あにわらバイト事情。③

あにわらバイト事情。③


※もう展開がバイトとか関係無くなってるけど書きたいシーンは書かせて貰う。妄想癖こじらせた人間とはこういう生き物だ。

※初SSなので稚拙な点等目立つとは思いますが、ご了承くださいませ。共通概念はおおまかに把握しておりますが、個人的妄想や補完要素を入れています。時系列は、ワの国編(+キング奪還編)後の日常回をイメージしています。

※「あにわらバイト事情。」②の続きです。



ロロノア・ゾロは、悲鳴と轟音により安眠をかき消されてしまったことでやや不機嫌だった。まあ怪我を負う前に起こしてくれた誰かには感謝しているが、それはそうとして騒ぎの張本人を懲らしめてやろう、と考えた。そうでもなければこの微量にして深く根付いた怒りを抑えることはできなかった。まあローからは「騒ぎを起こすな」とそれはもういつも以上に言われてはいたが、事情を聞けばまあ許してくれるだろう。


酒屋のカウンターに自身が呑んだ分の金額を置く。まあ多めに払ったことになるが細かいことは気にしてはいない。そのままふらふらと、寝起きにあるようなやや安定しない足取りで外に出る。


海賊A「おい」

海賊B「おい、お前!」

海賊C「聞いてんのかっつってんだよ」


するとそこに丁度良い奴等がいるではないか。これは好都合、と思った矢先。


B「動くなっつったろ、このガキがどうなっても良いのかよ」


聞くに堪えない罵声と暴漢達がゾロの視界と聴覚を覆う中、ゾロは海賊の1人の腕の中に女性が抱きかかえられているのを見つけた。眉間に皺が走る。


C「こいつがどうなっても知らねえぞォ」

B「テメーの腰に付けてる刀、全部下ろしな」


ゾロとしてはその要求を飲む必要は毛頭ない。このような歯牙にもかけない奴等など言うことを聞かずに一ひねりにすることができるのだから。しかし、ここでゾロは敢えて刀を下ろし、彼等のもとに投げて渡した。


A「へぇ・・・良い業物じゃないか」

C「金になるぜ」


人質に取られている女性の首元に、刃を突き立てられていた。一筋の血がそこから流れる。刀を渡した理由はそこにあった。そしてもう一つ、個人的な理由が。


ゾロ「テメェらなんぞ、ステゴロで十分だ」


―人の大切な刀、乱雑に触るんじゃねえ。


刹那であった。ベタベタと刀を触り、皮算用をしていた暴漢の1人が、突如として倒れ込んだ。ゾロが相手の体勢を見切り、急所を直撃したのである。日々鍛え上げた肉体と怒りの感情から出る一撃である、狙われた相手がグロッキーになるのは当然だった。


C「お、おい!どうした!」

A「動くな、それ以上動くt」

ゾロ「あぁ?」


悠々と3つの相棒を取り戻し、三刀流の姿勢に入る。周りにいた暴漢は今や捕食寸前の怯える獲物のように震え上がり、情けない悲鳴を上げながら遁走した。人質である女性はその場に置いて行かれたため、窮地に一生を得た形になる。


女性「あ、あの、有り難う御座いました!本当に、本当に助かったです!」


本当に怖かったのだろう、涙を浮かべながら感謝の意を伝える女性。ゾロは剣士として、無辜がいたぶられることを最も嫌う。相応しい相手にこそ、自らも対等な存在としてある。相手の礼儀に則り、自らも全身全霊をもって真剣に向き合う。それがゾロが貫いてきた姿勢である。先程の下品な連中など、全力を出す必要は無かった。しかし、その行いは彼の気に障るのに十分なものだった。

何度も何度もお礼を述べる女性に、ゾロは問いかける。


ゾロ「なぁ、警察署までの道、分かるか?」



さて、我等が一味の船長はこの時何をしていたのだろうか?


