あの世より、祈りを込めて

あの世より、祈りを込めて


楠木殿「ほおー!新田殿のご子息も父君に負けず劣らずお強い!見事な腕前にござるなぁ」

正季「おおー!首を取った!いやー、 あの年で大したもんだな!」

諏訪殿「いやはや、仇敵の子息とはいえあのような武に長けた将が若君と同陣営に居てくれるのは有り難いことです…!」

楠木殿「ふふ、仇敵とは手を組み、かつての味方と闘う。乱世極まれりといったところでござるな」

正季「…兄者、自分なら高兄弟をどう攻めるか考えてるだろ」

楠木殿「んん~?局所戦なら兎も角、この情勢では拙者に出来る事は無い なぁ。尊氏殿の陣営が足場を固めすぎでござるよ…。」

諏訪殿「…確かに。京を確保し、足利一門と高兄弟が京周辺の戦略拠点を悉く押さえている。地方の一合戦で勝利を上げても足利に付き従う武将達の層の分厚さで折角獲得した土地もすぐに取り返される。…じり貧ですね」

正季「何だよ諏訪殿まで!?腹立つな、顕家卿も新田殿も…時行殿、も 奮戦してんだぞ!……何とかなんねぇのかよ兄者!!!」

楠木殿「落ち着け正季。今の情勢では、だ。」

諏訪殿「おや、ここから挽回出来る道があると?」

楠木殿「……尊氏殿がどこまで気づいているかによるが…、不和の種はもう芽吹きつつあるでござろう?」

諏訪殿「…ああ…。我らが対峙した時はあれほど結束が固く見えた足利家が…」

正季「………気に食わん。内部の崩壊待ちかよ」

楠木殿「政権が倒れる時はみなそうだ。かの清盛入道も頼朝公も権力の委譲が上手く行かず他家に付け込まれた。一族の結束固き足利家といえど、その問題からは逃れられんだろうよ。」

正季「けど今んところ不穏なのって尊氏の弟の直義と執事の師直だけだろ?有力な一門は他にも沢山いるし、何なら尊氏の長男がいるじゃないか。あの二人が権力争いをするってんなら尊氏が二人を切り捨てた後に長男に全権を集めて、自分は後見に回れば良い。 …だろ?」

諏訪殿「…果たして足利尊氏という男がそれをやりますかね?」

正季「ええ…?いや天下を纏める為ならやるしかないでしょう諏訪殿。清盛入道も頼朝公も権力闘争の中で身内を討ってる。兄者、天下人ならそれくらい出来なきゃ駄目なんだよな?」

楠木殿「…そうだな。天下を握った者は皆身内殺しという煉獄の炎に炙られ、塗炭の苦しみを味わった。権力を盤石の物とする為に。……そして今、天下に手が届くであろう足利尊氏という男が、その段階に来ている。やがて起こるだろう配下達の争いに直面した時に、尊氏殿がかつての天下人達のように冷徹に断を下せると良いのだがな…」

正季「おう、やるだろあの男なら。      …あれ?ちょっと待て!駄目じゃねーか上手いこと行ったら!」

諏訪殿「はっはっは!先の事はまだ分かりませんよ?ですから私は最後まで若達を応援するのです!」

正季「おお!そうですね諏訪殿!よっしゃ俺も気合い入れて顕家卿を応援すっか!」

楠木殿(…尊氏殿、お主がこれから歩む道はこれまでとは違う色の血に塗れた道になる。…願わくばそのどす黒い血の道の中に、お主が何よりも、誰よりも愛している弟の血が混ざらぬ様に祈っておるよ…)

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