あのこのむかしばなし

あのこのむかしばなし


今でもはっきり覚えてる


息が白く染まる程


冷えた日だった


あの出会いが


今の「うち」を


作った。











  あのこのむかしばなし:Another Story

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昔から白山の人とは仲が良かった。と言うより、うちら黒川家は遠縁の親戚らしい。

特にうちの父と白山の当主は互いを名で呼び合うほどの仲だった。

まあ、それで宴会等もあるもので色々な話が耳に入る。


「そういえば、統也。あの娘は如何なった?」

「ああ、一会か。忌み子の癖してしぶとく生きとるよ。全くとっとと去ねば良いものを・・・」

「まあそう言うな、あんなモノでも使い道はいくらでもあるだろう。」

「ははは、それもそうだな!」


幼いながらに色々黒いところを見てきた。

その黒いところに家が関わってるのが嫌で嫌で仕方なかった。




そんなある日、村にとある噂が流布し始めた。

友達曰く、『白山の忌み子が蝶々と会話ができる』と言ったモノだった。

最初は信用ならなかったが、大人たちまで騒いでその忌み子のところに行くものだかから、少し気になって誰もいない時を見計らって覗いてみることにした。





そこには全ての光を吸い込んでしまいそうな射干玉の髪と

深海のような深い群青色の瞳をした

傷だらけのうちと同い年くらいの子がちょこんと座っていた。






「みんなが見に来てるのここ、だよね?

 あれ、女の子がいる・・・お〜〜い、大丈夫〜〜〜?」

「だぁれ?私のこと見に来たの?」

「そうなのかな〜・・・?てか怪我やばいじゃん!

ちょっとおいで、手当したげる。」

「え、でも・・・・」

「いいの、いいの!うち黒川花美ね。あんた名前あるん?」

「・・・・白山、一会。」

「一会ちゃん!いい名前やん。・・・うわぁ、怪我ひどぉ・・・。

 この火傷とかどうやったら付くん・・・

(ジュッチュウハック、家の関係だろうなぁ・・・ごめんね)」





綺麗な子だった。

「一会」

その名の通りもう彼女のような人に会うことは二度と無いだろう。

皆んな彼女のことを忌み子だというがそんなこと無いとうちは思う。



「今日はね〜・・・じゃ〜ん、どんぐりの首飾り!

 これ自分で作ったんよ!すごいやろ〜!」

「・・・・綺麗な形してるんだね」

「な、そう思うやろ?!これ頑張って同じ形のどんぐり探したんだよ!凄ない?!」


「これな、オオバコっていう草なんよ。

 これで草相撲しよ〜よ!ルールは簡単ね、先にちぎれたほうが負け。

 はっけよ〜〜い・・・のこった!!!」

「は?ちょっと待ってよ?!早い早い早い!!!」

「はははwうちの勝ち〜〜!一会はまだまだですなぁ〜?」


「うちは将来、花屋さんになるの!花って綺麗じゃん、

 それでみんな笑顔になれば いいな〜って!」

「ふ〜ん・・・頑張れば。」

「ちょっと〜!反応うっす〜い!」



今思い返すと、とんでもなく危険な行為だったと思う。

仲良くしているのが見つかったらどんなの目に遭うのか、予想はつく。

でもめげずに彼女の元へ通った。

彼女が笑わないかなと考えてあの手この手で遊んだ。




なのに、その毎日をぶち壊す奴がいた。




「花美、お前毎日どこに行っているんだ?」

「お花摘みに行ってるんだよ!花冠うまく作れるようになりたいんだよね〜。

 友達と作るんだ!」

「・・・そうか。ああ、そうだ。花美には言っておかなければならん事があるな。」

「?なぁにね、珍しいねそんな事あんの」

「いや、たいしたことでは無いんだが。白山の忌み子がいるだろう。アレを『器』として使おうと言う話でな。私たちも一枚噛ませてもらえることになったのだよ。」


何を言っている?

その生き物は何か鳴いていたが、よく聞き取れなかった。

お前のせいか、あんたがいるからここはどんどん腐っていく

器にする?ふざけんな。んなこと許すわけねぇだろうが!!!!!!!!