ルフィ「んー・・・迷った」


中々自身に合う仕事が見つからず、ほぼ毎日が街を巡っての仕事探しの日々を過ごしていた。その内飽きてきてしまい勝手に野良猫しか知らなさそうな裏路地を探検したり、貴重な小遣いを屋台の肉料理に使ったりと、本人はおおむね満足しているとは言え本来の目的を考えるとあまり喜ばしくない日常を送っていたわけである。もっとも、ゾロも似たような状況である。


ルフィ「確かあっちから来たから次は・・・あれー?どっちだ?」

ゾロ「お、ルフィ。こんな所にいたのか」

ルフィ「ゾロ~!」

ゾロ「お前、まだ仕事見つかって無いのかよ」

ルフィ「何だとうるせーぞ!お前だって人の事・・・ありゃ?」


ルフィの目線の先には既にのびている男がいた。ゾロが首根っこを掴んで引きずっているようだ。


ルフィ「どうしたんだ?そいつ」

ゾロ「コイツか?今からコイツを警察の所に持って行くんだよ。少しは報奨金か何か入るだろ」

ルフィ「そのおっさんがか?」

ゾロ「さっきどっかで見たが、指名手配犯らしいからな。海軍のところが一番良いかもしれねぇがそうだと俺も捕まるだろ?だから警察署にいけばどうにかなると思ってな」


もしローが聞いていたら「違う!」と言いそうな論理展開だが、生憎この2人は重要な事以外はそこまで考えない癖がある。


ルフィ「へー、そっか」

ゾロ「これで稼いでないのはお前だけになるな」

ルフィ「え?・・・あーっ、ズルいぞ!抜け駆けだ!」

ゾロ「ちんたらしてるからだろ」


じゃ、お前も今日中に見つかると良いな。そう言ってゾロは引きずられる時の音と共に再び歩き出した。


ルフィ「ゾロ、そっちさっき来た道だぞ」

ゾロ「・・・・・・」



キングは上空を悠々と飛び回っていた。何やら下から銃弾やら何やらが飛んでくるが、当たるわけがない。舐められたものだ。

様子を見ていたのは、敵船の急所を見つける為だった。そこさえ傷つければ、敵はまともに機能しなくなる。そうすれば大した騒ぎにはならずに済むだろう。何か言われたらサンジとドラゴンが弁明してくれるのも安心材料だった。


キング「

キング「自尊

キング「・・・


それは、急所を狙った軽めの一撃のはずだった。少なくとも本人はそのつもりだった。限界までトサカを引っ張り、くちばしから集積されたエネルギーを衝撃波として繰り出す技。キングからすれば手慣れたものである。軽いジョブを撃つような感覚だった。

しかし、敵船が燃えさかりながら爆音をとどろかせ沈むその様を見て、キングは少しやり方を変えるべきだったか、と思った。敵船から奪った上白糖とその他おまけの食材を抱えながら。



一方、ルフィは未だに街中を彷徨っていた。


ルフィ「ん?ドカーン?」


そして今は、群衆の中から港の様子を見ていたのである。謎の爆発の原因が妙に気になったのだ。その中で、悲鳴が聞こえた。悲しみと絶望の声が徐々に大きくなっていった。ルフィの関心の的はそちらに移り、その声が聞こえる場所に向かって身構えた。


ルフィ「ゴムゴムの~・・・ロケットォーーーー!」


おおよそ一般人には真似できない跳躍は、空に大きく弧を描きながら、例の場所に向かった。乱雑なショートカットなので人々にそれはもう目撃されたが、ルフィは全く気にしていない。そして軽やかに降り立つ。その先にあったのは。


男性「お願いします、息子が!まだ中にいるんです!」

消防士「・・・しかし・・・」


地獄だった。襲ってきた海賊(ゾロとキングにより壊滅しているが)の砲撃による引火と、家全体の延焼。もうどうしようもない状況だった。周りから見守る群衆も、必死に火の猛威を止めようと果敢に立ち向かう消防士達にも、そして懇願し続ける男にも、誰にも助けられない状況だった。そうしている内も火が徐々に平和な生活を、尊き命を蝕んでゆく。万事休す。


ルフィは水の入ったバケツを見つけ、消防士の1人に近づいた。


消防士「君、ここは危険だ!下がってくれ、」

ルフィ「なぁ、これ(バケツの中に溜まっている水)使って良いか?」

消防士「え、」


ルフィは返事を待つこと無く水を頭から被り、勢いに乗るが如く燃えさかる家屋に突入した。その動きに一切の躊躇は無かった。止めようとする声は一切聞こえなかった。


消防士「ま、待て!危ないぞ!」

男「しょ、少年!」



(どうしよう)

