ある夢を見た

ある夢を見た



ふと目が覚める

重い瞼が開き、薄暗い部屋が広がる

どうやらあれは夢だった様だ

私は思わず胸元を見る

あの時あの人を魅了したそれ

豊満だったそれは慎ましさを取り戻していた

夢だからと思いため息をつく

でも、夢だとしても

あの人の笑顔もあの時の幸せな日々も夢だった

その事実が私の心に突き刺さる

今は目覚めていたとしても

夢の中の私は今頃あの続きをしているのだろう

そう思えば思うほど

私の心は空虚な気分になった———


授業が終わり、トレーナー室へ入る

今日は大雨でミーティング

しかし部屋にあの人はいない

書き置きを見るとどうやら会議の様だ

ソファに腰掛けるとそのまま脱力して横たわる

静かな部屋、普段は好む場所なのに…

ただ今はそれがどうしても辛い

今朝の空虚さと夢の中の私への嫉妬…

気付けば私は泣いていた。泣いて泣いて泣いた

その時である———


「どうしたのカフェ?」


あの人が帰ってきて優しい声で私に呼びかける

私はこれまでのことを話す

夢の事…この空虚さの事…あと胸の事…

そしてあなたの事が好きだという事…

夢の様にあなたと一緒にいたい事…

恥ずかしい話なのに縋る様に想いをぶつける私

彼は黙って話を聞いていた

すると———


「俺も好きだよカフェ」


たったシンプルな言葉

飾るものがないまっすぐな言葉

でもそれは、私が何より望んでいた言葉

いつかその言葉を聞きたいと

いつかその言葉に応えたいと


そして今、夢見た事が現実になった


「こちらこそ…おねがいしますっ!」


気付けば雨は止んでいた———



ふと目が覚める

瞼が開き、光が差し込む景色が広がる

横を見れば愛しいあの人の寝顔

あの時以来あの夢は見なくなった

いや、見る必要が無くなった

あの夢より私のそれはまだ慎ましいけれど

それでも夢の私よりもっとずっと幸せだと感じる

夢の世界で私の理想だけを演じているあなたより

この世界で気ままでそして優しいあなたが好きだから


ただ一つだけ、ある夢を見る様になった

私とあの人、そして子供達と暮らす夢


でもあの時の様に空虚にならない

きっとこの夢も見る必要が無くなるから

確証はない、でもそうだと言い切れる

だって私は———


「あなたの事がだいすきですから」






私が新しく見る様になったとある夢

私の秘めるある種の憧れとも言える夢

だけど暫くしてそんな夢を見なくなった

でもそれはまた別の話———

Report Page