あるTS転生牝馬の話3

あるTS転生牝馬の話3


繁殖牝馬としての活動が始まって数年が過ぎた。あれから何頭もの牡馬との種付けを行った。次第に慣れていく自分を嫌悪したが、生きていく上で仕方がない。幸いにも大体は一発で受胎したし、子供も多くが安産。病気もなくスクスクと育ち、私の元を離れていった。勝ち上がり率も中々高いようで、何頭かはG1の舞台に進んでいるようだ。


『揃ったスタート!!ハナをとったのは――――』


俺は厩務員さんにアイパッドの画面を見せてもらっていた。映っているのはG1レースの映像中継。身振り手振りで我が子達のレースへの興味を訴え続けた結果、土日にはレース中継を見せてもらえるようになった。「お前本当に変わってるな…」とか言われた記憶がある。


『〇〇〇〇〇上がってきた!素晴らしい末脚!!』


すっかり成長した我が子は現役時代の自分を思い出すような切れ味の差しで他馬を追い抜き、先頭でゴールに飛び込んだ。見事なG1初勝利。流石俺の子だ。喜びが表に出ていたのか、厩務員さんはやれやれといった感じで首をすくめる。


まぁ、自分が馬として大分外れた行為をしているのは自覚している。これまでの月日の中で愛情をもって仔を育てることの無意味さと虚しさを感じる時もあった。でも、やっぱり俺という存在としての最後の一線は超えられない。愛しいもんは愛しいし、嬉しいもんは嬉しいのだから。


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そんなこんなで過ごしていた初夏のある日。いつもの様に馬運車に乗って種付けにやってきた。経験をそれなりに積んだおかげか暴れることはなくなった。種付けにハマったとかではない。断じてない。個人的に楽に進められる方法を学んだだけだ。けど、時々気性が荒い奴をあてがうのは勘弁してほしい。たまに行為中に噛まれたりするからな。


例の行為部屋に通されたので待っていると、やけに騒がしい声が聞こえた。一瞬人間の声だと思ったが違う。この独特の響きはすぐに分かる。


『誰がこんな汚らわしいことをするものですか…!!私は―――』


人間の意識が乗ってる馬。即ち同類である。あまりにも頭にキンキンと声が響くので、思わず口を出してしまった。


『喚いてないでさっさと済ましてくれないか?暴れても地獄の時間が続くだけだぞ』


『―――――ッ!!!?貴女、言葉が分かりますの!!!??』


話を聞けば、この牡馬は前世でいいとこのお嬢様だったらしい。走るのは楽しかったが、引退後に種牡馬になって種付けするのは嫌だという。愚痴が止まらない彼女。それに対して、溜息が零れた。


『いい結果を残した馬にとっての宿命だ。長生きして安らかに死にたいんなら、大人しく種付けするんだな』


『それは…そうですけど…生理的にアレというか…』


『だったら俺と済ました方がいいんじゃないか?馬でも元人間で言葉が通じる奴なら多少は嫌悪感は和らぐだろ?』


『…分かりました』


結局、元お嬢様は俺との種付けを完遂した。ただ、思わぬ誤算というか、彼女?は無茶苦茶上手かった。只の馬との種付けでは見られない加減があった。不覚にも俺も甘い声を出してしまった程だ。その後の元お嬢様は何故かムッスリしていて、俺も胸の中がモヤモヤした。直近の馬生でとても記憶に残る出来事である。



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