ある歌姫のおとぎ話

ある歌姫のおとぎ話


彼女だけが知ってるお話。


あるところに一人の女の子がいました。

名前はウタ。海賊の一員で歌うことが大好きな女の子でした。

ウタは人気者で仲間達から愛されていました。

「私の歌でみんなを幸せにする!」

それがウタの夢でした。



ところがあるとき他の海賊達にウタはオモチャに変えられてしまいました。

■■は身体と声と名前を失って、みんなから忘れられてしまいました。

一緒に冒険した仲間たちも、お父さんのように思っていた人も、もう誰も■■を覚えていません。

大好きだった歌を歌おうとしても出るのは錆びついたオルゴールの音だけです。

■■はひとりぼっちになりました。

■■は悲しくてわんわん泣きました。

けれどもボタンの目では涙は流せません。



オモチャになった■■はある男の子の元へ渡りました。

その男の子はかつて■■と大切な約束をした友達でした。

彼もやっぱり■■の事を忘れていました。

けれど彼は言いました。

「おまえ歌が好きなのか?ならこれからおまえの名前はウタだ!」

こうして■■はウタになりました。

ウタは嬉しくてわんわん泣きました。

けれどボタンの目では涙は流せません。



10年の時が過ぎました。

男の子はすくすく成長して強い海賊になりました。

ウタは変わらず人形のままです。

けれど彼は言いました。

「おれはお前と冒険したい!おれと一緒に海賊やろう!」

こうしてオモチャのウタは海賊になりました。

ウタは嬉しくて今度もわんわん泣きました。

けれどボタンの目では涙は流せません。



それから男の子とウタは冒険をしました。

雪の島、砂の島、空の島。

出会いと別れを繰り返して仲間も増えていきました。

ウタは昔を思い出して嬉しくなりました。

しかしあるとき強い敵が現れて仲間たちはバラバラになりました。

もう2度と負けないために仲間たちは離れて修行する事になりました。

ウタはまたひとりぼっちになりました。

けれどもう泣くのはやめました。

仲間たちとの約束があるからもう涙は流しません。



2年の時が過ぎてウタは男の子や仲間たちと再会しました。

男の子も仲間たちも成長して強くなりました。

ウタは変わらず人形のままです。

けれど再会が嬉しくてウタはぴょんぴょん飛び跳ねました。

それからまた男の子とウタと仲間達は冒険をしました。

深海の島、炎と氷の島、そして─オモチャが暮らす島。

そこにはウタをオモチャに変えた海賊達がいました。

ウタを元に戻すため男の子と仲間たちは懸命に戦いました。



そして─ウタは元の姿に戻りました。



ウタは嬉しくてわんわん泣きました。

もうボタンの目ではありません。涙がポロポロ流れます。

泣きじゃくるウタを男の子は抱き締めました。

ウタはもうひとりぼっちでは無いのです。


「一緒にいてくれてありがとう。

 大切にしてくれてありがとう。

 今度は私が助ける番。

 私の歌でみんなを幸せにする!」


ウタの歌声は島中に響きみんなの元へ届きました。

歌声は戦いで傷つく人々に癒しと安らぎを、

戦っている男の子や仲間たちに力と勇気を与えました。

もうウタはオモチャではありません。

ウタは歌姫になったのです。


戦いが終わり勝った男の子にウタは言います。

「あなたがウタと呼んでくれたから、

 あなたが私を見つけてくれたから、

 だから私は幸せだった。

 どうか叶うならこれからも、

 私を冒険に連れてって。」


男の子は言いました。

「ああ。おれもお前と冒険したい。これからもおれと一緒に海賊やろう。」


とびきりの笑顔と大粒の嬉し涙を流して、歌姫のウタは海賊になりました。


オモチャのウタのお話はこれでおしまいです。



歌姫のウタのお話はここからはじまります。

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