いつか超える未来に乾杯!(ウタ&ゾロ)

いつか超える未来に乾杯!(ウタ&ゾロ)


「そういやウタ、お前剣術使えんのか?」

「?」


ココヤシ村を出航して早数日。立ち寄った無人島でのキャンプ中に、寝ず番の私に「もうちょい飲みてェ」と付き合っていたゾロが、不意にそんなことを訊いてきた。


樽ジョッキを口に当てて首を傾げる私に、ゾロが続ける。

「アーロンとこでなんか使ってたろ」

「ああ……」

ジョッキを口から放して、私は得心の言った声で応えた。

ゾロが言っているのは、アーロンパークで使った‟心を込めた追想曲”(スピリトーゾ・リコンダンツァ)のことだ。

「使えるってほどでもないよ。あの技は見様見真似のシャンクスの技をウタウタの力で無理矢理やってる感じだし」

「ルフィの恩人でお前の親父だっけか、確か」

「うん!」

笑顔で頷いてから、私はあることを思い出して、少し顔を曇らせた。

「……そうだ、私、ゾロに謝んないといけないことがあったんだ」

「あ?」

「あのね、私ゾロが探してたミホークおじさんと知り合いなの」

「へぇ……」

特に気にした様子もなく、ゾロが酒瓶をあおる。




「ハア!?お前が!!?」



そして数秒後、吹き出しながらこっちを振り向いた。

「ゾロ、とりあえず口拭きな」

「あぁ、わりィ……」

手近なところにあった布を渡しながら、私は続けた。

「ミホークおじさんは、よくシャンクスと決闘してたんだ。私はまだ小さかったから「危ない」ってあんまり見せてもらえなかったけど、こっそり覗いたり、たぶんシャンクスが巻き込んだんだと思うけど、なんか参加してた宴で話したりもしてたの」

「まじか……」

「でも、ゾロが探してた「ある男」がミホークおじさんだって思わなくて……」

そう、よく考えれば分かりそうなものだ。ゾロの目指しているのは「世界一の大剣豪」なのだから、ミホークおじさんのことを思い出してもおかしくはなかった。

一応、思い浮かばなかった理由は、あるにはある。ミホークおじさんとはじめて会った宴のとき、「めちゃくちゃ強い剣士」とシャンクスから紹介された私は、意地をはって「シャンクスのが強いもん!」と言ったのだ。シャンクスも「だっはっは!そうだそうだ!鷹の目!俺の娘公認で俺はお前より強いぞ!」と言っていたので、私の中でミホークおじさんは「めちゃくちゃ強い剣士」であっても「(シャンクスがいるから)世界最強ではない」という認識だったのである。今にして思えば、あのときのミホークおじさんは、なんだかしかめっ面をしていたような気がする。


「別にお前が謝ることでもねえだろ」

そんなことを考えていた私に、ゾロはあっけらかんと言った。

「お前が鷹の目と知り合いだろうがなんだろうが、俺があいつに挑むことに変わりはねェ……まあ、あいつの居場所が確実にわかるなら、そいつは助かるがな」

笑いながらいうゾロに、私も「無理かなぁ~、ミホークおじさんいつもあのちっこい船でフラフラしてたし」と笑顔で返す。

私の謝罪によって生まれた妙な空気は、そんな感じであっさり吹き飛んだ。

「しかし鷹の目と互角か・・・強ェなお前のオヤジ」

「そりゃそうだよ!!ミホークおじさんとの決闘の時もね!!」

ゾロの言葉に嬉しくなった私は、いかにシャンクスが凄いかを話しまくった。

船番の言いつけを破ってこっそり覗いた赤髪海賊団の戦っているときの姿や、シャンクスとミホークおじさんの戦いの様子。それらを話しているうちに、ゾロの顔に今までとは違うタイプの関心が浮かんでくるのを感じて、私はニッと笑った。

