あるほし後編
がたん、ごとん。
そんな風に深夜の電車が揺れている。
私の今の気持ちは、落ち着いている。
涙はたくさん零した。
弱音も、彼女相手に、たくさん吐き出した。
だから、行く必要はない。
もう、体を売るつもりだって、ない。
けれど、私の体は、不思議と、あの場所へと向かっている。
もう、……一か月。
四回だけとはいえ、夜の見回りもさぼって、アビドスから離れているなんて、異常だと、自分でも思う。
「……調べは、ついた」
ここ最近、私は、ずっと、彼女について調べていた。
名前なんて、教えてもらえなかったから。苦労すると思ったけれど。
彼女は、このキヴォトスにおいて、あまりにも有名になっていた。
薔薇のヘイローの少女。
陸八魔アル。
便利屋68の女社長。ゲヘナの脱走生徒。
肩書はいくつもあったけれど。一番はそう。
悪魔と天使の支配者。
その情報を知るのに、手間などかからなかった。
彼女は、多くの生徒を食い散らかし、今や、ゲヘナとトリニティは彼女のモノ。
そう、実しやかにささやかれている中。
それだけではないのを、私は知っていた。
たった、一日……いや、一夜だけのことだけれど。
「会いたい……」
彼女に、会いたい。
私には、分かる気がした。
あの子が巨大なハーレムを作り維持できている理由が。
きっと、その子たちは私とおんなじなんだ。
助けられて、手を伸ばされて、包まれて。
そして、彼女に愛される。
どれだけ幸せなんだろう。どれだけ、安心できるんだろう。
「……でも、……」
もしかしたら、もうここには来ないかもしれない。
多分、あの日、彼女がここに来たのはきっと、相手がいなかったから。
ゲヘナの件も、トリニティの件も、そのあと。
それなら、もう、ここにくる理由なんて……。
そう思いながら、私は汚れた壁に寄りかかって、路地を見る。
まばらに街を行きかう人たち。
「……ぁ」
そんな中に、居た。
彼女がいた。
それを見つけて、私は、思わず駆け寄ろうとして、立ち止まってしまう。
辺りに、何人も引き連れている。
薄い灰色の、悪魔の子。
紫色のコートの小さな、同じく悪魔の子
桃色の髪に、羽の生えたかわいらしい天使の子。
そんな女の子に囲まれている彼女が、こっちに来るなんてことはない。
「帰ろ……」
見せつけられて、理解した。
あの場所に自分の居場所はない。
私は、彼女の目から隠れるように、暗がりに逃げようとして。
「どうしたの?」
その手を、彼女につかまれた。
「うへー……待たせてる人、いるんじゃないの?」
「貴女が見えたから、先行ってもらうように言ったわ」
どくん、っと、胸が高鳴る。
あぁ、単純だ。
でも、そんな心とは裏腹に冷静な頭は、彼女から離れようとしている。
相手は多くの生徒を相手にしている。なにか、理屈がないと。私の中で納得しない。
「……そういえば、まだ、お金の分、シてもらってなかったわね」
まるで、心を読んだみたいに、彼女は私に、都合のいい理屈をくれる。
「……そうだね。契約は、……大切だ」
逃げようとしていた私の、足が止まる。
「今日、付き合ってもらえるかしら」
理性的に足を止めようとする私への言い訳は、それで十分だった。
あの日と同じホテルに、彼女に手を引いてもらってはいる。
私も、うつむいて。あの日とおんなじ。
違うのは、……。私が俯いている理由だけ。
「やっぱり、緊張する?」
「うへ。……まぁ、初めて、だから」
息を吐いて。ベッドに、二人一緒に座る。
やり場のない私の手に、彼女に手を重ねられ、柔らかく握られる。
私よりも一回り大きな手。
「安心しなさい。ちゃんと優しくするから」
そんな温かさに包まれたまま、私は、彼女の下へと組み敷かれる。
そのスカートから覗くのは、巨大な肉の棒。
ゲヘナと、トリニティを落としつくした、快楽を与えるそれが、今、私の目の前にあった。
「……」
「あ、やっぱり、おどろいちゃった?」
「ううん、大丈夫」
けれど、私の恐れはない。
恐らく、彼女に落ちたほとんどの子がもったであろう満たしたいという性欲もない。
ただ。
「……」
そっと、彼女が出したそれに触れる。
熱くて、硬くて、大きい。
「きて、ほしい……」
ただ、それを受け入れることに、私は……ひどく満たされた気持ちになっていた。