ある医大生が風変わりなドールオーナーになった訳

ある医大生が風変わりなドールオーナーになった訳



その当時の俺は、まさしくがらんどうだった。生きているという実感が根こそぎに奪われてしまったような…何故そうなったのか…忘れてしまうくらいに酷いことが起きたらしい。

がらんどうであることを忘れたくて必死に医学書を読み込み、脳に知識を詰め込んだ。それでも俺は空だった。抜け殻のような自分自身が嫌で、しかしどうにもできないまま日々をやり過ごすのが続いた。

そんなある日、俺は通りがかった店で彼女と出会った。ふわりとした茶色い髪、薄桃の麗しいドレスを纏った彼女は俺に優しく微笑んでくれているように見えた。

彼女と出会った日、俺は抜け殻じゃなくなった。

それから俺は彼女と暮らすことになった。彼女も俺と暮らすことに異論はないようだった。

彼女に名前が無かったので、俺が名付けることになった。

サキ。

彼女を見た瞬間からこの名前以外に考えられなかった。

名前を付けてから、俺とサキの関係も決定付けられた。恋人として。


サキと出会い暮らし始めてから俺は抜け殻ではなくなり、医者としての道を邁進した。

医者になってからもサキは側にいる。サキが俺から片時も離れることはない。そして俺は彼女を離さない。

ただ、サキを狙う輩は多いようで、いつもあらゆる人から見つめられてしまう。彼女は魅力的だがああも不躾に見られるのは恋人としてノーセンキューだ。風変わりと囁かれるのも、だ。アイツらは聞こえていないとでも思っているのだろうか。恋人と離れないのがそんなにおかしいのか? くっつきすぎとはサキにもよく言われるが…。

彼女から離れるなんてとてもじゃないが考えられない。俺の日々はサキに生かされていると言っても過言ではないだろう。

今日もそうだ。

俺は腕の中にすっぽりと収まった可愛いサキに愛していると囁きかける。

そしてサキも囁き返してくれる。


(わたしも愛してるよ、ヒイロ)


Report Page