あるちゃんの舌遣いInゲーム研究部

あるちゃんの舌遣いInゲーム研究部


それは、特に特別ではない依頼。

とはいえ、普段は戦闘系の依頼を主にしている便利屋としてみれば、それが大人からの依頼でも戦闘系の依頼でもないのは珍しかったが。

ともかく今、私たちは、ゲーム開発部のデバッグを手伝っていた。


「ねぇ、アルちゃん」


そんな時。部活のメンバーであるモモイが話しかけてくる。


「なによ?まだデバッグは終わってないわよ?」


画面を見ながら私は、適当に答える。

数日がかりでもまだ終わらない仕事の間に彼女の性格はおおよそつかんでいた。

またぞろ、何かの影響を受けてきたに違いない。


こういう時は、適当に会話を打ち切るに限るのだ。


「アルちゃんってお嫁さんいっぱいいるんでしょ?」


「……」


今の私にとってはめちゃくちゃ答えにくいことであった。


確かに関係を持った相手は多くいる。

だが、明確にお嫁さんといっていい相手かどうか。いろんな意味で問題があるのだ。

便利屋内の正妻戦争という意味でも、トリニティのお嬢様たちの家柄的にも。


実際に、便利屋オフィスたちに彼女たちは来る。

だが、その中で、……彼女たちの気持ちはどうあれ、私を自分のモノにする―。という子はいない。


だから、ここで、迂闊なことは言えない。

行ってしまえば最後、今の状況はますます激化するだろう。


「……アウトローな女には、いつだって相手がいるものよ。それに、そっちは本題じゃないんでしょ」


だからこそ、適当にけむに巻く。

彼女のいいぶりからしても、何人の相手がいるかを探ろうとしているわけではなさそうだし。


「うん、そうそう、えっと。これ!」


「……サクランボ?」


そういって、取り出してみたのは、サクランボ。

しかも、普段だと食べれないちょっとお高いやつ。


「そう!キスが上手い人ってサクランボの茎を舌で結べるっていうでしょ!私は飲み込んじゃったんだけど、……アルちゃんならどうかなー?って」


「……それくらいなら、まぁいいけれど。眉唾でしょ」


「じゃあ、はい!スタート!」


そういわれて、口に突っ込まれる。

だが、その瞬間口の中に覚える違和感。


……三つ。

舌先に触れる感覚が、多い。


「ふふ―!小粒ながらも三つ子のサクランボ。アルちゃんは果たして結べるでしょうかー!」


どんなノリなのよ。

とは思いながら、まぁ、サクランボのお代。と考えれば安いわね。


口の中で、ぷちぷちとヘタとサクランボを切り離して、口の中でくちゅくちゅと転がして、みずみずしい果肉の甘味を味わったら、種と皮を吐き出して、飲み込む。


「ん、みてなはいよ」


舌先に、三又の茎があるのをモモイに見せつけ、それを口の中に入れる。


しばらくの間、私がコントローラーを操作する音と、くちゅくちゅという水音だけが、部屋に響く。


「ほら、ほれで、どう?……ん、モモイ?」


「あ、え、えっと、す、すごいね!アルちゃん!ちょ、ちょっと用事思い出したから席外すね?」


そういって、彼女は、すごい勢いで飛び出していく。


「……なんだったのかしら」


……飛び出していったモモイの耳が真っ赤に見えたのは、きっと、気のせいだろう

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