あめはやがてあがるもの

あめはやがてあがるもの



……え。

(彼から告げられた衝撃の真実に頭を捻っていたら、何か始まった)

(…そんなに古くから?と驚きと共に衝撃が走る)

(だって、初めて彼と自分が会ったのはもう15年近く前の話だ。そしてそれ(恋)に気付いたのが5年前…あぁ、あの雨の日……)(…えっ。あの雨の日なの?)

(待って。思ってた以上に彼の話のスケールがデカイ。マズイかも知れない)


…それは。

(知っている。…貴方はそういう人だ)

(聞きたい事だって沢山あっただろうに、貴方は何も聞かなかった。ただ変わらずにいてくれた)

(変わらずに、あってくれた)

(それは貴方の底深い優しさの証左だ)

(ずっと、救われていた)

…気付いてたんだね。タオルは…

(あの頃は戻りたかったのだ。『聖地』に送られる前の自分に。でも刻まれた記憶と刻印はそれを許してはくれなかった)

(だから立ち止まれなかった。動き続ける事で過去を振り払おうとした)

(前だけを向いて、動き続けて。振り返らない。幸い暇とは無縁の職場だ。その忙しさに身を委ねるのは簡単だった)

(動き続けていたのは意識的だ。でも、立ち止まり休む相手を選んでいたのはきっと無意識だ)

(…彼に言われて、今更気付くなんて)


………。

(言葉に詰まる)

(つくづく、欲しい優しさをくれるのが上手い人だと思う)(優しくて、温かくて…少しズルい人)

(そうやって貴方は、そんなに沢山の思いを抱えて、それでもそれを隠し通して生きていくつもりだったのか)

(私の為に)

(「傷付けたくなかったから」なんて、たった一つの思いを貫く為に)

…そんな…

(それでも尚、貴方は待てるというのか)

(私が過去を、傷を傷跡として話せるその日まで)

(抱えて、隠して、ただ待ち続けて)

(そこまで考えてたと?)

…それは。うん…

(私もそう思う。諜報を生業とする身からすれば完璧だろう。私は完敗した形だ)


(…もしかして私は、貴方が隠していたとんでもないモノを抉じ開けてしまったのではないか)

(後悔は、していないけれど)

(そうじゃなきゃ、どうしてあの日、貴方は私を見つけに来たの)

(この身を蝕む嵐が過ぎ去るのを待つだけだった私を)

(私に全部ぶち破られたっていうけれど、その切っ掛けを作ったのは貴方)

(どうしようもなく罪作りなのは、貴方の方じゃない?)

(ねぇ、タオル?)


………っ。

(ここまで押してきて、最後はやっぱり引くのか)

(最後の一手は、いつも私任せ)

(ズルいなぁ。貴方は)

(…まぁ、貴方が思ってるよりかは酷い事はされてなかったと思うよ。私は)

(何時か、近い内に話してあげる。貴方に免じて)

(貴方になら、話してもいいよ)


…伝わってるわよ。溺れそうなぐらい。

(彼の話が終わって、手の平に口付けを贈られて)

(やっとの事で出てきた言葉は、酷く熱に当てられて掠れていた)

(あぁ、逃げ場がないなぁ)

(こんなの、溺れて沈んでいくばかりじゃないか)

(甘くて、苦くて、幸福(しあわせ)だ)

(そんな思いが過った)


…だって、両手が塞がってるんだもの。

(あぁ、よかった。漸く雨が降り止んだ)

(太陽が、戻ってきてくれた)

(安堵から、つい頬が緩んで笑みを浮かべる)

(その表情が、酷く泣きそうな、泣き笑いの顔だという事に彼女は気付かないけど)

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