いぬ
「最近、犬が着いてきている気がするんです」
"……ふむ"
「毎日の帰り道、家に帰るときに足音が聞こえるんです。たまに鳴き声も。」
"……"
「でも振り返っても何もいない。なので気のせいかと思いそのまま……それでしばらくは何もなかったんです」
"……"
「一週間ぐらい前でしょうか、玄関の前から鳴き声が聞こえたんです。「わん」って」
"……"
「それが日に日に近付いてきて……つい先日には目の前で……」
"……それで私に相談しに来たんだね?"
「……はい」
"……なるほどなるほど……うん、原因は分かった"
「……!! 本当ですか!! どうしたら犬の鳴き声が終わるんですか!!怖いんです!!毎晩毎晩鳴き声と共に近付いてきて……昨日には目の前でこっちを覗きながら!!」
"まぁまぁ落ち着いて……これから原因を言うけど落ち着いて聞いてね?"
「……すいません、失礼しました……それで原因というのは……」
"君、居ないものを怖がりすぎ"
「はぇ?」
"説明すると、まず犬の鳴き声がしたのは……言葉遊びとか洒落みたいな感じかな?"
"犬と居ぬ。発音は一緒だからそれが混ざって犬となって出てきた……ってところ。うーん理不尽!!"
「そ、そんな……そんな洒落のようなことで私はこんな思いを!?」
"怪異ってものはそんな洒落のようなところから繋がってやってくるからねー。あと恐怖心も。"
"で、この「いぬ」に対する対処法だけど……居ないものをそんなに恐れないようにしよう!!"
「そんなに、恐れないように……」
"今住んでるところがペットOKだったらどんなのでもいいから犬を飼って、居ないから知らない、だから恐れるって状況を無くそう。ペットNGだったら犬カフェ行って慣れよう!!"
"でも恐れないのは駄目。バレたら今度はもっとマズイのがやってくる。なので「知ってるけどそれはそれとして恐いものは恐い」ぐらいが丁度いいかな?"
「なるほど?」
"すぐに飼うのは無理だと思う、のでバイト紹介とかでお世話になってる犬カフェに連絡入れておくから終わったらすぐにGo!!料金は……渡しておくからこのお金で楽しんで"
「は、はい!!」
"こんなところかな? お茶いれるから、飲んだら行きなー"
"いやでも、危なかったね。私に相談してなかったら君、今日の夜には無くなってたよ?"
「はい?」
"今回君にやってきた「いぬ」ってどうも「去ぬ」も含んでたっぽいからね。キヴォトスから去ってるか、老人になってるか、体が腐ってるか、死んでるか。どれにしろロクな結末を迎えてなかったよ"
「ひっ………!」
"まぁ、居ないものを恐れるのもほどほどにねー"