ある日のモルガンズ

ある日のモルガンズ


 世界経済新聞社。世界政府のバックアップもあり、今では世界中にその情報網と新聞という世界情勢を伝えるすべを持つ世界最大の新聞会社。

そこで一羽の鳥と見間違われてもおかしくない男が一人、壁に貼られた数々の写真を見ながら次の記事の見出しを考えていた。

「『若き英雄』と『歌姫』の秘話に焦点を絞るか? いや、そんなありきたりでどうする! ここはこう、アイツのトラブルまみれの日常を見出しに使いつつ、二人の仲睦まじさをしっかりアピールして、新時代の到来を見せつける! そうする事で『英雄』と『歌姫』の婚約の説得力を持たせるのもありだな! 本当に最高じゃねぇか! たまんねぇなぁ!」

 一人、翼を器用に折り曲げつつ、唸るような体制に入るこの男こそ、世界経済新聞社のボス、モルガンズだ。そして、この男の注目株は現在約二名の海兵になっている。

『若き英雄』、モンキー・D・ルフィ。

『歌姫』ウタ。

 今では世界経済新聞社だけに飽き足らず、世界中の広報手法を用いた事で知名度では世界屈指のレベルにまでのし上がった二人。数多の凶悪海賊を次々討ち取りつつ、新時代のルーキーたちと常に切磋琢磨し、日夜激しい抗争を繰り広げているここ近年で頭角を現した海兵たち。

 実は、この二人は近日婚約する事が告知された。というより、モルガンズは彼らを積極的に追っている記者の役割も担っており、その過程で知ることになったのだ。彼としては世界中をお祝いムードにでもしてしまえと内心思っているのだが世間ではこの二人がそこまで親密な間柄にまで発展していると知っている者はそこまで多いわけではない。同期の相方同士という見方も少なくないため、現在は二人が親密な間柄ですよというプロパガンダを積極的にモルガンズが新聞を通じて世間に告知している状況だ。

 もっとも、記事の内容はここ最近のものやトラブルの内容の一部はその実半年は前のものを持ってきたりと一部やりたい放題ではあるがそれくらいの嘘はったりはこの男の得意分野。婚約発表してからは色々と二人のこれからをお膳立てしてしまっている有様だった。海軍本部上層部としてはもう少し手心はないのか、とたまに苦言も最近は飛んできているが勿論全て無視してしまっている。ここまで格好の餌になっている最高の逸材なのだからモルガンズとしても積極利用していきたい方針は揺るがないのだった。

「しっかし、あの旦那がここまできちまうとはなぁ。いや、只者じゃないとは思ったけどよ」

 モルガンズは記事を纏めながら懐古する。

 海軍の新兵で何かと話題にあがる問題児がいるというのが最初の触れ込みだった。

 いつものくだらない堅物かと思って、それでもたまたまなのか運命なのかはいざ知らず試しに本人と会うとそのあまりの型破りにモルガンズが驚かされた方だ。

「んー、じゃあトリでいいか?」

「じゃあトリでいいかってなんだよ!?」

 見た目が確かに鳥っぽいとはいえ、あだ名がトリというのはどういう領分なのかとあの最初のやり取りの一部を思い出す度にほくそ笑みを浮かべざる得ない。

 その後、あの二人を追っかけていく度に毎回毎回スクープのお祭り騒ぎを持ってくるのだからここまで期待を裏切ってくれない連中だとは思わなかった。それだけに飽き足らず、見事なまでの成果を上げてくるのも忘れないのがこの男の凄いところでもあった。

  王下七武海、サー・クロコダイルの企てたアラバスタ王国転覆事件解決の中心人物になり。

 元四皇クラスの大海賊、金獅子のシキの仕掛けた全面戦争終結の立役者。

 これでまだ海軍本部大佐であるというのだから海軍の層の分厚さを世間に知らしめる観点では恐ろしいアピールにもなる。まぁ実際のところは問題行動のオンパレードで、昇格してもすぐに降格させられるのがオチなのだが。

 かつての英雄、ガープの孫という重責に耐えられるかどうかなどと自身の会社の記者たちでも少し気にされていたがあの男にそんな事を考える思考回路はないのだろう。困っている人がいれば助けるし、悪い海賊がいればもちろんぶちのめす。悪しきを挫き、弱気を守るという文字通り正義の二つ名に相応しい八面六臂の大活躍で世界は新しいステージをこれから迎えようとしている。

 そんな折。

「社長! 大変です!! あの二人が!!」

「お、早速次の特ダネだな!? どんな内容が飛んできた!?」

 いつものようにモルガンズは部下の記者から持ってこられた情報に耳を傾ける。

 内容を聞いたモルガンズが顔面蒼白となった。そして、後日発行された世界経済新聞社の一面トップを飾った内容に世界は驚愕する事になる。


『英雄狂乱! 天竜人を暴行し、逃走!!』

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