(だれかたすけて)

この生まれて間もない、まるで小さな花のような男の子は、自分を少しずつ追い詰めてくる業火の中で、泣きながら震えていた。否、震えながら最期を待つしかなかった。さっきまで、久しぶりに帰ってきた「おとうさん」と一緒に遊んでいたはずなのに、突然の恐怖はか弱き命を脅かしにやってきたのだ。

(くるしい。こわい。あつい。たすけけて、おとうさん、たすけて)

その時、激しい破壊音が聞こえた。何かが割れる音だ。男の子は、より恐怖に縮こまる。


「ふぃ~・・・お、お前か!大丈夫か?」


男の子は、泣き明かして赤くなった瞳を上げる。そこには赤い服と麦わら帽子を被った、「しらないおにいちゃん」がいた。その邪気の無い安心したような笑顔が、この少年にとっては印象的だった。


男児「だ、だれ・・ですか」

ルフィ「ん?あー・・・ルーシー、ルーシーだ!」


ルフィはここで「目立ってはいけない」という注意を思い出し、咄嗟に偽名を名乗る。かつて情熱の国で仲間を救うために名乗った、懐かしい思い出の1つ。


男児「る、るーしー・・・?」

ルフィ「おう、ルーシーだ!」


男児の表情から恐怖が抜けた。きょとん、としている。ルフィは一旦安心した。


ルフィ「よーし、ここから出るぞ。モタモタしてると死んじまうからな」

男児「・・・どうやって?」


ルフィは後ろを向き、しゃがんだ。おんぶをする体勢である。男児も、自ずと彼のたくましく、大きな背中に我が身を預けた。


ルフィ「衝撃が強いからな、絶対に離すんじゃねえぞ。ルーシーが何とかしてやるからな」

男児「う、うん」


ドントットット、ドントットット・・・


まるで踊りたくなるような、軽快なドラムの音が聞こえ始めた。気づくと、彼の姿が白く、輝いているではないか。男児はその姿に圧巻された。さっきまで自らを包もうとしていた業火を見ていた時とは違う圧巻である。それは安心と、期待の眼差しでもあった。


ルフィ「よし!こう(ギア5)なればどうにかできる!はず!」

ルフィ「ゴムゴムの・・・」


ドーン(白い)・ロケット!


それはまるで、空を自在に飛ぶ、愉快な遊び人のようであり。

そして、頼もしく信頼できる戦士のように。

不安を消し飛ばしてくれる、勇気と友愛を一杯に詰め込んだような。

―男児にとっては、その姿は、自分を苦しさから解放してくれるヒーローだった。



気がつけば、消火活動は何とか終わった。騒ぎを聞いて駆けつけた市議会議員の秘書が、自らの能力を使って鎮火の手助けをしてくれたと言う。

逃げ惑う人々は、何故か迷い込んだようにして現れた青年と、かっちりとしたSPが指示と誘導を行うことで怪我を被ることはなかった。

港の騒乱は、黒色の騎士と優しいコック、そして愛くるしい龍によって落ち着きを取り戻した。

負傷者は、救援に来た帽子が特徴の医師と覆面をつけた大男が治療を行っていた。

上陸し、人々を襲っていた海賊達の残りは、建設現場から飛び出してきた「自称新人」によって見事蹂躙された。


ルフィ「ふー・・・何とか出れたぞ」


ルフィは心底安心し、負ぶっていた男児をゆっくりと下ろした。


ルフィ「お前も、よく1人で頑張ったな!偉いぞ!」


そう言って、男の子の頭をわしわしと撫でる。男の子にとって、その手が本当に温かくて。

つい泣き出してしまった。


ルフィ「あわわ、泣き出した!これ以上泣いたら折角のいい顔がぐちゃぐちゃだぞ!もう大丈夫だよ、安心してくれ・・・参ったな、どうしよう・・・」


何故、彼等が麦わらのルフィを船長として敬うのか。何故着いていくのか。何故、彼と志を同じくし、諦めることをしないのか。この理由に関しては、特段記す必要は無いだろう。



