いつか見た夢
※※※ このSSは他の方が以前書いてくださったクロス世界のサルベージです。
でもごめんなさい。読めばわかるけど全っ然サルベージじゃない。元になったSSが投稿された後で決まっていった要素をアレも入れたいこれも入れたいってしていったらベースはたしかにまもってるけどサルベージと言える代物じゃなくなったような。
ご理解の上読んでいただければと思います!
*****
―――お互いに、一瞬何が起こったのかわからず、きょと、っとしてしまったのはしかたないだろう
「修兵…?だよな?」
「拳西、さん…」
「う?けんせ、しゅうここにいるよ??」
ああ、そうだな…と拳西が膝の上の幼子に応える。
その幼子は、『修兵』だ。
過去に戻ったのか?
あり得ない、と思いながらも、そうとしか思えない、とも思う。
もう顔も曖昧になってしまった、100年前に可愛がってくれた人達が居る。
顔も忘れてしまったくせに、あの人達だとわかる自分がなんだか泣きたくさせたけれど、いきなり泣くわけにもいかない。
そして…
東仙さんが、居る。
同じところに、拳西さんも。
2人が一緒に、いる。
いきなり目の前に現れた檜佐木に対して騒然とならないのは、呆気に取られているからかそれとも…
「十二番隊、でしょうねぇ…。」
やれやれという声音を隠しもせずに『衛島さん』が言う。そうだ、こういう人だった―――。
*******
―――― 「十二番隊にも原因は不明だそうですが、檜佐木修兵の霊圧は修兵くんのものしか感知していないので、原因が何であれこの不可思議な状況が長く続くことはないだろうとのことでしたよ。この世界のモノで在れば霊圧を感知するはずだから、と。」
おそらくの原因と思われた十二番隊に衛島が行き話をしてきたが、とりあえずずっとこのままということはなさそうだ。
そして、状況を頭で解っていなくても、まだまだ初対面の相手は怖がるはずの修兵が、檜佐木にはすぐに懐いたのはやはり『自分』だからか。
大人達から軽く話を聞くに、『ここ』はどうやら檜佐木にとって単純に過去の世界というよりは、ほんの少しだけ異なった世界のようだ。
藍染が謀叛を起こさず、東仙も市丸も裏切らず、六車たちが居なくなったりしない世界だということがわかった。
それがわかったのは、このまえ「修兵と一緒に誕生日ケーキを作った時も拾ったときよりは大きくなったと思ったし安心もしてたが、将来は俺よりデカくなんのかよ」と笑ったからだ。
それは檜佐木が叶えられなかった楽しみにしていたパーティのことだ。
もちろん『檜佐木の世界』で何があったかなんて言えるはずもない。崎にこちらの世界のことを聞いてよかったと心底思った。
「修おにいちゃ、ほっぺた、どうやったの?」
膝の上から小さい修兵が問いかける。
「んー、やっぱりこれやりたいんだな」
「……だってね、しゅう、けんせーだいすきだもん、…しゅうも、おにいちゃんみたいにけんせーとおそろいがいい…」
69は、檜佐木が院に入る時、六車のことをなにか知ってる人が声をかけてくれるようにと、それから、『あの人が居たから自分はここにいて、死神を志した』ということを自分に刻むために育ての親であった東仙の許可も取らずに強行したものだが…。
「うんとな、これ、消えないようにほっぺたに入れるの、ちょっと痛いから、もうちょっと大きくなってからがいいんじゃないかな?」
「……しゅう、もうおにいちゃんだよ」
「え?」
