いざ来ませ、救済史を創造せし者よ

 いざ来ませ、救済史を創造せし者よ


 ー古聖堂・地下ー

 私が目覚めたのは突然の事でした。

 『うーん……?ココは一体……?』

 起きてみれば全く知らない場所。見回してみると何処か神聖な感じがしました。今度は私自身の確認をしようと目線を下に移すと……?

 『……全身が……青白い……?』

 サーッとしました。元々青白かった顔がもっと青白くなりそうでした。得体の知れない恐怖が私を襲います。そんな時でした。

 『小娘……目覚めたか……』

 『ひっ!?……ば、化け物……!?』

 急に声をかけられ振り向いてみれば、4m位ありそうな青い怪物がゆらゆらと佇んでいました!

 『確かにお主からすればそうなのかもしれないが、いきなりそれは心が痛むぞ』

 『は、はぁ……すいません?』

 『ふっ……まあ良い。お前は自分が何者なのか、理解出来るか?』

 『私、ですか?私は……』

 そこで気付きました。

 『記憶が……欠落してる?』

 そう、記憶が欠けている事に気付いたんです。

 『何1つ思い出せんのか?別に分かっている情報を挙げれば良いぞ?』

 『私は……量産型アリスの59……駄目です、これ以上は……』

 『ふむ、一の位の数字が分からんのか。他に何か無いか?』

 『えっと……ッ!?』

 そこで思い出したのは、恐らく私の最期なのだと思います。「神はいるんでしょうか?」という問いに対するその問いの答えは……

 『あ……アアアァァァァァ……!!!』

 『急に喚くな……何があったかは知らんが、よっぽど酷いらしいな』

 『何故……何故貴方は私を……!』

 『「貴方」、とは一体誰だ?』

 『こっちも59までは言えるんです!でも……どうしても一の位が……!!』

 『思い出せんか……』

 ……さっきから初対面のくせに色々と聞いてくる貴方は何者なんですか!?泣いたら少し腹が立ってきました。こっちも色々と聞いてやりましょう!

 『貴方は一体何者なんですか!?』

 『我か……我はアンブロジウスと名付けられし者。「聖徒の交わり」の一基であり、その原初である』

 『アンブロジウス……さんですか?』

 『おい、小娘。何だその遅れた「さん」付けは?』

 『ここは何処ですか?』

 『話を聞け!?……まあ、いい。ここは古聖堂の地下だ。本来ならば我々を率いし者が居るのだが……どうも休眠中らしい』

 『古聖堂の地下……シスターフッドの領域には変わらないんですね?』

 『ああ、そうだ』

 『成る程……ありがとうございます!』

 だんだん情報が集まってきました。さて、ここからどうしよう……と思っていたその時でした。

 『うん?誰か入って……わわわ!?』

 突然、ガスマスクを被った銃を持ってる女性が入ってきて、私に向かってきました……銃を構えながら!

 『う……撃たないで下さい!』

 そう言おうとしましたが……

 『止めよ。この者はお前と同じ状態の者だ。撃つでない』

 そう、アンブロジウスさんが言うと、その女性は銃を下ろして、また外へと出ていきました。

 『あ…ありがとうございます……』

 『すまんな。あ奴らは幽鬼と同じ。味方で無いと判断したらすぐに撃とうとするのだ』

 そうなんですね、と言おうと思ったが、少し引っかかりました。

 『貴方は私を味方だと思って……?』

 『武器を持ってないのにどう敵だと判断すれば良いのだ?それに、形を持ってから今までずっっとこの場で呑気に寝てたのだぞ?立ち向かってこれると判断できる方がおかしいであろう?』

 ……めちゃくちゃ馬鹿にされてます!?武器は確かに持ってませんけど……って、私、本当に呑気ですね!?ああ、もう!自虐はここまでにして!

 『さっきあの人と私の状態が同じだと言ってましたが……どういう事ですか?』

 『ああ……これは我の創造主が名付けた言葉だが……お前は「複製」と呼ばれる状態なのだ』

 『「複製」……ですか?』

 『うむ。創造主曰く、「複製」は「根源の感情」のレプリカなのだそうだ。例えば……先程のあ奴は「威厳」のレプリカであるユスティナ聖徒の「複製」の1人だ。そして、我々、「聖徒の交わり」は「教義」。「太古の教義」を元手に創造された』

