『いとしさえ』の日記

『いとしさえ』の日記

3スレ目143氏より


『いとしさえ』の日記

2×10年9月✕日 

 もうすぐまたりんのたん生日か。りんはまた、たん生日が近づいてきてこわいのかおれにべったりだ。かわいそうに。りんがすなおにたん生日をよろこべる日が来ればいいのに。

 そういえば、英語の学習ソフト……やりつくしたから、もういらなくなってたな。りんのたん生日プレゼントといっしょにりんにあげよう。

 少しだけ、あれをきどうさせるのがつらくなってたから。だから、もうりんにあげよう。

 今年のりんのたん生日も、なにも起きませんように。


『いとしさえ』の日記

2×10年9月✕日

 サッカーの練習から帰ったらりんが今日の夕飯を作っていて、おいてあった。手紙にはいつもありがとうという言葉と、これからはりんもおれの手伝いをすると書かれてた。

「りんは、せかいいちやさしいにいちゃんがだいすきだよ」

 そう書かれていた文字を見た時、なみだが止まらなくなった。

 うれしくて。これまでのつらいことがむくわれたような気がして。その言葉だけでがんばれる気がした。

 でも、少しだけつらかった。

 りんにつかれてるのがバレてた。りんに心配かけてた。おれがりんを安心させてやらないといけないのに。おれは兄ちゃんなのに。

 気が抜けているのかもしれない。こんなんじゃダメだ。しっかりしないと。たよれる兄ちゃんにならないと。

 そろそろ出張からあの人も帰ってくる。

 りんのたん生日ももうすぐだ。

 そうだ、今年のたん生日はおれがケーキを作ろう。作ったことないけど、がんばる。

 しっかり、しないと。


『いとしさえ』の日記

2×10年9月9日

 今日はりんのたん生日だ。りんは今年も一日中おれと一緒にいた。でも、去年より落ち着いているみたいだった。よかった。今年のたん生日は、おれがりんのたん生日ケーキを作った。ちいさいし、あんまり形よくできなかったけれど。

 それでも、りんはよろこんで笑顔で食べてくれたから、作ってよかった。来年はもっとすごいやつ、作ってやろう。

 りんは早速おれのお下がりの英語のソフトをプレイしていた。ねる直前までやってたのは、少し口元がゆるみそうになったけど。

 今日はなぜかあの人に夜に部屋に来いと言われなかったし、寝る前にホットミルクもくれた。どうしてだろう。断り切れなくて、出されたミルクも飲んでしまった。

 すこし不安だけど、だからといってできることもあまりない。

 今日はりんが寝た後も、できるだけ起きていよう。

 今日は朝が早かったせいか眠いけど、少しでも起きていたい。


『いとしさえ』の日記

2×10年9月10日

 朝起きたらりんの様子がおかしい。おれの顔をじっと見た後に、無言でぼろぼろとなみだを流し出した。

 まさかと思ってりんの身体を調べてみたけれど、なんともない。何かあったのか聞いても、なんでもないの一点張りだ。

 アイツに何かされた?

 でも身体はなんともなくて。けがも、されたときの痕もない。どうしようどうしようどうしよう

 りんは一日中元気がなかった。りんから笑顔が消えた。昨日はあんなに元気だったのに。なんでなんでなんでなんでおかしい。

 そういえば、昨日は強い眠気のせいで結局起きていることができなかった。そのすきに何かされた?