ガンッ







気がついたら足元には血の海が広がっていた。父親が倒れ伏していた。自分の手には飾ってあった模造刀、その鞘にはベッタリ血がついていた。

1番最初に殺したのは自分の父親だった。



亡父には息子がいなかったので自動的に娘の自分が村長となる。

あの忌々しかった面布を自分がつけることになるとは

こんなに早くつけることになるとは予想してなかった。

家の人々には「父が突然倒れた。さっき脈拍と呼吸を確認したがどちらも止まっていた。」と言った旨の説明をした。

全員見事に騙されてくれた。

持ち前の演技力と、今までイイコちゃんで過ごしてきたお陰だと思う。

嬉しい誤算だった。


そして色々なゴタゴタが片付いた後、一会に会いに行った。



その日は朝からとても気温が下がった。

相変わらずいつもと同じように身支度を整えた。

感覚が寒さのせいでいくらか麻痺していたので少し慣れるのに時間を要した。

昼になっても温度が上がるどころか若干雪がチラチラ降り出してくる始末だった。


久しぶりに会いに行った一会は傷がさらに増えていて痛々しかった。

そんな彼女は私の顔を見るなり目を見開いた。当然だろう。

だってこの村の長が代々受け継ぎ、身につける面布をつけていたのだから。



「花美・・・?どういうこと?」

「どういうこともこういうこともないって。見たまんま。

 てか気づかなかったの?黒川ってのはこの村にうちら以外にはいない。

 ほんとあんたって無知だよね。」

「気づけるわけない!!!だってあんなによくしてくれた!!!

 あんな奴らみたいに私のことを・・・!」

「まじかぁ・・・あれただの演技だったんだけど。

 なんていうか・・・そんな信用してたわけ?うちのこと。

 そりゃ嬉しいこったね。ごめんだけど、頭ではずっとあんたのこと貶してたよ?」

「じゃあなんで優しくしたの?!なんで光を見せたの?!

こんな風になるなら見たくなんてなかった?!なのになんでっ・・・」

「あー、もう!うるっさいな!!!うちらは上辺だけだったつってんの!!!

 いい加減理解しろよ、この人間のクズ」

「・・・・大っ嫌い、花美なんて、大っ嫌い!!!!」

「勝手に嫌えば?元々よろしくするつもりとかなかったし。

 じゃあね、これからうちここの村長だから〜。」





痛かった。

本当は駆け寄って抱きしめたかった。

暫く会えなくてごめんと言いたかった。

またあの頃みたいに遊びたかった。

あの子を連れて外の世界を見せてあげたかった。

一緒にこんなクソみたいな箱庭から逃げ出したかった。


なのにあんな言葉しか出てこない。

なのにうちはこの「村の長」としての言動しかできない。

なんでよ、なんで、なんで、なんで!!!