「あのね、あのね、このまえはじめてひとりでねんねして、とーせんさんと、とーどーさんにたくさんほめてもらったのー!」
きゃっきゃ、と声を上げながら短い足をパタパタとバタつかせて誇らしげに幼い自分に見上げられた檜佐木は、泣きたくなった。
「東仙、さん…」
思わず視線をやると、幼子の説得に窮していると思ったのか、東仙からは穏やかな苦笑が返ってきた。
ああ、こういう人だった。こちらの彼が本来なのだと、檜佐木には痛いほどわかる。
「そうだね。修兵くんはすごく頑張ったしお兄ちゃんにもなったけれど、まだ毎日は嫌だろう?」
「………うん、しゅう、まだけんせーとねんねする…。」
「そんな顔するな修兵。俺もお前と一緒に寝られて嬉しいんだから。でもひとりでも寝られるようになってくれて安心した。でもな、ほっぺたに69を入れるのは本当に痛いから、今はやめとけ。お前が泣くのは俺は嫌だから…」
「……はぁい、」
「いい子だ」
ちょっと不満そうにぷくっと頬を膨らませながらも東仙と六車に説得されて頷いた。
「ごめんね、修おにいちゃん」
「―――っ、いや。……幸せなんだな…。」
「うん!しあわせ!しゅうね、けんせーだいすき!ましろちゃんも、かさきさんも、えーしまさんも、とーせんさんも、とーどーさんも、しんじにーちゃんたちも、…えっとね、イヅルも、ギンにいちゃんも、」
まだ言ってない人はいないか、と指折り数え始めた子に、檜佐木は微笑みかけた。
「みんな、大好きか?」
「うん!みんなだいすき!だいすきなひといっぱい!うれしいの!」
伝わったことに安心したのか、幼子は輝く満面の笑みを見せてくれた。
思わずぎゅっと抱きしめる腕を強くする。
「そうかぁ、幸せなんだな。よかった。これからも周りの人にたくさんありがとうって言って、お前も周りの人にもたくさん優しくしてあげるんだぞ。…優しさは、当たり前じゃないから、泣いてる人がいたら、ちゃんと話聞いてあげるといい」
「?」
「―――、修「ん、と、」
檜佐木に声をかけようとした六車の言葉を、幼い修兵が無意識に遮ってしまった。
「ああ、まだ難しいよな。今はまだ解らなくていい。いつかきっとわかるようになるから」
この世界と檜佐木の世界、何がどこまで違うのかはわからない。
けれどきっと、悲しいことがひとつもないそんな天国みたいな世界はないだろう。
よしよし、と頭を撫でると、『修兵』はにこっと笑った。
「修おにいちゃんは?」
「ん?」
「修おにいちゃんもしあわせ?」
「――――ッ、」
「修へ、「――ああ、幸せだよ」
無邪気な問いを六車が嗜める前に、檜佐木は応えた。
「色々あったけど、今は、大好きな人が傍に居てくれて、……幸せだ」
告げて、一瞬止まっていた頭を撫でる手を再開させると気持ち良さげに声を上げ手笑う子供。
「東仙…」
「はい。……修兵君、そろそろお昼寝したほうがいいんじゃないかな?六車隊長はこのお兄ちゃんとお話があると思うから、今日は私とお昼寝して、その後も一緒に遊ぼうか」
「ぅん、…おひるね、する…。」
それまで元気にしていたのにお昼寝というワードを効いて眠気を思い出したのか、まだぷにぷにした手で目をこすり始めた。
東仙は『相変わらず』目の不自由を感じさせない動きで近くに来て淀みなく修兵を抱き上げた。
「東仙…さん、あの……、……ありがとう、っ、ございました!」
幼い自分を寝かしつけてくれること?
違う。
この世界で裏切らないでいてくれること?
