ある現地人の鬱屈
────塀の向こうから水音と二人分の吐息が聞こえる。一人には押し殺せるだけの余裕が聴きとれるが、もう一人にはそれが全くない。一方的なのだろう。嬌声が拠点のずっと奥まで響いてくるくらいには。
「果てろ 「耐えるな 「目を閉じろ
果てるな」 耐えろ」 目を開け」
「────っ、ぁ あ────────!」
ぺちぺちと、情けない音が鳴りだした。
盾の少女とバーサーカーのあいつを連れて、カルデアのマスターとかいう女が現れたのが昼のこと。彼らの言う微小何某になったこの世界を消してくれるのだから、協力しない理由はない。拠点の外に聳える巨木を切り倒せば解決するというので、必要な過程を提示してやった。敵の支配下に落ちた、自分のよく知るあいつ……ランサーを救出し、宝具を巨木に向けて使わせればいい。決行は明朝にしよう、と。
夜が更けて盾の少女が眠ったころ、女がおもむろにバーサーカーを誘惑した。にやにやと笑みを浮かべて、バーサーカーの耳元を声で湿らせる。何を言ったかは知ったことではないが、まあ余程強気なことを囁いたらしい。獣の目になったバーサーカーに連れ出され……今に至る。
ああ、本当に嫌だ。こんな気分は久々だ。
何が嫌かって、あの女を抱いているのがあいつだというのが耐えられない。
何度も手を掴んで導いてくれたあいつと同じ声を、睦言に使われるのが辛い。
あれだけ女扱いされるのを嫌ったあいつが、ああも大っぴらに女としてあの女を抱いていることが信じられない。
引きずられていくあの女の目に、あいつの顔が映っていたのを見逃してはいない。
────あの女は見惚れていた。あいつの顔に。あれだけ「美しさ」を忌み嫌っていたあいつの容貌に魅入られて、劣情を抱いて、それら全てを晒した上で愛されている‼しかもランサーのあいつが「最も短気」と言ったバーサーカーに‼
嫉妬か。ああ、まさに嫉妬だろう。同じくあいつのマスターだった者として、同じくあいつに惹かれた人間として、これほどまで妬ましいことがあろうか。
……いや、もはやどうでもいい。あの女が自分の知らない旅路の中であいつの愛を「もらった」のなら、自分は──俺は、せめてあいつの望むまま尽くして捧げよう。命を投げ出してでも、汚い想いを悟られることなく。
「絶対に助けてやる。待ってろ、」
ペンテシレイア。
……それはそれとして、二十五時を回っても終わらなかったら塀を蹴っ飛ばしてやろう。