あにわらバイト事情。②

あにわらバイト事情。②


※初SSなので稚拙な点等目立つとは思いますが、ご了承くださいませ。共通概念はおおまかに把握しておりますが、個人的妄想や補完要素を入れています。時系列は、ワの国編(+キング奪還編)後の日常回をイメージしています。

※「あにわらバイト事情。」①の続きです。


発展を続ける市街地。それに隠されるように、スラム街が広がっている。発展に伴う経済の格差によって置いて行かれた者達の居場所である。だからと言って、放置してしまえば街の治安を損なう恐れがあることから、所謂「弱者救済」(この様な強者からの発言を思わせる言い方は一味は好まないのだが)の政策は必要となる。

スラム街の中心部にある古ぼけ、所々欠けた跡がわかる噴水が目立つ、それなりな広さのある広場に、似つかわしくない真っ白なテントがあった。白字に赤十字を印字した幕で骨組みを覆い、屋根代わりのシーツも真っ白である。市議会が主催するスラム街居住者への健康診断と予防接種のための設営だ。医療機関の出張所として、見た目もまた清潔であるべし。そのような医療従事者の心構えが覗える。

その中に1人の青年がいた。一味の船医、トラファルガー・ロー。ドラム王国で得た医療免許によりこの場所での短期アルバイトを続けている。彼の心境が複雑だった。いや、不安に満ちていた、と言った方が正しいかもしれない。


(目立ってるじゃねえか)

その「噂」を初めて耳にした時、ローは渦中の人物が仲間であることを悟ってしまった。何やら港付近の建設現場でとても図体の大きい新人が近隣の人気を博しているらしい。力持ちで、特徴的なツノがあり、何やら火を吹く特技が凄いのだとか。ローは一連の話を聞いて倒れ込んでしまいたい程だった。

約1週間前、仲間に言い聞かせてきたはずだ。目立つな、と。自分達は犯罪者なのだ、だから素性がばれないようにしろ、と。まあ「偉大なる航路」の片隅にある地方都市のような島で、また海賊も歓迎するという島の考えで何とか助かっている所はあるとは言え、あからさまな行動は流石に怪しまれるぞ、と。

(一番の最年長が何してんだ!)

心中のざわめきが加速する一方で、ローの行動は落ち着き払ったものだった。予防接種に使った使用済みの注射針をまとめて捨て、新しいものを付け替える。怪我をしている者に使うガーゼや消毒液の補充。重要なデータとなる患者達の記録をまとめ、症状別にファイルにまとめる。

全ては彼が尊敬する師匠と父母から教えて貰った賜物である。医者たる者、患者に、人に優しさをもって接すること。優しさ、丁寧さは日々の言動から培うもの。だから、医療器具の扱いも正しくあるべき、ということ。その教えは一度たりとも忘れることはなかった。医者として当然の心構えである。

入港以前、救出され、船長の意向もあって一味に入ったキングは、そんなローの姿を見てこう思った。この男は継承する者なのだ、と。父母と家族、故郷の人々の遺志を。師匠から受け継いだ技術と心を。かつて、恩人に、降りしきる雪とそれを赤く染める血の中で、救われた命を。Dの意志を。この男は、それらを忘れることなく、受け継いでいくのだな。キングは観察の結論を思考の中でそう締めくくった。

閑話休題。

一連の作業を終え、やや遅い昼休憩を送るロー。近くにあった小高い丘の上に座り込み、差し入れでいただいたペットボトルの緑茶に口をつけながら、向こうに広がる景色を見ていた。後ろから声をかけられる。


