ある暑い日の話
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※スレ20番台くらいの流れを参考にしています
※あんまり性癖が壊れてないかも
親友が無防備すぎる。
それが最近のペパーの悩みである。
一時期の相棒の命に関わる深刻な悩みと比べたらどうにも平和ボケしたものではあるが、今のペパーにとっては十分に深刻で壮大な悩みだった。
わざとではないにしてもノーブラノーパンであることを正直に白状してくるだとか、たまたま部屋に訪ねていったら風呂上がりのまま薄着で出迎えてくるだとか、あまつさえその状況で自分に寄りかかったまま寝落ちするだとか!
いらん扉をどんどん開かされている自覚がある。
親友とはいえ健全な青年である自分に何をしてくれているんだと恨み言の一つも言いたいところだが、何より本人にだいたい自覚がないのが始末が悪い。
時たま気付いたと思ったら消え入るような声で……いや、思い出したらまた変な気持ちになりそうだ。やめよう。
親友として心を開いてくれているが故の無防備さであろうことはなんとなくわかる。それは嬉しい。それはそれとして、だ。
「オレ以外にもあんな無防備なことしてたらマズいちゃんだろ。ちゃんと言い聞かせねえと」
親友としての使命感のようなものが湧き上がる。天真爛漫なあの笑顔を変なやつに汚されてはたまらない。
それがただの親友としてはやや過保護すぎる感情であることに気付かないまま、ペパーは一人静かに決意した。
そんなある日のこと。年中温暖なパルデアにしてはやけに暑い昼下がり、じりじりと照りつける太陽の下で二人はピクニックの机に並んで座っていた。
「あっふいねぇヘハー」
「あっちぃなぁ……つーかアオイさ、そのアイスの食い方やめねえ?」
アオイが氷タイプの手持ちに二人分持たせて保管していた(当のポケモンは報酬のとけないこおりをいじってご満悦そうにしている)ラムネ味の棒アイスをしゃくしゃくと食べ進めながらペパーはちらりと横を見る。
小さな口いっぱいにアイスを頬張り、味わうようにちゅうちゅうと口をすぼめているところはあまり視界に収められるものではない。何故とは言わないが。
「んっ……え、お行儀悪いかな?」
ぱかっと口を開けて答えたアオイは、日差しに照らされてさっそく溶け始めたアイスを慌てて舌で舐め上げる。
その仕草もちょっと目に毒なんだけど、わかってんのかな。わかってないんだろうな。
でも行儀が悪いかと聞かれると困ってしまう。アイスに行儀を求めるヤツなんていないだろうし。
「いや自由ちゃんだとは思うけどさ……。もっとこう、噛んで食った方が良くね?」
いつかの決意も虚しく日和った言い方になるのは許してほしい、とペパーは誰に言うでもなく胸中で考えた。
理由をストレートに言ったらこっちが変態ちゃんだ。
「すぐなくなっちゃわない?」
「うーん……その方がしっかり体が冷えるだろ」
2秒で考えた言い訳にそれもそうかと頷いて、アオイはしゃくしゃくと勢いよく食べ進める。
「うっ……!?ペパーやっぱりだめだよこれ頭キーンってする!」
「そんな一気に食えとは言ってねえだろ!思い切りよすぎちゃんか!」
悶絶し始めたアオイの頭をがしがしと撫でながらペパーは思った。特性てんねんって怖い。
「しっかしマジで暑いな……」
「あー……待って……ちょっと立ち直ったらみんなを洗ってあげよう……」
「そうだな!リフレッシュさせてやろうぜ」
アオイがひとしきり悶えて回復したところで、提案通りそのあたりをうろついていたキョジオーンに声をかける。
マフィティフやヨクバリスといった比較的体の小さいポケモンたちなら寮の風呂場でも構わないが、キョジオーンは体が大きいから思い切り洗ってやるのにはやはり外がいい。
アオイもいつも乗り回している相棒をざばざばと洗い始めたようだ。
「いつもありがとうね〜」
「アギャス!」
「痒いところはないですか〜」
「ギャ?」
あれこれ話しかけながら洗うアオイの上機嫌な声になんとなく耳を傾けながらがしがしとキョジオーンの体を擦る。
建物を洗っているかのような感触はそれはそれで気分がいい。無心になって作業ができる。
と。
「わーっ!?」
じゃばぁ、とシャワーの音が乱れるのと同時に悲鳴があがる。手元が狂ったのかアオイが思いっきり水をひっかぶってしまったようだ。
「大丈夫か?」
そそっかしいちゃんだな、と流した部分の隅から隅まで丹念にチェックしてから顔を上げると、予想通りずぶ濡れになったアオイがいた。
「うわー、びしょびしょ」
「キュウ……」
「ごめんごめん、わたしの手が滑っただけだから気にしないでね」
申し訳なさそうに項垂れる傍らの竜を撫でているアオイの姿。そこまでは想定内だった。
想定外のことがあるとするならば……。
「アオイ、その……濡れてると……」
「え?」
アオイは一旦自分の体を見下ろした。きょとんとしたまま体を検分する様子は常から危惧している無防備さをいかんなく発揮している。
声は出さなかったが、その唇が「透けてないよね」と呟く形に動いたことまでペパーには視えてしまっていた。
(確かに透けてはいない、透けてはいないんだけどさ)
たっぷりとかかった水のせいで制服が体にぴたりと貼り付き、その華奢な体躯の全貌が惜しげもなく浮かび上がっている。
普段のイメージよりはっきりと形になっている胸元の膨らみも、腰のくびれのラインも、親友のそんなところを意識して見たことなんてなかったのに!
「……アオイ」
一旦キョジオーンから離れ、ずぶ濡れの親友にずいと近寄るペパー。
「……どうしたの?」
怒られるとでも思ったのか、アオイから心なしか緊張したような声が返ってくる。
「ずぶ濡れちゃんで風邪引くだろ。これ巻いとけ」
念のために持ってきていたタオルをケープのようにくるりと羽織らせた。これで傍から見てもシルエットは浮かばないだろう。
「ええー?こんなに暑いし、ナッペ山でもないのに風邪なんて」
「いーから!」
「……わかった」
強く言うとアオイはしぶしぶといった様子でタオルを手にした。
「そのまま拭いてもいいけど制服の裾絞ろうとすんなよ。シワになるぜ」
お腹が見えちゃうだろ、という本音は隠して釘を刺すと、図星だったのか唇を尖らせたアオイが巻いたタオルに少し顔を埋めた。
そして「あ」と何かに気づいたように顔を上げる。
「ちょっとだけふたりの巣の匂いがするね」
ひとの部屋の匂いだ、とへにゃへにゃ笑うアオイに毒気を抜かれて、ペパーはアオイの両肩に手を乗せた。
「オマエさ……そういうの他のヤツにはあんま言わない方がいいからな」
「うん?もちろん」
本当に何もわかってない。また今日も甘やかしてしまったことにちょっとした敗北感を覚えつつ、ペパーは少しだけため息をつくのだった。