 アイツは今日は仕事の都合で遅くまで帰ってこない。明日問い詰めてやる。約束をやぶってりんにまで手を出してたら、なんて考えたくもない。

 でも。もし、本当にそうだったら……

 ゆるせない


邉ク蟶ォさえ■の日記

2×10年9月12日

 

        ん

     で 

      ど

      うし 

   て

    り 

   ん

        だけ 

     は

   き

      れ い 

   な

     ま

       ま

         で 

   い 

    て

 ほ 

      し

    か 

      っ た 

   の に


『邉ク蟶ォさえ■の日記

2×10年9月××日

 りん

 ごめんな

 きたないものみせて

 ごめんな

 まもってやれなくて

 ごめんな


『邉ク蟶ォさえ■の日記

2×10年9月××日

 アイツはりんに、おれが夜にされていることをぶちまけてた。されてる時にとられてた動画を、りんの誕生日の日にりんにだけ見せたらしい。

 りんにかくしたかった汚いものが、かくしてきた汚いものが、アイツの気まぐれのせいでぶちまけられた。

 りんには何も知らず、きれいなままでいてほしかったのに。

 そんな願いさえ、かみさまは聞いてくれないらしい。きっとおれはかみさまに嫌われているんだろう。

 ……かみさまなんて、いないのかもしれない。

 なにもかもどうでもよくなった気がした。

 しにたくなった気がした。

 消えたくなった。

 でも、できなかった。りんの瞳は、まだきれいだったから。

 「気付けなくてごめんなさい」

 そう言って、りんは涙をこぼしてた。ぼろぼろこぼしてた。汚いおれを嫌がるどころか、あやまりながら抱きついてきた。

 …………まだ、消えられない。

 りんを残してしねるものか。

 アイツからりんのことを聞いたあの日から、日に日に自分がおかしくなっているのは分かってる。

 でも。

 まだしねない。

 ここから抜け出して、おれがいなくてもりんが無事に生きられるまでは、しなない。

 たとえこわれても、何も感じなくなっても……りんの純潔は守ってみせる。

 兄ちゃん、頑張るから。


?,-.邉ク蟶ォさえ■の日記

2×10年10月✕日

 最近、りんが笑わなくなった。心配だ。それに、言葉遣いだって少し、刺々しくなった。

 おれといる時は変わらないけれど、りんのクラスメイトや、ユースの奴らとかには冷たくなったような気がする。

 後、大人を嫌うようになった。

 ……まぁ、これは仕方ないか。あの人のせいだ。

 やっぱり、誕生日のことはりんの心に深い傷をのこしたみたいだ。励まそうと夕飯はりんの好物でいっぱいにしてみたけど、それでもりんは笑ってくれなかった。ありがとう。とは言ってくれたけど、やはり元気はなかった。

 今日もりんを笑わせようと色々してみたけれど、それでも駄目だった。

 「おれが笑いたくないから笑わないだけだよ。心配しないで」

 そうりんに言われる始末だ。その言葉の意味をあまり理解できなかった自分にも嫌気が差した。

 …………おれ、ちゃんと兄ちゃんやれてるかな。

 ごめんな、りん。


?,-.邉ク蟶ォさえ■の日記

2×10年10月10日

 今日はりんがプレゼントをくれた。それに、またりんが夕飯を作ってくれてた。なんでかなと思ったけど、りんに言われて思い出した。

 今日はおれのたん生日だったっけ。

 うれしかったけど。

 そんなにはりきらなくていいんだぞって、りんに言ったら悲しそうな顔をしてた。どうしてだろう。

 たん生日だからって、夜はあの人にりんの目の前でされた。いやだった。りんに汚いものを見せたくなかった。見るなって、りんに言ったけれど、涙をこぼしながらりんはじっと見てた。

 こんな姿、見られたくなかったのに。

 こんな姿、見せたくなかったのに。

 ごめんな、りん。せっかくたん生日祝ってくれたのに。嫌な思い出になって、ごめんな。

 自分の中のなにかがすりつぶされていくような気がした。


?,-.邉ク蟶ォさえ■の日記

2×10年11月✕日

 おれとりんが泣くのがそんなにおもしろかったのか、最近はりんの目の前でされることが増えた。じょうだんじゃない。やめてくださいって、何度も願ったけれど……聞き入れてくれることはなかった。

