あるあこ導入

あるあこ導入


「まさか、風紀委員が攻め込んでくるなんてね。社長どうする?」


結局彼女についてのことを話せないまま。数日。

私たちのオフィスは、あっさりと風紀委員の子たちに囲まれていた。


「そうね。どうとでもなる、というところかしら」


戦力で言えば、……正直な話。

いった通りだ。どうとでもなる。


少なくともイオリに関しては、私との……『交戦』のせいで数日は動けない。

実際に、彼女はこの場にもいなかった。

そして何より、ヒナがいない。


人数こそいるが、そこに、核となる人物がいない。

勿論、指揮官相当の子や、顔を覚えている相手もいないわけではないが、戦力としての彼女たちに脅威はないだろう。


それこそ、弾切れ以外に恐れるものはない。

それも、この場がオフィスである以上、気にする必要はない。

ないのだが……。


「でも、何で襲ってきたのかなー?」


「最近、依頼はおとなしいものが多かったですよね……?」


そう、二重の意味でおかしな話だ。


仮に今回の襲撃がイオリを私が襲ったことに起因するものであるのならば、人数をもっと……いや、ヒナが出てくるだろう。

だが、彼女がいないということは、そうではない。

そして、ゲヘナの一斉検挙、というのであれば、この人数を私たちに差し向けるのは戦術的ミスという他ないだろう。


私たち以外にもゲヘナには多くのアウトローがいるのだから。

ならば……。


「あの行政官の独断。なら、交渉の余地があるわね……ムツキ、ハルカ!オフィス周りの子たちをやっちゃって!カヨコ!車出すわよ」


「目的地は?」


「風紀委員のオフィス!」



「……今回の風紀委員の襲撃を便利屋との演習として今回の話を手打ちにする……。今、私がここであなたを倒しても問題がないと思うのだけど」


そんな戦いから一時間。

私は今、一人で風紀委員長空崎ヒナの前に立っていた。


当然な話だ。彼女の戦力はほかの風紀委員と比べ物にならない。

いや、風紀委員は、彼女がいるからこそ成り立っているといって他ならない。


実際以前にも私は彼女に何もできずに敗北している。

だが、……今回は違う。


「……万魔殿にたいしてわざわざカードを握られるのを良しとするのなら、ね?」


オフィスに流れる沈黙。

この場にいるのは、私と、彼女と、行政官天雨アコの三名のみ。


「……続けて」


「今回の風紀委員の襲撃、今私を倒したところで、上げられる戦果はゲヘナ一のアウトローの私の身柄だけ。対して、あなたたちの損害は?」


そう、普段の偶発的遭遇ならいい。

単純に私たちに襲撃されて、きしくも敗北、逃げられたなどといえる。

しかし、今回はどうだろう。自発的に攻撃を仕掛け、動員した部隊はほとんど壊滅。そのうえで、得られた戦果がわざわざ自分たちのところに出向いてくれた相手を倒しただけ。


仮にもゲヘナの中枢である万魔殿と風紀委員の対立はよく知られている。


「はぁ……そうね。そっちの言葉に乗ったほうが、まだ風聞がいいわ。便利屋への報酬として……今回の弾薬と治療費、引っ越し費用。それと……この子を一日。好きにしていいわよ」


「委員長!?な、なんでですか!?」


「……実際に今回はこちらの敗北よ。この場に彼女一人しかいないのが証拠。今ごろ部下の子たちは逃走準備を終えているだろうし、もしこちらから攻撃を始めても逃げ仰せられるわ」


そういいきった彼女は、冷たく視線でこちらへ行くように行政官へと促す。

彼女の表情はまさしく絶望、といった風に落ち込んで、とぼとぼと、私が入ってきた扉を抜けていく。


とりあえずは、一息、といった所だ。

作戦は成功した。


後は、私も撤退して……。


「あぁ、そういえば、陸八魔アル」


「な、なにかしら?!」


唐突に、呼び止められる。

まさか、やっぱり潰そうと!?


「……たまにはイオリに会いに行ってあげてね?あの子、あぁみえて寂しがり屋だから」


「……善処します」


とりあえず、……報復攻撃の恐れはない、ということが分かっただけ、良しとするべきだろう。

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