うちは親友のことを見捨てた、最低な野郎だ。




「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



それからは地獄だった。

食事はいくら食べようとしても胃が受け付けず真面に取れなかった。

睡眠不足のせいで病弱になった。

村長としての激務と過剰なストレスによって倒れる事が多くなった。

それでも遠回しに一会に様々な不幸が降りかからないよう、精一杯努力した。


そんな話を中には『慰み者にする』と言うのもあった。

うちはもちろん大反対した。

基本、全ての決定権はうちにあるのでこう言う立場は利用し放題だった。

しかし、何故か最終決定案がうちの方に流れて来ず、彼女を「そう」すると言う話は決定事項として扱われてしまった。


まずい、このままだとあの子が壊れてしまう。

うちは打てる手は全て打ったが、結果が何も変わらなかった。


そんなタイミングで、とある女性がうちの村に来た。

「こんにちは。桜宮朱音と申します。本日はこちらの調査に来たのですが。」

「こんにちは。この村の村長をしております、黒川花美です。宜しくお願い致します。」


またまた嬉しい誤算だった。

彼女には悪いが、少し利用されてもらおうと思う。

土壇場で台本も何もない完全なるアドリブだが完璧に演じ切ってやる。


「本日はどのような御用でこちらに?」

「ええ、実はですね。こちらの村に連続殺人犯が逃げ込んだ可能性がありまして。この人なんですが・・・見覚えはありませんか?」

「・・・ああ!数日前に此処に来ましたね・・・。」

「左様ですか。彼が今何処に居るか分かりますか?」

「さあ・・・。ですが、こう言った人が逃げ込みそうな場所はわかります。」

「本当ですか!案内していただくことは可能ですか?」

「ええ、勿論です。此方ですね。」


そうして、一会がいるであろう牢の近くまで誘導した。

決定したと言うことは誰かしら人はいるだろう。彼女なら気づくはず・・・

そう言う完璧なる希望的観測により、果たして成功した。


一会はあの朱音という女性によって連れ出されたようだ。

よかった、これで彼女がこれ以上傷つく事がない。

連れ出される彼女たちを見送って背後を振り向くと

大量の農具を持って武装した村人たち。

彼女を逃した時点でこうなるのは予想がついていた。さあ、此処からが本番だ。


「おい、如何いう事だよ。何であの忌み子がいねぇんだ!」

「そうだそうだ!大方あんたが逃したんだろ!!」

「先刻、女連れて牢へ行くところ見たって奴がいるんだよ!!」

「見損なったよ、折角いい人だと思っていたのに」


ギャイギャイと罵る野郎ども。その目は侮蔑と憤怒に満ちていた。

ああ、いけない。感情を抑えなければ。


「その様に騒がなくても大丈夫です。アレはもうこの村にはいないのですから。

 元々殺す予定だったのです。むしろ手間が省けました。」


ずっと汚い声をあげる奴等。ほとんどが男性だった。

ああ、ああ、ああ!五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!!消えて仕舞えばいいのに。

お前等のせいであの子は壊れたんだ。全部、全部壊れて仕舞えばいいのに!!!!


「『器』は他に幾らでもいるでしょう。問題は何もありません。・・・では来月にある祭事の日程確認がありますので、私はこれにて。」


そう告げると部屋に戻った。何を言ったかはよく覚えてない。

それからうちは術式を使ってとある事象を占った。

それは、『この村は滅ぶか如何か』。


これは誰にも話していないのだが、うちの術式は不確定要素が大きい代わりに

占われた未来は必ず結果の通りになるという強制力がある。

そうして、この占いの結果は・・・


______________________________________


「いやあ!!!」

「なんだ?!体がっ、勝手に・・・うわああ!」

「ヤダァ、やめてぇ!!」



「おー阿鼻叫喚やん、でもな・・・あん子が味わった痛みよりはマシやろ」

「・・・・めて、やめてください、お願いします・・・」

「何言ってるん?辞めるわけないやろ」

「大事な人もいるんです、みんな。こんな、こんな・・・殺し合いさせるような真似はやめてください・・・!」

「はあーーー、解っとらんなぁ。あんたここの村長なんやろ?だからや。だからこんなことをしてお前に見せとるんよ。自分が放置してきたことをちゃあんと噛み締めな」

「っ・・・・!」

「でもそろそろ飽きたなぁ・・・・もう人もおらんなってきたし。あんた殺して終わりにするわ」

「なら・・・なら最期に一つ聞かせて・・・・あの子は、一会は元気なの?」

「?一会・・・誰や。」

「あなたの親が連れて行ったんでしょ、今はどうなの?」

「ん〜・・・・・?ああ!礼佳のことやな!そんな心配せんでも元気にやっとるで?まあ、死ぬあんたには関係ないことやけど」

「そう、ならいいんだけど。(ちょっとだけでも時間稼ぎを・・・!)」

「ま、ええか。ほなな」ザンッ

「はっ・・・・あっ・・・ゲホッ」ドサッ

「・・・・これであの子の復讐もできたやろ」








一会、ごめんね


今までああなるまで放置してしまった

もっと、もっと早く私が動いていればよかったのに


ねえ、また遊ぼう

またお話ししよう

また会いたい

ずっとずうっと友達だよ


大好きだよ







目覚めてからは何となく夢を見ているような感じがした。

あの思考だけが上滑りして体は自分の意志で動かせないあの感じ。

でも何となくこれまでに大勢オソウジしたのははわかる。

気附いたら手が真っ赤になってたから。

ああ、また汚れちゃった。



そうしてのんびり過ごしていたが、何時からか来客が増えた。

そのお客さんはうちの事を殺そうとしてくる。

もう、危ないなぁ・・・。

くる人間は大体追い払うかオソウジするかどっちかだった。


そのお客さんの中に1人見知った人がいた。

そのお客さんは全ての光を吸い込んでしまいそうな射干玉の髪と

深海のような深い群青色の瞳をしていた。

間違いない。一会だった。


「・・・・見つけた。扨、任務開始ですかね。」



嬉しい、また会えた。ねえ、話したい事がたくさんあるの。

お話ししようよ!だからさ、そんな刀なんて物騒なものしまってよ。

なぁに?一会もうちの事殺しにきたの?何でよ、うち等親友じゃんか。

ねえ、何でよ。うちの事嫌いになっちゃったの?友達なのに?