それだけじゃない。
言いたくて、言いたくて、言えないままになった…こと。
檜佐木の方を『見た』東仙の瞳に光はなく、彼に檜佐木は見えていない。
ほら、痛みのひとつもない世界などない。
それでも。
「どういたしまして。…お礼を言われるようなことは特別していないけどね。修兵君の傍で過ごすことを選んだのは私だから」
『今日一日、幼子の面倒をみるくらいたいしたことじゃない』というだけの意味だったのかもしれない。東仙にとっては。
だけど、目の奥が、熱い…
「じゃあ私達も、他隊の人間や平隊士が暫くここに入ってこないように、こっちから書簡取りに言ってきますね。彼の姿を見られたら説明が面倒です。…というわけで隊長、後のことよろしくお願いしますね」
衛島が言い、察した笠城、藤堂も続いて立ち上がる。
「修、おに…ちゃ、ばいばい」
東仙の腕の中で半分眠りながら幼い『自分』がそんなことを言って。
東仙も、衛島達も皆優しく苦笑した。
「そうだね。ちゃんとお別れを言えてよかったね。……さよならだね」
東仙が、子供に合わせるように言いながら、さよならと、こちらを向いて微笑った。
衛島も、笠城も、藤堂も、笑いながらさよならと―――。
*******
――――パタンッ、
至極小さな、扉を閉める音がして、静寂が訪れる。
一拍だけ、拳西は間をおいて、それから話しかけた。
「修兵、泣け」
「えっ、な、に…、」
修兵が意味を理解するより先に、強く腕を引かれて、抱き寄せられた。
「あ…っ、」
「…ごめんな修兵、」
「ぇ、」
「何があったたのか、俺は聞けねぇ。聞いたところで何ができるわけでもない。でも、」
顎をすくい上げて修兵の顔を上げさせ、拳西の手は触れていく。
頬の数字と、眼の傷。
幼い修兵にはないモノ。
「痛かったな…」
「あ…っ、ァ、俺…っ、」
「お前が傷ついてるってことは、俺が護れなかったってことだ。ごめんな…」
「ちがっ、拳西さん悪くない!拳、せ、さんは…ッ」
「お前は、相変わらず優しいんだなぁ。…でもな、世界は違っても、俺は『俺』のはずだから、言うぞ。 なぁ修兵、泣いていいんだ。『俺』はただお前に、泣きっぱなしでいないといけないほど傷付いてほしくないだけだ」
「………」
「お前は強くなったよ。優しさの意味を語れるほどにな。『俺』の誇りだ。だから泣いていいんだ。それから、幸せになれ」
「けッ…、ん、、ぁ、ッぁぁあああッ、ッぁぁぁぁ…っ!」
声を上げて泣いている間、拳西からは一言もなくて、それでも抱きしめて呉れるぬくもりと力強さが、独りではないと教えてくれた―――。
泣いて真っ赤になった目元を、拳西の指が撫でる。
擽ったくて、ふふ、と笑ったら、残った涙が流れていった。
多分もうすぐ、この時間は終わる。
根拠はないけれどきっと。
だから。
「拳西さん、俺、色々あったけど、さっき言った、今幸せだっていうのは、嘘じゃないよ」
戻らないモノはある。
東仙さんを憎む気持ちも生まれてしまった。
この世界の自分を、羨ましいと思わないわけじゃない。
それでも…
「嘘じゃないよ…」
「…そうか。でももっと幸せになってくれ」
「一緒、に?」
「そうだな、『俺』と一緒にだ」
うん、と応えて微笑うと、それを舞っていたかのように世界が曖昧になった―――。
*****
――――「――――ん、」
目を開けると同時に、仰向いていたところを涙が伝って耳の方に流れていくのを感じた。
「ゆ、め…?」
「どうした修兵、嫌な夢見たか」
覗き込んできた拳西がひどく辛そうな顔をしている。拳西さんのほうが泣いてしまいそうだ、なんて生意気なことをぼんやりと思う。
それだけ、心配をさせている。
修兵は、胸がいっぱいになって、微笑った。
「違うんです。良い夢。 良い夢が見れたんです。……だから、拳西さん」
「ん?」
「もう1回だけ、泣いていいですか?そしたら、」
元気になるから…。
拳西が何と言ってくれるかは解った上で修兵はそれを願ってみた。
「……いいぞ。何を思って泣いてるのかも訊かない。好きなだけ泣け。」
おいで修兵。
子供の頃と同じように言ってくれたその腕に、修兵は飛び込んだ―――。