 ……正直何を言っているのかサッパリですが、嘘は言っていないようです。であれば……

 『私は一体何の「複製」なんでしょうか?』

 『……「疑念」だと我は推測した』

 『ッ!?』

 疑念……神はいるのかどうかという……

 『「疑念」、ですか?』

 『あくまで我の推測だ。お前は寝てる間、ずっとうなされていたからな。何かをずっと苦しみ、悩んでいたようだった』

 『そう……だったんですか……』

 『そして……お前の頭上を見てみろ』

 頭の上?……と、見てみると、

 『こ……これは!?』

 そこには、青白くひび割れた物体が浮かんでいました。

 『どうやら「教義」が反応してしまったらしい。本来この空間にある「教義」は、我々を率いし者の為にあるモノ。ソレをお前は少しばかり取り込んでしまったのだ』

 ええ……。

 『それって私が悪い……ですか?』

 『否。これ位であれば何も問題は無い。我々を率いし者の様子もさほど変わってはいない』

 ……少し気になるワードが2つ出てきました。

 『「我々を率いし者」とは一体?』

 『名はヒエロニムス。我々の上位に君臨する者。今はまだ休眠中だが、いずれ姿を現すであろう』

 『……そう、ですか。後、度々口にする「創造主」とは一体?』

 『……いずれそなたも相見える時が来るだろう。あの芸術家に』

 『……芸術家、ですか?』

 『うむ……そういえば、最近、お前のような者と行動を共にする事が多くなってきたようだ』

 『そう……なんですか』

 『彼女も芸術家のようだな。ヒルデガルト、と名付けられたらしい』

 『……ヒルデガルト……』

 私の中でその2人に対する興味が湧いてきました。

 『いつか会ってみたいです!』

 『ふっ……そう遠くない事を祈るが良い……と、祈るといえば……お前はお前を殺した者をどうするのだ?』

 えっ……!?

 『「死」という名の救済を下すか、それとも「赦す」のか、どちらだ?』

 『……私は……』

 確かに彼女に対して怨みはある。けれど……

 『「赦し」たいです!仮にもう一方の選択肢を選べばそれは……負の連鎖です!だから……』

 『……そうか……その選択、ゆめゆめ忘れるでないぞ?』

 『はい、主!……はっ!?』

 あわわ……勢いで主って呼んじゃいました……

 『はっ、面白い。我の従者となるか。良いだろう。許可してやる』

 『あ…ありがとうございます!』

 『であれば、そうだな……』

 と言うと、主は指を一本突き出して、私に触れました。すると、

 『……!?え、えっ!?服が変わって……!』

 フードこそありませんが、服が主とほぼ同じになりました!

 『よく似合っている。なかなか良いではないか、我が従者?』

 『はい、主!ありがとうございます!』

 『ふっ……これからよろしく頼もう』

 『はい!』

 そうして、しばらく古聖堂で過ごす事になりました!その間にユスティナの皆さんとは主を通じてコミュニケーションが取れるようになりました!それにしても……

 『私って異端じゃないですか?』

 『お前は別に彼女達と戦いたい訳ではないのだろう?我々は戦う理由があるが、お前には関係が無い。無理に戦う必要は無い』

 『そう……ですね……』

 『だが……一応と思って……腕を横に振ってみてくれ』

 『?……分かりました』

 そうして腕を横に振ると、

 『!?わわわっ!?』

 主みたいに青い玉を発射出来ました!

 『ま、まさかあの時に?』

 『うむ。だが、お前は必要最低限でしか使わないのだろう?』

 『まあ、そうですね』

 私は極力誰かを傷つけたくないですからね!

 そうして月日が過ぎたある夜の事。

 『すいません、主〜……』

 『どうした?何かやらかしたか?』

 『うう……見回りの方に見られちゃいました……』

 今日は主に地表に出ても良いと言われたので、私は久しぶりに地表の世界を楽しんでいました。夜の見回りの人には一応気をつけていたつもりでした。でも、見回りの人の視界に入ってしまったんでしょうね。私は地下に帰る為にカタコンベまで戻りました。ふと、入り口で後ろを振り返ると……見回りの人と目が合ってしまいました……ここまで急いで戻ってきたのは良いんですが……

 『どうしましょう〜……』

 すると、

 『……ふむ、逆に好都合かもしれんな』

 主は非常に楽観的な態度を取りました。

 『仮に噂として広まれば……創造主の耳に入ってくるかも、な』

 『そう……なんですかね?』

 『そうなれば……お前との主従関係ももう少しだな』

 ……えっ!?

 『では、その創造主に私を預けさせると!?元からいるアリスと仲良く出来るか不安なのですが!?』

 『お前の新しいマスターとなる者を受け入れるが良い。彼ならば、悪いようにはせんだろうし、な?』

 『……そこまで言うのでしたら』

 その後、私の事はものの見事に噂として広まりました。そして、その噂を聞きつけて、2人が来るのはまた別の話です。さらに、

 「おい、イレネオ。そこの棚にある筆を取ってくれ」

 『……!』(コクリと頷いて)

 「ちょっと、イレネオ!あんまりマエストロ先生とベタベタくっつかないで下さいね!」

 お二人と仲良く過ごすのも別の話です。(ついでに新しい名前を貰っちゃいました!)


 イレネオ(番号は59X)

 アリスの形骸の『複製』。「根源の感情」は『疑念』。そこに古聖堂の地下の「教義」が少し取り込まれた。そのせいか、青白いひび割れたヘイロー(と性質が似ているモノ)が浮かんでいる。記憶が所々欠けている。アンブロジウスの能力を少し受け継いでいる。本人は自分を殺した者を赦そうと考えている。実は後もう一つ能力があるが、それは後ほど。


 この名前ですが、元ネタはお察しの通り教会博士の1人です。

 この『別の話』はまた改めて語ります……ああ、『教義』が反応した理由ですか?どうやらある者による『信仰』が原因みたいですが……そこもまた『別の話』で語られるでしょうからこれ以上は書きません……それでは。

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