ある夜のお話
左胸に頭を擦り寄せる。
魔力で編まれた仮初の身体でも変わりない、規則正しく生命に満ちた音がした。
「………晴信」
返事は無い。健やかな寝息。時々寝返りと鼾。ごく稀にむにゃむにゃと寝言。晴信の発するささやかな音一つ一つが愛おしい。
「ねえ、晴信」
生前は晴信が先に逝ってしまった。死を知らされたその日から、景虎の世界は白黒になった。カルデアでは数年待たされた。仲良しのサーヴァントは出来たけど、その中に晴信は居なかった。召喚室であの赤と白鼠を見た時はどれだけ嬉しかったことか。思わず挨拶代わりの頭突きをかましてしまった程だ。
「……………………私のことを避けないでくれて、ありがとう」
大体の人間は奇矯な言動を恐れて逃げていくというのに、晴信はなんだかんだ言いつつ景虎から離れようとしない。……離れないどころか酒を飲み交わし、二人で朝を迎えるような関係になるとは景虎も予想していなかったが。
「……晴信」
これからもよろしく。カルデアで色々な思い出を作りましょう。こんど先に逝ったら許しませんよ。
精一杯の想いをこめて景虎は名前を呼ぶ。
「また、いっぱい楽しいことしましょうね」
晴信が狸寝入りしていることを、景虎はまだ知らない。