 昼でもりんの目の前で身体を触ってくることが増えた。りんの目がうるむからやめてほしい。


?,-.邉ク蟶ォさェ■の日記

2×10年11月✕✕日

 泣いてもあの人を、大人達を喜ばすだけだということに気が付いてから、次第に涙が出なくなった。

 涙って、出なくなるもんなんだな。

 りんには、まねしてほしくない。


?,-.邉ク蟶ォさェ■の日記

2×10年12月✕日

 うっかりはらの傷をりんに見られてしまった。気にすんなって言っても、りんは暗い表情のままだった。

 今度着替える時は注意しないとな。りんはおれの身体の傷を見つける度に悲しそうな顔をするから。

 心配かけてごめんな、りん。


?,-.邉ク蟶ォさェ■の日記

2×10年12月✕✕日

 りんが今年からクリスマスプレゼントいらないとか言い出した。クリスマスのごちそうも作るの手伝うとも。

 りんはまだ8才なのに、気を使わせてしまった気がする。

 クリスマスの夜は、こっそりりんの欲しそうなプレゼントを置いてやろう。


?,-.邉ク蟶ォさェ■の日記

2×10年12月25日

 失敗した。

 朝起きたりんに、もらうのをやめた筈のプレゼントがなんであるのか聞かれた。

 「りんが良い子にしてたからサンタも来ちゃったのかもな」

 そう言って茶化したおれを見て、りんはプレゼントをじっと見つめた後……ぽろぽろと涙をこぼした。

 そんなつもりじゃなかった。まさか泣くなんて思ってなかった。

 プレゼントが気に入らなかったのか、いらないって言ったのにあったのが嫌だったのか。

 りんが泣いてる理由はよく分からなかったけれど、泣かせてしまった。

 ごめんな、りん。お前がされて嫌なことまで、兄ちゃん分からなくなってた。……ごめんな。

 そう言えば、りんは泣きながらこぼしてたな。「なんで兄ちゃんには……」って。

 あれ、どういう意味だったんだろう。


?,-.邉ク蟶ォサェ■の日記

2×11年1月✕✕日

 最近、いたみがごまかせなくなってきた。

 いたい。

 いたい。

 いたい。

 どうしてだろう。りんが悲しむから、いたみに顔をしかめているのは見られたくないのに。

 最近、吐くことも増えた。

 きもちわるくて、たまらなくて。

 最近、がまんができなくなってきてる。

 しねないのに、しにたいって思うことが増えた。

 こんなんじゃだめだ。りんを、まもれない。

 どうにか、しなきゃ。

 でもいたくて。

 たすけて。


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月✕日

 また今日も吐いてしまった。きもちわるい。

 たすけて。


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月✕日

 なぐられたとこから血が止まらない。

 いたい。

 たすけて。


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月✕日


 今日はりんをかばいきれなくて、りんがぶたれてしまった。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 守るって言ったのに。

 役立たずな兄ちゃんで、ごめんなさい。

 だれかたすけて。

 たすけてください。


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記


2×11年2月✕日

 いたい。けられたところが、いたい。

 はらのなかも、いたい。

 たすけて。


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月✕✕日


 今日も、いたい。

 たすけて。


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月✕✕日


 たすけて


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月15日


 タスケテ

 

?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月16日


 タスケテ


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月17日


 タスケテ


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月18日


 タスケテ


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月19日


 タスケテ


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月✕✕日


 タスケテ


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年2月✕✕日


 タスケテ


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年3月✕日


 タスケテ


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年3月✕日


 タスケテ


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年3月✕✕日


 タスケテ

 タスケテ

 タスケテ

 タスケテ タスケテ タスケテ タスケテタスケテ タスケテ タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ――――


