いつかの未来、魚人島にて

いつかの未来、魚人島にて


魚人島、リュウグウ王国

街の片隅の人気のない路地裏では、一人の魚人が締め上げられていた

彼を締め上げる数人のグループもまた魚人で、その胸元には太陽と首をはねられた人間のマークが刻まれている

既に過去のものとなった筈のマークを刻むその男達は、歪んだ笑いを浮かべながら同族を睨んでいた


「お前、人間に血をやったんだってな?」

リーダー格のカサゴの魚人が、目の前のサメの魚人にギロリと目を動かす

「おれはただ、友人に血液を提供しただけだ!輸血が必要な病気だって言ってたk「恥を知れ、この裏切り者が!!」

リーダーは怒鳴った勢いで男の首を掴む

「人間に血を与えるなと、法は言っていた筈だが?」

「そんな法律、とっくの昔に撤廃された!それにお前達のマーク!」

男は叫びながら目の前にあるマークを指さす

「新魚人海賊団はもういない!あの人達に倒された!あの日、この国は本当に変わるための一歩を踏み出したんだ!!なのにお前達は!」

「そうだ。確かにあの日、新魚人海賊団は敗北した。だが、おれ達がいる限りその火は消えない。だから、死ね」

リーダーが首を掴む手に力を込めたその時だった


「何それ。ダサすぎなんだけど」


声のする方を振り向くと、そこには一人の人魚の少女がいた


「誰だ、てめェ?」

グループの一人の投げた言葉に、「それは別にいいじゃん」と少女は答える

歳の頃は10歳前後で整った顔立ち

可愛らしい花柄の着物を纏ったサメの人魚は、フィッシュボーンに編み込まれた黒髪を揺らしながら路地に入っていく

「さっきから“嫌な声”が聞こえるなーって思ってたら、随分ダサい事してるんじゃん。そういうの、今時流行らないよ?」

お淑やかな見た目とは裏腹な、活発そうな声が響く

「ダサい?おれ達は種族の誇りを取り戻すため、裏切り者を掃除しているだけだ」

「それがダサいって言ってるの。私思うんだよね。「助けたい」とか「大好き」って気持ちに、種族って関係ないって。だって私の父様は人間だけど、人魚の母様のこと大好きだよ。2人はいつだって仲良しで、見てるとここがフワフワするの」

少女は胸に手を当てロマンチックに微笑む

「ほお…つまりお前は、裏切り者と下等種族の血を引く存在なのか」

リーダーは少女に向かって視線を動かした

彼らの口の中でガリ…と小さな音がなる

「なら、お前も殺す必要があるな」

魚人達は歪んだ笑いをあげながら武器を構える

「そういう事するなら、遠慮しないからね」

少女はそう言うと、ポシェットの肩紐に下げられた短刀に触れた



*****



数分後、路地には数人の魚人が転がっていた

先程まで締め上げられていたサメの魚人は、驚いたように少女を見る

一方の少女は、短刀の刃こぼれを確認しながら「まだダメだなァ」と呟いていた

「キミ、強いんだね…!」

男が言うと少女は「まだまだだよ」と返す

「そんな事ないよ。すっごく強い」

「動きにまだ無駄が多いし、ちょっと刃こぼれしちゃったし。父様みたいな強くてカッコイイ剣士になるには、もっと頑張らなきゃ」

そう言って少女は微笑んだその時だった


「ヒクイナー、どこー?」

路地の外から女性の声がした

「あっ!母様振り切って来ちゃったんだ!」

少女は慌てて短刀を鞘に納め、転がってる魚人の懐を探って小さな袋を取り出す

袋の中からは硬貨ではなく何か小さなものが入っている音がする

「それじゃ、この人達の事は軍隊の人に連絡してね。このおクスリは私が持ってく。全部廃棄されたって言ってたけど、まだあったんだね」

少女は袋をポシェットにしまうと路地の外に向かう

「待って!せめて、キミの名前を!」

男が呼び止めると少女は振り向いて微笑み、

「私はヒクイナ、大剣豪の娘!」

それだけ言うと路地を後にした

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