いかく短編にならなかった
お昼の休み時間、わたしはもはや勝手知ったる上級生の教室に遊びに来ていた。
愛する恋人の机へいそいそと駆け寄ると、座って教材の後片付けをしていた彼がにぱっと笑ってサムズアップする。
「ようアオイ!今日もお疲れちゃんだぜ!」
心が溶かされそうなあどけない笑顔に、わたしもおつかれちゃんと笑い返した。
「今日は学食行く?」
「だな。今朝はお弁当作りそびれちゃったし」
夜おそーくまでわたしをしゃぶりつくしてたもんね、とは言わないでおく。
周りの人に聞こえるし、そうでなくても求めて煽ったのが誰かの話でカウンター食らっちゃうから。
そんなわけでお利口にペパーを待っている間、近くで話している男の子二人組からチラチラと視線を感じた。
顔よりも少し下、開けっぴろげに言ってしまえば胸のところに。
「あの子さ……最近デカくなってないか?」
「ちっちゃい子だと思ってたけど意外となかなか……」
身長の話をしているわけではなさそう。聞こえてるんだけど、って言ってやろうかな。
まあでも元はそこまで気にならなかった胸元が最近それなりにキツくなってきたのは確かだし、それで変に目立ってしまっている感じもあるから、そろそろ制服を新調した方がいいのかも。
わたしが呑気にそんなことを考えている間に、いつの間にか片付けを中断していたペパーが無言で立ち上がり二人組の方へのしのしと近づいていった。
「おい!」
いつもよりもずっと低い声。怯む二人組に対してガルガルと擬音が聞こえそうな様子で続ける。
「人のカノジョに変な目向けんなよな」
どきりとした。ペパーがそんなことを明言したのは初めてかもしれない。それを、なんだってこんな時に。
こちらからは表情が見えないけど、後ろ姿からもピリピリとした感情が伝わってくる。
「お、お前……」
わなわなと震える男の子たち。まずい、空気が険悪に……。
「あんだけ長いことボケ倒しといて急に独占欲丸出しはずるいだろー!」
「特性いかく持ちがよ!チェリンボ卒業したからって調子乗んなよな!」
「つーか聞こえてたのかよ!悪かったって!」
予想に反して、男の子たちはうわーんと大げさに泣き真似をしながらドタドタ逃げていく。
……いつものペパーとの関係は悪くないのかもしれない。ちょっと安心した。
「……ボケ倒し?」
毒気を抜かれたみたいで、ペパーはさっきまでのピリつきはどこへやら、きょとんと首を傾げていた。
険悪ピンチを抜けて安心したわたしはなんだか愉快な気分になってくる。
くふふ、カノジョだって、カノジョだって!
あのボケボケペパーちゃんが他の人に対してそんなこと言うなんて成長したよね!
「ペパー、そんなことよりはやく行こ!席埋まっちゃうよ!」
「あ、わ、引っ張んなって!片付けまだ終わってな……あーもう!」
ペパーの手を取って、わたしはずんずんと進みだす。
ケンカふっかけに行くのは困っちゃうから後で注意しなきゃね、やっぱりわたしがしっかりしてないとダメダメちゃんなんだから!