あるほし身体測定後編
今日の活動を終えた私は、D.U.への電車に乗り込んでいた。
ずっと忙しかったから、なかなか彼女に会えていない。
会いたい、なんて、モモトークを送ればきっと彼女はすぐ来てくれるんだろうけれど
それが気恥ずかしくって、つい、偶然、みたいな言い訳が欲しかった
そんな気持ちだったからか、電車の時間はあっという間に過ぎ去って、彼女が住んでる地域についてしまった
「……いるかな、アル」
そんなことを思いながら、私はD.U.の街をさ迷い始めた。
「……」
それから、数分もたたないうちであった。
自販機の前にたたずむ一つの背中を見つけた。
少し離れていてもわかる長身。
それこそ、目の前にある自販機よりも少し高いほどの背丈。
着ている服は、どこか無理をしているようで、彼女の体つきを周囲にアピールするかのようにパツパツに張り詰めていて。
そして、何より……私が探している人と同じ髪の色をしていた。
「……ホシノ、どうしたの?」
「うへっ、ア、アル……だよね?」
そんな風に、警戒もなしにぼーっとしていたら、いつの間にか彼女に近づかれていた。
見上げた彼女の雰囲気は、以前であった時とまるで変わらない。
変わったのは、その体……。
よく気が付かなかったね?っというと、最近忙しくて……。と、へにゃりと笑う。
「それにしても、私、どれくらい大きくなったのかしら」
そして、彼女が漏らしたのは、そんな言葉。
……だから、私は、ちょっとだけ呼吸を置いて。
「……じゃあ、ちょっと私についてきて。身体測定、しよっか」
彼女と、そんな風に、ふたりっきりになれるように誘うのだった。
「おかえりなさいませ、アル様。こちら、スイートのキーです」
何度か、彼女といったホテルへと足を向ければ、入った瞬間に、キーを手渡される。
アルは、それを、当然のように受け取って、私を誘う。
「……高いんじゃ……」
「あら、気が付かなかった?ここ、身内よ?」
そういって、通りすがりに、会釈をする従業員を、いや、制服を見れば、胸元には薔薇の勲章。
……私が身に着けたアクセサリーと、全くおんなじ形状をしている。
そういえば、フロントで待って居たのは、生徒だった。
つまりは、きっと、そういうことだろう。
「さて、じゃあ、身長からかしら?ついでに、ホシノも測る?」
「……私は伸びてないと思うけど……うん、お願い」
彼女は、さっそく係員がもってきたメジャーで私の背丈を測り始める。
数値はいつもと変わらない。145センチの小さな体。
「ん、やっぱり変わらないかー。次は、アルね」
「えぇ、お願い」
彼女は私に目線を合わせるように少しだけ屈んで、メジャーを渡してくる。
……少しだけ近づいたいい香りに私のおなかの下のあたりが、きゅん、っと疼いて仕方ない。
「じゃあ、はか……ちょっと、椅子がいるね。これ」
「そうね……。んー、結構大きくなってるみたい」
成長前でも、だいぶあった身長差だけど、今や、私の視界には、アルの胸しか入らない。
これで、自覚がなかった、というんだから……。どういう風に過ごしてきたのか少しだけ気になる。
けれど、優先するのはアルのお願い。
椅子に乗って、頭の先から、床までを丁寧に測る。
メジャーのメモリは、百七十を簡単に過ぎ去って、百八十も超えて、……九十に届く前にピタリ、と止まる。
「ひゃくはちじゅう、なな」
その数値に、少しだけ飲み込むのに時間が必要だった
「嘘、そんなに伸びてたの?……。病気とかじゃ、ないといいんだけれど」
「ほ、ほかも調べるから」
私は、そのまま、体のあちこちをメジャーで測っていく。
それこそ、採寸もかくや、というほどに。
結果と言えば、大成長。
体つきも、がっちりとしてすっごく、頼れる、大人の女性の雰囲気を醸し出してる。
「んー。服あるかしらね」
なんて、ベッドに座って、呑気なことを言ってるアルが足を組めば、それだけで色っぽい。
「……ホシノ」
「うへぁ!?……あ……」
私の体は、アルに軽く押し倒された。
その事実に、私は、愕然とする。
私には自覚があった、実力があるっていう、自覚が。
少なくとも、アビドスのみんなを守るくらいできると、思ってた。
なのに、相手が、好きな相手だっていうのを差し引いても、いきなりされたのに。
何もできずに、正面から、抑え込まれた。
ちょっと、ほんのちょっとだけ、好奇心に惹かれてアルの力に、抗ってみる。
ちゃんと力を込めて、弾き飛ばすつもりで。
「ん?今日はそういう気分じゃないの?」
……駄目だった。
本気で、やったのに。彼女の体は吹き飛ぶどころか、軸さえブレずにがっしりと私のことを抑え込んでる。
「……ううん。お願い……来て」
それは、つまり。
目の前にいる、愛する彼女に対して、私は、何の抵抗もできない、かわいらしい、ただのお姫様になったことの証明