あの子の好きなうどんバーガー

あの子の好きなうどんバーガー

ナナシ

「パパー。うどんバーガーってパンにおうどん挟めば作れるの?」


目に入れても痛くない愛娘がそんなことを聞いて来たのは、何の変哲もない休日の朝。

たまたま探偵事務所を休みにしていた僕は、少し目を丸くして娘の問いかけに答える。


「そうだね。でも、ただ挟むだけじゃバンズがぐちゃぐちゃになっちゃうから、うどんの麺を揚げたりすることもあるよ」

「揚げたおうどんも美味しそう!」


うどんバーガーかー。

昔、USA君たちとWデートした時にお昼にうどん屋さんに行きたい東郷さんと、ハンバーガーショップに行きたいUSA君がケンカしたことがあったっけ。

確かその時に友奈が折衷案としてうどんバーガーを食べれるお店を紹介して、仲良く四人で食べたことがあったんだよね。

思い出したら久しぶりに食べたくなってきたなー。


「そんなに食べたいなら、今日のお昼はうどんバーガーにする?」

「ううん! 食べたいんじゃなくて作ってみたいんだ!」


目を輝かせる娘の言葉に驚く。

積極的に家事を手伝ってくれる優しい子だけど、自分から料理をしてみたいって言われたのは初めてだったかもしれない。


「じゃあ、パパと一緒に作ってみようか」

「うん! パパ大好き!」


あぁ天使。

友奈にそっくりな満開の笑顔を見てるとこっちも嬉しくなってくる。


「出来たらパパにもあげるね!」

「それは楽しみだなー」

「あ、パパだけずるいよ~。○○ちゃん、ママにはくれないの?」

「ママにもあげるー!」

「わーい! ○○ちゃん大好きー!」

「えへへ~」


愛しい妻と可愛い娘が笑顔で抱き合ってる光景……ここは天国かな?

わざわざ神様になんてならなくても、楽園は自分の手で作れたんだ。


「パパ、ママ! 私頑張って作るから、美味しいハンバーガー食べさせてあげるね! いつも頑張ってるお礼!」


あぁ……なんて優しい言葉なんだ。

友奈みたいな良い子に育ってくれて、パパ感無量だよ。


「でも○○ちゃん、うどんバーガーなんてよく知ってたね?」


そういえばそうだ。

家族で食べに行ったり、テレビで見た覚えもないから、学校の友達に聞いたのかな?


「うん! ○○君に聞いたの!」


○○君はUSA君と東郷さんが溺愛している長男だ。

二人に似てとってもいい子で、赤ん坊の頃から知ってる僕としても息子のような大事な存在だ。

……○○ちゃんともとても……うん、とても仲良しなんだけど、なんというか……父親としては複雑な気分です。


「あー、そっか。○○君のパパとママは家でうどんバーガーを作ることも多いもんねー」

「それでね! ○○君ってうどんバーガーが大好きなんだって!」


……あれ? なんでだろう。

なんだか僕の中の父親アラームが警報を上げているぞ?


「だから、私も○○君が好きな料理を作れるようになりたいの!」


…………ああ、娘の姿が友奈のために美味しいうどんを作れるように頑張ってた子供の僕とダブる……。


「いいねー! 美味しく作れたら○○君も喜んでくれるよー!」

「本当、ママ!? ○○君喜んでくれるかな!?」

「ぜーーーーーったい、喜んでくれるよ! 大好きな子からの手料理だもん! 私だって今でもワイ君……パパの料理食べれたら心がポカポカするし……」

「私もママとパパの料理食べれると嬉しいよ!」

「わー! やっぱり○○ちゃん大、大、大好きー!」

「私もママのこと大、大、大、大、大好きー!」


天国と地獄って同時に作れるんだね。

愛娘の成長や言葉は嬉しいし、友奈への愛おしさも限界も超えそうだけど、同時に義息子……違う!

……息子みたいな○○君への形容しがたい感情も抑えきれそうにないよ???


「だから、パパに教えてもらって頑張って美味しいうどんバーガーを作れるようになるの!」

「……○○ちゃんは○○君のことが好きなんだねー」

「うん! 将来お嫁さんになるの!」

「お、お嫁さんはまだ早いかなーって……。ほ、ほら! まだまだ○○ちゃんは料理とか洗濯とかいっぱい覚えないといけないことがあるからね? そういうのを全部覚えてからじゃないとお嫁さんにはなれないというかしたくないというか……」

「うんっ! だから一日でも早くお嫁さんになれるように花嫁しゅぎょー頑張る!」


…………USA君今度一発殴らせて。

それがダメなら飲みに付き合って。


「ママは応援するよー! ○○ちゃんなら絶対に○○君の良いお嫁さんになれるもん!」


二人が結婚したら東郷さんと親戚同士かー、なーんて嬉しそうにポヤポヤしている我が妻を見ながら悟る。

これはもう時間の問題だなーっと。


「パパ! 私頑張って美味しいうどんバーガー作れるようになるね!」

「……うん。頑張ろうね、○○ちゃん」

「うんっ!」


その日、初めて娘と一緒に作ったお昼ご飯はとっても美味しくて。

そして、ちょっとだけ塩辛いお昼でした。

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