がって全身から力が抜けていく。舌同士が擦り合わされる感覚に驚いて奥へと引っ込めても吸い出されながら絡め取られ、罰だと言わんばかりに軽く歯を立てられた。呼吸すらままならず朦朧とする意識で、揺れる足を叱咤し壁に掴まりながら立っているのがやっとだった。

 粘ついた唾液が糸を引きながら解放された時にはもう肩で息をしながら空気を取り込むのが精一杯で、肩を押さえる腕がなくとも逃げられそうにない。何故奴は突然豹変した?僕はどこで間違えたんだ?

「何…いま、何を…?」

「弱ったな、そんな顔をされては残さず食い尽くしてしまいそうだ」

「ひ、」

 抵抗する間もなく再び口が塞がれる。先程はまだ手加減していたのだと言わんばかりに好き勝手口内を荒らされ、息が苦しい。溢れた唾液を啜る音が響いてどうしてだか頭の芯がじんと痺れる。

「――!」

 震えて今にも崩れ落ちそうな足の間に膝が勝手に割り込んで来たかと思えば緩やかな力で股間を押し上げられた。そのままゆっくりと何かを確かめるようにコルテスの膝に捏ね回されて、そこにだんだんと全身の熱が集まって来る。

 嫌だった。自分が『何』をされているのかはよく分からなかったが、何かひどく嫌なことをされている事だけは分かる。

 コルテスだってこんな事はしたくないのかもしれない。魅了の力に精神さえ蝕まれていなければ。こんな異常事態さえ起こらなければ。こんなの。

「ゃ、嫌だ、」

「……ムテスマ?」

 何がきっかけかコルテスの瞳に理性の色が戻る。碧の目を驚愕に見開いて、彼らしくもない呆けた顔を晒していた。

「なるほど」

 そして何かに納得したらしく一度深く頷いたかと思えば、流れるような仕草で懐から銃を取り出し自らのこめかみに向けて発砲した。

「は?」

 魔力の喪失量を可視化しただけの血液が撒き散らされ、それを避ける間もなく真っ正面から被った僕を汚す。それすらもやがて倒れ伏したコルテスごと綺麗さっぱり光の粒子となって消えてしまった。

 あとには壁伝いに座り込んで唖然とする僕だけが残されたのだった。


Report Page