ドレーク「どうやら随分と忙しいみたいだな、ロー」

ロー「仕事さぼりか?ドレーク」

ドレーク「いや、こっちも一段落ついたのでな」

ロー「・・・安心できるのはお前とチャカだけだ」

ドレーク「?」

ロー「いや、何でもねぇ。小耳に馬鹿が騒ぐ噂を挟んでな。つい気が立ってしまった」

ドレーク「あぁ・・・成程な・・・」


どうやらドレークも、例の「建設現場に新しく入った力持ちの新人」の噂を知っていたようだ。


ロー「それで、そっちはどうだ?順調か?」

ドレーク「やはり全体の数を把握することは難しい。だが、担当の職員に聞いたところ前回行なった時と比べ保護できた数は遙かに多い」


ドレークもまた、市の主催する野良猫、野良犬をはじめとする動物の保護事業に携わっていた。スラム街などで不衛生になってしまうのはけして人間だけではない。動物もまた、汚染に苦しみ、悪い菌の媒体となってしまうのだ。その為、安全で平和な空間に保護し、新しい飼い主との出会いの場を設ける。動物をこよなく愛する彼にとってぴったりの仕事だった。犬や猫、は虫類、形態を問わず優しさをもって接することのできる彼。元は海軍将校だったのが海賊に転向した、という過去もあってか、様々な違いを超えて、不器用ながら寄り添ってくれる姿勢に救われた仲間は多い。


ロー「・・・ネズミには気をつけろよ」

ドレーク「当然だ。彼等もできる限りは保護している。危険すぎるものを持っていた場合は処分することにはなるが、それでも救えたものは多いはずだ」

ロー「そうか」


素っ気ない返事だが、お互いに気にする素振りはない。慣れ親しんだ証拠である。と言えども、恥ずかしがり屋な船医はそれを口頭で否定するだろうが。


ドレーク「しかし、もうばれてしまいそうになるとはな」

ロー「全くだ、俺が何度も注意したのを忘れやがって」

ドレーク「そうだな、人々もまさか突如として雪が降るとは思わなかったのだろう」


一瞬の凪。


ロー「雪?何を言っている、俺が聞いたのは火を吹く新人だぞ、ドレーク」

ドレーク「火?雪じゃ無いのか。真反対だぞ」

ロー「・・・俺が知っているのはご機嫌になると一発芸などと抜かして火を吹くいい年こいたアル中野郎だ」

ドレーク「先日、とある市議員の子供が誤って風船を手放してしまったらしくてな。何やら天使についているような羽根をつけた女性がそれを取ってきてくれたらしい。緑の髪と整った顔立ちが目立って人気になったようだ。俺はてっきりこの話だと思っていたのだが・・・どうした、顔色が悪いぞ。疲れてしまったのか?水分が足りないなら俺のを・・・まだ口は付けていない」

ローは気が遠くなりそうだった。いっそ気を失って倒れ込んでしまいたい程に。



黒塗りの荘厳さを醸し出す高級車が、市街地の中を真っ直ぐ突き抜ける車道を進む。とある市議員の乗用車である。


議員「さて、帰ったらお茶にでもしようか。君も一緒にどうかね?」

モネ「えっ?」

議員「いやね、我が娘が君のことを気に入ってしまったようなんだ。この前、娘が手放してしまった風船を取ってきてくれたんだろう?」

モネ「その節は申し訳ありませんでした・・・」

議員「何故謝るのかね。何か、気に障ってしまったかね」

モネ「いえ、あの姿を見せてしまったので」


モネはハーピーのように、四肢が鳥類のそれに置き換わっている。その姿は特に目立つ。一味が旅路に通りがかった各地で、奇異に見られることは多く、その視線の中には一概に良くないものもあった。議員はそのことを悟った。


議員「いや、気にすることはないよ。大丈夫だ。どんな姿でも君は私の秘書なのだ、自信を持ちたまえ。それに、その翼があったからこそ娘の笑顔は失われなかったのだから」


モネはそれを聞き、心が少しずつ暖まっていくのを感じた。議員もまた、これ以上は何も語らず、静寂ながら長閑な雰囲気が車内を包む。ありがとうございます、とモネは独りごちるように述べた。議員は微笑みを崩さなかった。

そうしている内に、車は屋敷の中に入る。屋敷といっても、一般の家庭より少し大きめに建てられているだけだが、色とりどりと、鮮やかに飾られた庭が魅力の一軒家だ。議員とその家族は晴れの日の午後に、いつもお茶を嗜んでいるらしい。

