あなふたり
手錠で繋がれた二人が推理したり喧嘩したり寝食共にしたり踊るように戦ったりする長編ストーリー(幻覚)✁(存在しない)前回のあらすじ
なんやかんや海楼石の手錠で繋がれた砂漠兄弟!
すったもんだで事件を解決したが合流する前に落とし穴に落ちたのだ!
たいへんなのだ!
「大丈夫? 怪我してない?」
「してねェから離れろ」
離れろって言われても、と試しに腕を少し動かすと掘り返された土がボロボロと崩れてクロにかかりそうになったのでやめた。
犯人の罠を全部掻い潜ってやっつけたというのに最後の最後に引っかかってしまうとは。無駄に深い⋯⋯5·6m程度の深さで私が足を伸ばせないくらいだから直径2mもない狭い穴に落ちてしまった様だ。
なんとか私が下になれたけど背中にはカモフラージュに被せてあった落ち葉や枝が上には弟がいてしかも片手は手錠でふさがれている。クロが自由な方、義手のフックが2回壁に線を掘ってすぐに動かなくなった。やっぱり土が脆すぎる。
「リーダーは意識無いしロープでちゃんと手足縛ってあるしミホーク達も場所知ってるし他の部下達倒したらカギ手に入れてすぐにここに来るから大丈夫じゃないかな」
「くそ⋯⋯」
どうやらクロは一秒でも早くこの手錠から開放されたいらしく珍しく焦っていたようだ。どんな罠も砂になりさえすれば無意味だしこんな穴簡単に抜け出せるだろうけど普通の身体にこの体制と状況ではちょっと難しいだろう。
「あっ! クロ」
「きたか?」
「ほらこれでっかいカブトムシの幼虫。ヘラクレスかな?」
「戻せ」
「ヒラタかな?」
「戻せって言ってんだよ」
短い鎖で繋がっている手を掴まれて無理やり戻されてしまった。男子はみんな昆虫が好きってルフィくんが言ってたのにな。
「懐かしいねぇ昔こんな狭い部屋にいた事あったね」
「あったか?」
「二人で初めて拠点にした宿」
「ああ⋯⋯」
「二段ベッドで半分部屋が埋まってて机も置いてあるから立てる場所全然無かった」
「そこより明らかに狭いだろうが」
「そうかなあでもほら結局下は荷物置き場になって上で二人で寝てたから」
「ガキが寝るには一つで十分だろ強制的に顔見合わせる事になるここより百倍マシなんだよ」
「一緒に寝ようって言ったのクロなのに」
「黙れ」
会話が途切れてパキリと枝が折れる音がする。さっきまで島中に響いていた大砲の音も怒号も聞こえない。すっかり戦いは終わってしまって後に残るのは土と葉っぱで汚れたケモノだけ。
「怪我がなくて良かった」
改めて肩に触れようとしたら睨まれた。
「おい」
「なに?」
「動かねェんだろ。右手」
手錠のかかっていない、穴に落ちる前はカロリナを握っていた手をフックで強く押さえつけられた。切っ先が皮一枚切るように掌を撫でるが特に痛みはない。痛みはないのはマズいのだと長年の経験から知っているが⋯⋯特に問題はない。
「いつからだ」
「覚えてないなぁ」
眼光が更に鋭さを増すが本当に覚えていないから仕方ない。
「クロとあんな風に戦えるの、楽しくてはしゃいでた。ごめんね」
そう言ったら舌打ちをされてしまったけれど信じてもらえたみたいでフックが離れていく。こっちも繋ぎたかったのにな。動かせないのがもどかしい。
「⋯⋯⋯⋯黙ってた罰だ。アニキのせいで落ちたことにするからな」
「え、う、うん? 落ち、ふふ⋯⋯そうだね。私のせいで落ちた。ごめんねクロ」
思わず笑ってしまった私の頬を引っ張るクロは少し赤かった。
遠くから誰かの声が聞こえてようやくこの長い騒動に終わりがやってくる。
「溜まってた仕事を片付けないとね」