ありがとう
名無しのファン「ギィィィヤァァァ!!??」
ドレスローザ地下の港で少女の絶叫が響き渡る。
少女の名前はシュガー。触れた人間を人形に変えるホビホビの実の能力者。人形に変えられたものはその存在に関する記憶がこの世界から消滅し、シュガーの命令に従うようになる。
ドレスローザに置いて彼女の存在は最も重要な存在だった。何せ彼女の能力はドンキホーテ海賊団によるドレスローザの支配の中心。だからこそ最高幹部の一人でもあるトレーボルをつけていたのだ。
なのにたった一つの、吹けば飛ぶような小さな海賊団の戦力としても使い物になるかどうかわからない男の、末期の絶叫と想像を絶する辛さから来るリアクションの顔を間近でみたせいでその重要幹部が気絶するなど誰が思う。
しかしそんなことはどうでもいい。重要なのはシュガーが気絶したという事実。それは彼女の能力が解かれるということ。
人形達の魔法が解ける。失われた全てが帰ってくる。父を失った子供。妻を失った夫。仲間を失った人々。記憶からすら消えた人達、記憶を失わされた人達。困惑、恐怖、様々な感情か彼らに襲いかかる。そしてそれは怒りへと変わっていく。この状況を作り出した元凶。ドフラミンゴへの怒りへ。
王宮に入ったルフィ、ゾロ、ヴィオラ。ヴィオラは唐突に思い出す、自身の義兄、キュロスのことを。
「義兄さん・・・!?」
そう言って窓の外を見る。外はまさに阿鼻叫喚だった。それもそうだろう。それまで人形だと思っていた彼らが人間で、人形にされた人達のことを忘れていたのだから。
その時後ろで何かが蠢く気配を感じた。
「・・・ハァ・・・ハァ・・・!?」
「・・・え?」
ヴィオラは困惑していた。先程までルフィと共にいた人形。確かウタと言われていたか。その人形がいた場所に少女が立っていた。人形と同じ赤と白のツートンカラーの髪の毛、紫の瞳、服はボロボロで所々彼女の柔らかな肌を露出していた。
「女の子?」
「・・・ハァ・・・ハァ・・・!?」
ルフィは頭を抱えて蹲っていた。脳内に溢れ出てきたのは13年前のフーシャ村の出来事。共に競い合い、遊び 、仲良くなって、別れを惜しんだ友達。共に新時代を夢見た少女。その少女の名は・・・
「ウタ・・・?」
「る・・・ふぃ・・・?」
彼らが向かい合う、そして
「ウタァァァァァ!!」
ルフィは力強く抱き締めた。
「ごべん、ヴダ!俺、バガだがら"!あ"んな"に"遊んだの"に"。全部忘れ"で!人形になっでだお"前を"ボロ"ボロ"にじで!ごべん、ごべん!!」
泣きながら彼女に謝罪する。
「だい、じょう、ぶ」
ウタがたどたどしく言葉を口にした。
「え"!?」
「るふぃ、が、なまえ、よんで、くれた。しゃん、くすも、べっく、まんも、るぅ、も、みんな、が、わすれた、わたし、の、なまえ。るふぃは、よんで、くれた。るふぃだけ、は、わたしの、こと『うた』って。いって、くれた。だから、いきて、こられた。」
そう言って言葉を一度切り、
「ありがとう、るふぃ」
そう言って微笑んだ。
「ウタァ!」
また彼は強く彼女を抱き締める。
「あそこだ!!」
「!!」
そこにはドンキホーテファミリーの一員達が走ってきていた。
「あの野郎を倒せば昇格できるかね!」
「ヴィオラさんも裏切っていたのか!」
彼らが迫る。そしてその中の一人が
「なんだ?あの女?あいつも捕らえたら金にな」
そこまで言った直後、何か協力な圧を感じて彼らは気絶した。十数人いた彼らを何もさせず昏倒させる。それは間違いなく『王の資質』を持つ達が扱える力、覇王色の覇気。
「え?」
ヴィオラは千里眼で周囲を見る。するとどうだ、別の階層にいたドンキホーテファミリー構成員の者達が次々と昏倒していた。
「ヴィオラ、ウタを頼む」
ヴィオラはルフィを見る。その顔は未だかつてない程の『怒り』の感情を露にしていた。
「ドフラミンゴ・・・」
静かに敵の名前を口にする。そして
「ドフラミンゴォォォォォォ!!!!」
極めて協力な覇気を周囲に放ちながらドフラミンゴの元に向かっていった