いい匂いのする異性は
トレエスノホマレ(牡)今日は休養日。
それなのに、トレーナー室に足が向く。
あの人に会いたい、声が聴きたい。
自分でも何故、こんな思いになっているのかわからない。
毎朝、畑で会うのに。
「おっす!エースが来たぜ!」
トレーナー室のドアをノックし、中に入るがあの人はいない。
丁度、不在の様だ。
なんだよ、いないのかよ。
どうしてこんなに気分が沈むんだろう?自分のことなのにわからない。
そのうち帰ってくるかな?そんな期待を持ち、あの人の帰りを待つ。
ふと、あの人の席を見ると、シャツが無造作に置かれていた。
それを見たとき、本当にあたしはどうかしていた。
あの人のシャツを手に取り、顔を近づけ、匂いを嗅いだ。
本当にどうかしていたと思う。
あの人の匂いが鼻腔に広がる。
「んっ」嘆息が漏れ、胸の奥が熱くなる。
なんてことはないはずなのに、どうしてこんな思いになるんだろう?
どうして、いい匂いだと感じてしまうのだろう?
本当にわからない。
あたしはずっと、顔にシャツを押し付け、その匂いを感じる。
頭が熱くなり、鏡を見ていないが顔は真っ赤だろう。
どうしてこんなに切なくなってしまうのだろう?
「エース、どうしたんだ?何か用か?」
どれだけ夢中になっていたのかわからない。
あの人が、トレーナーさんが戻ってくるまで気づかないほどに。
本当に心臓が口から飛び出るところだった。
「え、いや、忘れ物しちゃって!よ、用も済んだから帰るわ!また明日!」
ものすごく挙動不審だったと思う。
あの人の顔を見ることもできず、シャツを握りしめ、寮へ逃げ帰る。
その後のことはあまり覚えていない。
多分、上の空のまま夕食と入浴を済ませ、床に就いたのだろう。
気が付けば、あの人のシャツを抱きかかえながら眠っていた。
その日の夜、夢を見た。
あの人に抱きしめられる夢。
本当に幸せな夢だった。
朝には少し冷静になり、"シャツをどうやって返すか"そのことで
悩むことになった。
悩んでいるうちに、魔のささやきが聞こえる。
それを実行すべく、シャツを洗濯し、あるものを付ける。
それはパーマーに貰った香水。
あたしには合わない。
パーマーには悪いが、そう思って付けてはいなかった。
本当にごく少量、ウマ娘の嗅覚でギリギリわかる量を付ける。
そして、自分にもごく少量付ける。
魔のささやきは本心か、ただのいたづら心か、それはわからない。
休養日も終わり、トレーニング前、あの人に直接シャツを返す。
「床に落ちてたから、洗濯しといたぜ。」っと適当な理由と共に。
あの人が感謝する様子に良心の呵責が多少はあったが、気にしないことにした。
あの人と同じ香り、誰も気づかないでくれと願いながら、今日も共に夢を追う。
本当に、あたしはどうかしてしまったのかもしれない。