あの日の光

あの日の光



ねぇ、ドフィ、一緒に世界を見に行こう!

そんな言葉とともに突然、旅に連れ出された。でも、ローに見つかるといけないから、小さな島の中でも外れた村を転々とする。そんな生活は嫌な記憶を思い出させた。俺は天竜人なのに、ゴミ漁りなんかしなくちゃいけなかった生活。

おまけに嫌だったのは、同い年の下々民との交流だ。語尾が変だと笑われて、叩いたら親に言いつけられ、今横にいる保護者面した女にも怒られる。幼少期に耳馴染んでいる言葉遣いは、天竜人特有のものらしい。それでバレて、また逃げる。注意されるけど口調は簡単に直せないから、また同じ事になる。嫌にもなる筈なのに、この女は大丈夫、いつかドフィにも素敵な友達ができるよと俺の手を引いて笑うのだ。イライラして、手を振り払った。

「お前に何が分かるんだえ!

やっぱり、俺には普通なんて無理なんだえ!

だって、だって…俺は、父上を殺したのに…!!」


目の前の女の顔が、歪んだ。


最初の町で、仲の良さそうな親子を見かけた。

あの日、父上が天竜人だった事を気軽に言わなければ、母上とロシーも生きてて、あんな風に俺たち家族も笑っているはずだった。


さっき出た町では、遊ぶ時に服がいつもボロボロの奴が居た。訳を聞いたら、うんと前に母さんは病気で死んで、父さんは忙しいんだ、でも仲良いんだよと笑っていた。小さな宿屋の硬いベッドで起きた朝、ソイツが父親であろう男に肩車をされて楽しそうに笑っているのを窓から見て、心がグチャグチャになった。

だって、それは、俺が父上を殺さなかったら、手に入ったかもしれない光景だった。

あの時はアレしかマリージョアに戻れる方法は無いと思った。なのに、このザマだ。父上は、何のために死んだんだ?

どうして、俺がー

「お前らと仲良くなんかなれないえ!俺は、天竜人だえ!」

「じゃあ、今、なんで泣いてるの!」

絡まった激情のまま叫ぶと、怒鳴られた。人に大声を上げられたのなんて、あの時以来だ。驚いて固まると、女はボロボロと、顔をグシャグシャにして泣いていた。ギュウッと痛いぐらいに抱きしめられる。

「あんな、他人が傷ついても笑ってるような天竜人なら、こんな事で泣いたりなんかしない!お父様のことで泣いてるあなたは、ちゃんと、私達と同じ人間よ!」

そう言って子供みたいにワンワン泣きじゃくる彼女を見て、ずっと忘れていた父上の言葉を思い出した。

「私達も人間ですよ、昔から」

あの日確かに聞いた優しい言葉を思い出させてくれた人の涙は、不思議とあたたかかった。




チュンチュンと小鳥の鳴く声でハッとして起き上がる。あんな悲痛な声で寂しい事をいうドフィが悲しくて、気づけば私も泣いていた。二人して泣き疲れて眠ってしまったみたいだ。もう天竜人の地位を捨てた彼への迫害がこんなに酷いなんて、私も認識が甘かった。視線を落とすと、誰も居ない。慌てて腕の中に居た子を探すと、呆れたように声がかけられた。

「やっと起きたのか、ぇ…」

「ごめんドフィ!寒くなかった? あ、こういう時は、おはようございます!って言うんだよ!」

「おはよう、ございます、だ…コラさん」

「うん、よくできました!んー、“だ”は要らないかな?おはよう、ドフィ!」

「き、矯正中だ…!」

なんか拗ねたように言って歩いていく彼を追いかけようとして、足が止まる。


ん?ドフィ、今、初めて私のこと呼んでくれた?え?


漸く頭が追いついた私が感極まって、可愛い子に抱きつくのは、今からそう遠くない話だった。


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