「ゾロ今、『シャンクスの剣と打ち合ってみてぇ』とか考えてるでしょ」

「ん……へッ、そりゃまあ、気にはなるな」

「シャンクスは無理だけど、私でよければ相手してあげよっか?」

「いいのか?」

「うん、久しぶりにシャンクスたちの自慢が出来て楽しかったから、そのお礼」

そう言って立ち上がった私は、寝ず番のお供に用意していたまだ開けていない酒瓶を手に持って、昼間ルフィとの「いい感じの枝探し」勝負で集めた枝の中から、丁度いいものを一本取り出す。

「勝負といこうよ。勝った方がこのお酒ゲットね」

「構わねェが、みすみす自分の酒を手放すことになるぜ」

笑いながら歩いてきたゾロも、枝の中から手ごろなものを三本見繕う。

「どうかな?私が最初の予定通りに寝ず番をするだけかもよ」


月光の照らす砂浜で、私とゾロが向き合う。

得物は互いにただの棒、賭けるものは普通の酒瓶。それでも、勝負は勝負だ。気合いを入れようと、そうは思うのだけど——

「……ねえゾロ、どうかした?」

「なにがだ?」

「いや何か、妙に感慨深そうな顔してるけど……ひょっとしてもう酔ってる?」

「酔ってねえよ!……ちょいと、懐かしかっただけだ」

「?」

何かつぶやいたようだけど、距離もあってよく聞こえなかった。

「なんでもねえ。さっさとやろうぜ」

そう言って、ゾロは口に棒を加えた。応じるように私も、口から微かな旋律を紡いで、身体に力をみなぎらせる。


しばし、周囲には打ち寄せる波の音ばかりが響いた。

やがてその波の音の向こうから、他の音たちも主張を強め出す。

風に鳴く砂や梢、離れた場所で眠っているルフィたちの寝息、どこか遠くで魚が水面に跳ねる音——

「「!」」

最後の音を合図に、私たちは同時に走り出す。


「三刀流」

「“心を込めた”(スピリトーゾ)」


そして、一瞬のうちに交錯した。


「“鬼斬り”!!!」

「“追想曲”(リコンダンツァ)!!!」


砂を巻き上げて、私とゾロは背中合わせにブレーキをかける。舞い上がった砂が鎮まれば、再び辺りを波の音が包み込んだ。


「――――ッ~~~~~!!痛ッたァ~~~~!!!!」

握っていた棒から手を放し、私の痛みに叫ぶ声が響き渡る。

落っこちた棒は、ご丁寧に私の視線の先でボキリと折れた。

「うぅ……負けた~~」

「残念だったな。まあ悪くはなかった」

振り返れば、戦利品の酒を手にニヤニヤしているゾロの姿。

もう片方の手に示している棒二本が折れかかってるのは、私の攻撃が無駄じゃなかったことの証明だろうけど、負けは負けだ。

「あーあ。やっぱり見様見真似じゃダメか」

「だが筋は良いと思うぜ。やってみたらどうだ剣術」

「んー、いいや!私はやっぱりこっちだよ」

そう言って、昼間集めた中で一番の「お気に入り棒」を構える。

アーロンパークで折れちゃったデッキブラシ、そして船出した時に持っていたあの鉄パイプと、丁度同じようなの握り具合の棒。

「マイクさばきをベースにしたいつもの戦いが、私のやり方!私は『歌で新時代を作る女』だからね!」

ニッと笑ってゾロを見返す。

「でもそうだなぁ。もしシャンクスたちに追いついたら、その時は教えてもらおうかな、剣術。まだまだ、全然追いつけない位に遠いけどね」

そんな私を見て、ゾロも笑いながら酒瓶をこっちに差し出してきた。

「いいの?」

「戦利品をどうしようが勝ったやつの自由だろ」

「ありがと!」

樽ジョッキに、トクトクとお酒が注がれる。

「乾杯といこうぜ、俺たちがいつか越える未来ってやつに」

「いいね~!じゃあ、乾杯!」

樽ジョッキと酒瓶がぶつかって、鈍い音が響く。

夜も、目指すべき未来も、まだまだ先は長い。この無人島を出たら、いよいよ“偉大なる航路”(グランドライン)に近付く。私たちの旅は、まだ始まったばかりなのだ。





翌朝、せっかく集めたいい感じの棒が折られた事にルフィが拗ねるのは、また別のお話し——

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