何で何でなンでナんで何でナンデナンデ何で何でナンデナンデナンデ何でナンデ

ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ



あ、そっか。嫌われちゃったんならまた仲良くなれるように遊べばいいんだ!

ねえ、一会〜!うちね、花占いできるんだよ!今から一会の未来占ったげるね。

アレ?一会そんな険しい顔しないでよ〜!誰だって自分の未来って気になるじゃん。

だから教えてあげる!どう、名案っしょ?!じゃー占うのはねー・・・君の未来にしよっか!


「五月蝿い。その声でそんな事喋らないでよ。虫唾が走る。」


何でそんな酷いこと言うのさ〜?


「・・・花美なんでしょ?呪霊になっても何となくわかるもん。親友からそんな言葉聞きたくない。」


そうなの?え〜・・・うち寂しいんだけど・・・。ま、いいや!すんのは変わんないし!


「そっちがその気であるのならば此方も相応の対応したげる。」










そうして戦って結局負けた。も〜!!!強くない?!手加減してよ〜!!

いや草相撲で手加減しなかったうちが言うことじゃないけども。


「それ何時の話?ていうか・・・祓われるってのに呑気な・・・」


いや・・・何つーか・・・もう死んでるし、一会に会えたし・・・

ぶっちゃけもう未練ないんだよね。

上手くやってるっぽくて良かったよ、本当。


「はははっ、何それ。後私改名したから!桜宮礼佳だから!!」


何時の間に?!え〜・・・さみし〜・・・。あそうだ!

ねねね、うちと離れてからの話してよ!気になる!彼氏とかできた?


「はぁ・・・。も〜、変わらないんだから!あのね・・・」








________________説明タイム_________________

「・・・て感じ。ど?これで良ーい?」


はえ〜・・・んなことあったんやぁ。

おけおけ!大丈夫だよん⭐︎

え〜・・・てか、うちも生きてる間に彼氏欲しかったぁ〜〜!!!


「んなこと言ったって・・・・・。もう戻んないじゃんか・・・・」


悲しい顔せんといてよ〜〜〜!こっちまで寂しくなってくんじゃん・・・・


「・・・・・本当はね、嫌いなんかじゃないの。あの時勢いで言っちゃったけど・・・・。ごめん、ごめんね・・・。」


も〜〜〜・・・・・ほらっ!!!謝るのはなし!!!

いやそりゃ傷ついたよ?悲しかったよ?


「ならやっぱり・・・」


でも!!!!!うちはもう気にしてない!!!てかその幸せそうな顔見れるだけで十分お釣り帰ってくるぐらいだから!!!


「そっかァ・・・でも、彼の事はずっと引きずりそう・・・」


あはは!元々一会はそういう子だもんね・・・・・。

あ゛〜〜・・・・もうそろ時間かもしらん。て通うこんな時間持ったな


「は?嘘でしょ?もう逝っちゃうの・・・?ヤダ・・・もっと話したい!!!もっと遊びたい!!あの時みたいに!!!」


ん〜・・・それは無理かなァ・・・・あ〜・・・でも、約束して欲しいんだよね。


「・・・何?」







「・・・ズット、イッショ、ネ?マタ、アオウ、ネ?」

「うん、うん。またお話ししよう。多分ずっとずっと未来になるけれど、また会おうね。」

「ズット、トモダチ?」

「うん、最高の親友だよ!」

「・・・ズット、ミテルネ」

「見ててよ!花の分まで私が願い叶えたげるからさ!」

「ウン・・・。バイバイ」

「バイバイ・・・。っ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」



























一会はもう、うちが居なくてもやっていける。

行ってらっしゃい。

選んだ道を違わぬように・・・選んだ愛しき人々の手を離さぬように・・・

うちが未来を保証したげるから


行ってらっしゃい。













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