あの日の貴女はとても、
※⚪️が誰かと結婚してます(相手は自由に想像してください)わ
ん
く
⚪️📣⚪️
初めて貴女と一緒に走った時、その美しさに目が離せなかった。
白く輝く肌も髪も、筋肉が均等についた身体も、何より、最後の最後まで粘り続ける、真っ白な姿に似合わぬ走りも。
私たちのレース生活は瞬く間に過ぎ去って、あの走りは過去になってしまった。
学園を去り、数年経ったある日のことだった。
「……え、」
🌸🌸🌸🌸🌸
「______わあ!」
「ソダシめっちゃ綺麗!!」
ある年の春、彼女は白いドレスを身に纏って私たちの前に現れた。
「いや〜まさかソダシが結婚するとはなあ!!」
ある同期が言う。
そう、ある日彼女から手紙が届いた。『結婚する』んだって。手紙とともに送られてきた写真に写るのは、記憶の中の彼女より少し大人びた姿と、隣に写る優しそうな顔。
ああ、この人と結婚するんだなって思った。写真の中の2人は幸せそうな笑みを浮かべている。
______羨ましい。
______妬ましい。
彼女と結婚できるような男が憎たらしかった。
彼女のことは、私がきっと1番分かっているはずなのに、私が1番長い間一緒にいたはずなのに。
どうして、隣にいるのが私じゃないんだって。
そう思っていた。
昨日までは。
🌸🌸🌸🌸🌸
「______あ、」
『新郎新婦』が、会場へ入る。
白いタキシードに身を包んだ新郎は、少し大柄な彼女より頭1つ分高い。写真と変わらず優しげな雰囲気の男だった。
彼女は、白いドレスを身に纏っていた。桜の花びらのように広がる裾、細かなレースの装飾、派手すぎないアクセサリー、全てが彼女の美しさを損なうどころか引き出している。
「______綺麗、」
自然と、言葉が零れ落ちる。
と、同時に頬の輪郭をなぞる雫。
それは、どんな涙なのか。
私には分からなかった。
不意に、彼女と目が合う。
こんな顔見られたくなくて、思わず顔を逸らしそうになる。
だけど、彼女はまるで学生時代に戻ったように、幼い笑みを見せた。
🌸🌸🌸🌸🌸
時間はあっという間に過ぎて行き、式は終わった。
家に帰った途端、一気に襲いかかる疲労感。着替える間も無くベッドに倒れ込んだ。
ふとスマホを見ると、彼女からメッセージが来ていた。
『今日は来てくれてありがとう』
『貴女凄く泣いていたわね笑』
『泣くほどアタシの花嫁姿綺麗だったかしら』
『でもエールも相変わらず綺麗だったわよ。改めて、来てくれてありがとうね』
「……っ」
それはきっと、他の人にも送っているような他愛もないメッセージ。
だけど、それでも私にとっては十分だった。
ねえ、ソダシちゃん。
たとえば、私がもし男の子だったとしたら、私にも結婚できるチャンスはあったかな?
そう思ったところで、ソダシちゃんの結婚相手を思い出す。
きっと、私が男の子だったとしても、チャンスはなかったかもね。だって、あの人絶対良い人だもん。
私は、『私がソダシちゃんのことを1番分かっている』って思っていたの。
だけど、あの人の隣にいる時のソダシちゃんの顔は、見たこともないぐらい幸せそうで、私でも踏み入ることのできないような雰囲気だった。
「______ああもう、私ってば本当にバカだ」
たかだか幼なじみが、つけ入る隙なんてないのに。そう思うとなんだか全部どうでもよくなって、お腹が空いてきた。
何かあったかな、と冷蔵庫の中を覗こうとしたけど、ある箱が目に入った。
それは、引出物のバームクーヘン。
どんな皮肉よ、とは思ったけど、まあお腹の中に入るなら何でもいいかな。
引出物のバームクーヘンに一口齧りつく。ホワイトチョコのかかったそれは、どことなくソダシちゃんっぽい。
優しい甘さのバームクーヘンが、少しずつ私の中に入っていく。それはまるで、ソダシちゃんに対する想いが消えていくようで、少し哀しくなった。
食べ終える頃には、想いはほとんどなくなっているような気がした。
ソダシちゃん、今日の貴女はとても綺麗だったよ。
このバームクーヘンとともに、貴女への想いはもう消し去ってしまうね。
大好きだったよ、ソダシちゃん。