ある地域に伝わる昔話
昔々ある村に1人の少年が居りました。少年は優しい心と強い正義感を持っていました。
ある日少年はとある少女と出会いました。彼女は美しい紫の髪をしていましたが、「紫の髪だなんて不吉だ」として村の者に酷い扱いをされているのでした。
「そんな理由で女の子をいじめていいわけがない。ぼくがやめさせよう」
少年は村の者たちに、少女を虐めるのをやめるよう言いに行きましたが、誰も聞き入れてくれません。それどころか忌み子をかばったとして少年の家族までもが虐めの対象になってしまうのでした。
しかし少年は説得を続けました。
そんな日が続くうちに、事件は起こりました。少女が籠にぶつかり、お祭りのための果物を地面にばらまいてしまったのです。
村の者たちはかんかん。道具まで持ち出して、少女を痛めつけました。
少女を叩き罵声を浴びせる人々の中には少年の家族の姿もありました。
少年は驚き悲しみましたが、勇気を振り絞って少女の元へ向かいました。そして村の者たちから少女をかばい、逃がしてやりました。
逃げ出した少女の分と、忌み子をかばう愚か者としての分。少女に向けられたものよりも強い敵意が少年に牙を剥きました。
少年は悪意に押しつぶされ、ついに動かなくなりました。
村の者たちは動かなくなった少年を村から離れた暗い森の奥へ置いていきました。
そうして逃げ出した忌み子を罰するため探しに行くのでした。
森の奥に捨てられた少年は時と共に影の中に溶けてゆきました。しかし深い悲しみと強い憤りが少年を生まれ変わらせたのです。
産まれたての赤ん坊のような小さな身体は足元に伸びる影のように真っ黒で、その姿に見合わない大きなちからを宿していました。
目は頭から流れた血に染まり、鎮まらない感情は少女の色を映し出します。
優しさは影の中に置き忘れてしまいました。
生まれ変わった少年は小さな足で村へ向かって歩いて行きました。
少年が村に着いた時、少女はもうどこにもいませんでした。
燃え上がる赤がかつての家族を捉えました。
「こいつらは他者を踏みにじった『悪』だ」
ぐっと握られた拳が次々と「悪」を砕いて行きます。
少年が手を止めた時にはもう、村には誰もいなくなっていました。
少年の中の記憶も全て燃え尽きて消えました。
そうして彼は、自らの内なる衝動に突き動かされるがまま悪を裁く紫の炎となったのでした。