?,-.邉ク蟶ォサエ■の日記

2×11年4月✕日


 道ばたにぼろぼろになった人形が落ちてた。

 落としてしまったのか、いらなくなったから捨てたのか。

 何も言わず、そこに落ちてた。

 なんだか、おれみたいだと思った。


?,-.邉ク蟶ォ蜀エ■の日記

2×11年4月✕日


 そうか。やっとわかった。

 人形になればよかったんだ。


■■■■■の日記

2×11年4月✕日


 だから人形になってしまえばいい


 おれのからだは、少しずつ脈打つのをやめていった

 血管は一本ずつチューブになって

 血液は蒸気のように消えていって

 しんぞうもなにもかも、形だけの細工になる


 ほら、だから もう、痛くなんか


 ない


■■■■■の日記

2×11年9月✕✕日


 りんがあの人に「自分が代わるから兄ちゃんにひどいことしないでほしい」と頼んだらしい。

 それを聞いた時、冷や汗がぶわっと出てきたけれど、あの人はどうやら約束を守ってくれたようだ。りんの身体には何もなかった。

 涙なんて出なくなって長いのに、今日は久しぶりに出てきた。

 おれのせいだ。おれが弱っちぃところばかり見せているから、りんが心配してあんなことを言ったんだ。

 変わらなきゃ。りんがもう二度とあんなことを言わないように。

 そうだ、明日からは笑ってみよう。昔のりんみたいに。笑顔でいれば、りんも安心してくれるかもしれない。

 ここから抜け出して。

 そうして、りんがまた昔みたいに笑えるようになったら。その時は、笑顔をりんに返すから。

 だから。少しの間だけ、借りるな……りん。


■■■■■の日記

2×1✕年9月✕✕日


 やっとあの家から抜け出すことができた。

 凛のおかげだ。後、よく知らないけれど凛に協力してくれたやつがいたらしい。礼を言わないと。

 母さんが目覚めて本当によかった。また、鎌倉の家で一緒にみんなで暮らせる。父さんも近いうちに目覚めてくれるといいな。

 母さんのリハビリとか、警察の事情聴取とか、まだ色々あると思うけど……きっと大丈夫だと思う。

 この日記も証拠として出すことになった。凛や母さん達に見られないように、返却の時には直接俺に渡るように頼んでおこう。

 このノートも使えなくなる。

 明日、新しいノートを買いにいこう。


■■■■■の日記

2×1✕年10月✕✕日


 父さんも目覚めてくれた。よかった。本当に、安心した。凛は昔より元気になって、笑ってはくれないけれど少しおしゃべりになった。

 昔みたいに泣くこともなくなって、少し頼もしくなった気がする。今日の朝だって起きたら既に凛が朝食を作ってた。

 しっかりしてきたなぁ。

 まぁ、未だに俺と一緒に寝たがるのは……まだまだ甘えんぼなんだろうけれど。

 もう、大丈夫だ。

 俺がいなくても凛は生きていける。

 渋っていたレ・アールへの返事も、やっと書ける。

 スペインへ行って凛に忘れられるかもしれないのは悲しいけれど、丁度良いタイミングだ。

 俺がスペインへ行って家を空ければ、凛に辛い記憶を思い出させることも減るだろう。

 凛を日本に残すのは心配だけれど、母さん達がいるからきっと大丈夫だ。

 凛……忘れたくなったら。辛い記憶も、俺のことも全部……忘れていいからな。


■■■■■の日記

2×1✕年1✕月✕✕日


 もうすぐスペインへ行くことになる。

 世界一のクラブ、レ・アールでサッカーをする。

 母さん達が眠ったままだったら、諦めようと思っていたことだった。でも、諦めなくてよくなった。スペイン語……気晴らしに勉強してて、よかった。

 うれしかった。何もかも感じないようになってたけど、久しぶりにそう思った。

 俺にはもう、サッカーしかない。

 サッカーにしか、なにも感じられないから。

 サッカーだけは、心が人間だった頃に戻れる気がする。

 凛と二人で世界一になる。

 きっと、叶えられたらとてもうれしい夢だ。

 せめてサッカーの中では、凛の世界一かっこいいストライカーでありたい。

 兄ちゃん、頑張る。

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