男「 “麦わらのルフィ”、だな」

ルフィ「あ、さっきのおっさん」

男「私はここを鎮護する海軍少尉、ピーコックだ。海軍の任務として、君を見過ごすわけにはいかない」


男の子が泣き止むまで一緒にいたルフィ。知らないうちに周りに人だかりができていた。その中には、よく見知った仲間の顔もある。ピーコック少尉が捕縛を仄めかすと、それを合図として一斉に海兵達が取り囲んだ。ギラギラと光る剣や槍を装備している。「ゴムゴムの実」対策もできているようだ。続いて、ルフィの仲間達も雑踏から姿を現し、臨戦態勢に入る。


議員「ま、待ってくれ!」

少尉「あ、貴方は・・・」

議員「彼等は街を救ってくれたんだ、どうか考え直してはくれないか?」

少尉「・・・」

議員「私についてくれた秘書のモネ君も、警備員のチャカ君も、そして他の彼等も騒ぎを収束させようとしてくれた。どうか、ここは私の顔を立ててくれ!」


ピーコック少尉は訴えを全て真剣な表情で聞いた。しかし眉1つ動かさない。緊迫した空気が流れた。ふと、ピーコック少尉の顔が緩んだ。緊張がほぐれる。


少尉「・・・やはり、恩人に刃は向けるものでは無いな」

ルフィ「?」

少尉「君たちは “麦わらの一味”、だな。この度、街を救ってくれたこと、代表して感謝する、有り難う!そして先程は無礼な振る舞いをしてしまい申し訳ない。海軍として、怪しい者は摘発しなくてはならなかったのだ」

議員「で、では・・・」

少尉「ああ、せめてもの礼だ。目的を満たすまでは、彼等の停泊を認める。まあ、海軍としては良くないから、黙認の形になるがね。しかし、万が一市民に危害を加えるようなことをするならば、この措置を撤回し、逮捕させて貰う」

ルフィ「おう!そんなことはしねぇから大丈夫だ!おっさん、ありがとうな」

少尉「それでは、総員、帰営せよ!・・・最後になるが、私の息子を助けてくれて、本当に有り難う。そして、ドレーク少将」

ドレーク「ピーコック少尉・・・」

少尉「貴方は良い仲間をお持ちですね。後輩として、安心しました。それでは、またいずれ」


雄々しく行進し、基地に帰る海軍の隊列。少尉に肩車してもらっている彼の息子が、とびっきりの笑顔で手を振り続けるのを、ルフィもまたそれに応じ、「バイバ~イ!」と叫びながら振り変えしていた。その周りに、仲間が集まる。


ゾロ「ま、何とかなったな。俺も報奨金が手に入った」

モネ「本当に良かったわ・・・街の皆が理解を示してくれたことが助けになったわね」

サンジ「しかしマリモが警察みたいなこと(犯罪者の連行)するとはな、逆に捕まる側とてっきり」

ゾロ「あ”?」

キング「・・・止めなくて良いのか?」

チャカ「大丈夫、いつもよくある事だ、君も慣れる」

ルフィ「しかし、消防士ってのも大変なんだな。大分熱かったぞ」

ロー「ま、消防士見習いくらいは名乗れるんじゃないか?無謀だが、あんなことまでして人を救うやつなんて見たことねぇ」

モネ「そういえばドレーク、あの少尉さん、知ってるの?」

ドレーク「俺が海軍にいた頃の後輩だ・・・立派になった」

ルフィ「へー」

ロー「とにかく、一旦元に戻って退勤だな」

モネ「そうね。お茶会を抜け出してしまったから、早く戻らないと」

ゾロ「お前等、遅れるんじゃねえぞ」

ロー「お前は早くバイトを見つけろ」

サンジ「もう夕食の準備はできてるぜ」

キング「今日はうどんだ。生地に関してはドラゴンも手伝ってくれた」

ドレーク「それは楽しみだ、ワの国以来になるな」

ルフィ「よーし、明日も頑張るぞ!お前等!」

ロー「まずは職場に戻ることだがな。後お前も早く仕事を見つけろ」

チャカ「にしても、君達も頑張っているな。よく噂が流れている」

カイドウ「そうだぜ、今となってはもう良いがな、変に目立つもんじゃねぇぞ」

ロー「お前のことだバカイドウ」


(完)





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