門を通る際に、モネは警備員の1人と目が合った。お互いに笑みを交わす。褐色の、砂漠に住む人にある特有の肌は、これもまたスーツによって、まるで熟練のSPの様になっていた。

チャカは、一味の中で船長に続いて人望がある、と言っても過言ではない。元はここから遠い砂漠の王国出身で、某王家七武海の一人による王国簒奪作戦の中、敢えて敵地で王女を護り続けた高官。大人の貫禄と余裕を持ち合わせ、一味に入った後も頼れる年長者として、皆を支え、時に相談に乗り、怒りの雷を落とし叱る時もあれば、皆の成長を喜び、自ら率先して動くのがチャカという人物だった。もし、例えば自らの権威に溺れ、また他者に理解を示さない人物であったら、ここまで慕われることはなかったであろう。

だからこそ、あの時は皆で支えよう、と思ったのだ。ワの国における革命を成功させ、目標である四皇を2人も撃破、そして新たなる皇帝となり、遂に「ひとつなぎの大秘宝」に大きく近づいた矢先に発覚した、彼の故郷である王国の政変。彼は見たことが無い程に動揺し、一時は仮死状態になってまで尊敬する王に会おうとしていた程だ。結局は空島の時と同じようにに空から降ってきた旧四皇の助力と、そして仲間達が、自分達にそうしてくれたように、不器用ながら支えたことで、彼も持ち直してくれたようだ。

モネもまた、安息を見出していた。もし平和な時代であれば、こうやって市井に溶け込むのも悪くはないように思えた。



サウザンド・サニー号に残った2人と1匹は、昼食の辛口海鮮パスタを味わった後、早速夕食の準備に取りかかった。サンジが厨房にて神がかったような技術でこしらえて行く中で、キングは昼寝するドラゴンを見守りつつ尋常ではない量のジャガイモの皮むきに従事していた。如何にも単純作業だが、たまには悪くはない。キングはそう思った。

どうやら俺も焼きが回ったらしい。と考えた矢先、ふと遠くから大きな船が1隻近づいてくるのを見た。遠い地平線の先から、どんどんと迫ってくる。その時だった。


その船に張られてあったマストが剥がれたのだ。いや、上から被せていたものが取れた方が正しい。そこにあったのは、隠蔽の為の白とは対照的な黒地と、でかでかとそびえるように君臨するジョリー・ロジャー。


キング「・・・サンジ」

サンジ「お、どうした」

キング「皮むきが終わった」

サンジ「お、ありがとうな」

キング「他に手伝うことは?」

サンジ「いや、・・・今はねえな。お前もドラゴンみたいに昼寝でもしたらどうだ?昨日も夜番だったんだろう」

キング「心配はいらん」


サンジはずっと厨房にいるためか海賊船の襲来に気づいていないらしい。しかし、「らしい」だけである。そう見えるだけで、既にキングと同じく風雲荒れる事態は把握している。そして、「おれが片付けてくるからお前は待ってろ」と言っている。だが、夕食の準備を手間取らせるわけにはいかない。


キング「・・・適当に食材でも調達しにいく。何か足りないものはあるか」

サンジ「・・・あー、なら上白糖を頼む」

キング「分かった。少し待っていろ」


食事の準備中を妨げると厄介だ。お汁粉を作っている時に乱入してしまい、あの小賢しい同僚を怒らせてしまったことも何度かある、そこからの経験則だ。何やら、料理にはタイミングが重要と聞く。それを崩させるわけにもいくまい。キングはそう考えながら、マスクをつけ、大きく飛翔した。目標は接近する海賊船である。



「火だ!火事だ!逃げろ!救急車を呼べ!」


海賊船の接近と同時に、街に火の手が上がった。ここ酒屋でも騒ぎが広まり、客も店長も逃げていく。大砲が市内に撃たれ、引火したようだ。


「おい、アンタ、寝てる場合じゃねえぞ、火だ!」


店の中にいた1人が、端のテーブル席で寝ていた人物を起こす。


ゾロ「・・・・・・んあ?」


(続く)





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