あなた(オリ主)×ルッチ

あなた(オリ主)×ルッチ


あらすじ

あなたと取り巻き二人がルッチを倒して病院送りにする

翌日病院まで行ってルッチを煽るあなた達

ムラムラしてきたので襲いかかるあなた達




 あの日が最初の一歩を踏んだ日なのだと男は思っている。

 思い出すのは消毒液の匂いと、清潔なシーツやカーテンの白さ。自分を見下ろす女達の、陽に照らされて逆光で暗くなった笑み。自分に巻かれた包帯の締め付けと腹に乗った人間の重さ。数十年振りに、珍しいと言えるほど酷い怪我を負わされた。その相手に、異性とは思えないほどの力で手首や脚を押さえつけられ、叫ぶのだか噛みつこうとしたのだか思い出せないが、咄嗟に開けた口に布輪を噛まされた。その先のことをルッチはずっと忘れられないでいる。覚えていたくもないのに、記憶はよく絡みつく荊のように脳を締め付けて棘を刺し、その体験を色濃く主張して彼に夢を見せた。あの日を深くその身に刻みつけ、ルッチという男を元の形に戻れなくさせてしまった。

 女の小指よりも細いものが、ルッチの体の、立ち入るべきでないところに侵入した時の耐え難い異物感。力の入らない四肢を更に押さえ付けられて、声も出せないまま、身じろぎ一つ許されずに、その冷たく小さな器具に、彼自身の中を犯されなければならない苦痛は、怪我の痛みよりよほど彼を長く強く苦しませた。そうして最もルッチを煩悶させたのは、与えられた行為それ自体ではなく、意図せずとしても一時、彼自身の心と体が女からの拷問を受け入れ、溺れてしまったことだった。

 馬鹿だと思った。公共の場で信じられないような暴挙に出る女どもも、それに気付かない愚鈍な民間人も、何も起きないだろうなどと油断していた自分も。あの場にいた全ての人間をルッチは呪った。何より彼が恨んだのは、女のすることに、とても耐えられたとは言えない無様を晒した自分だった。

 男に“一回目”が来たのは、彼が長い脚の膝裏を押さえ込まれ、頭の横に両の膝が来るほど折り曲げられて、臀部も肛門も外目に丸出しになった、口にするのも憚られるような間抜けな格好にされていた時だった。ルッチの目には、脱がされて脚に引っかかった下衣と、自分自身の男根と、彼の内に入り込む、見慣れない器具がよく見えていた。

 それがつぽつぽと嫌な音を立てながら彼の浅いところを出たり入ったりする度に、ルッチは口輪が噛み千切れそうなほど力を込め、足の指を丸めて息を荒げた。痒いような、擽ったいような、みっともなく身を捩らせたくなる感覚が断続的に襲ってくる。しかし拘束が緩むことはなく、ルッチに許される動きといえば、傷の疼く腹の筋肉をひくひく引き攣らせることと、枕に後頭部を押し付け、ずりずりと首を振るように擦る程度だった。ウェーブがかった黒い長髪が、真っ白な枕の上で広がるように乱れていった。

 それはどんどんルッチの深くにまで入るようになっていって、運動は速く激しくなっていって、器具の先端が彼の中の奥、彼の言うには“不味いところ”に当たった瞬間だった。

 弱り切ったルッチの体がその時ばかり、女の手による拘束から逃れそうになるほど強く跳ね、腰が寝台を揺らして軋ませるほど痙攣した。喉が震えて声にならない叫びが漏れ、音の代わりに唾液が零れる。衝撃が数瞬全身を駆け巡り、反吐が出そうな甘ったるい余韻が残った。酸素を求めて轡の隙間から必死に息を吸い、唾液が気管に入って情けなく咽せるのをにやにやしながら覗き込まれた時の、女達の声を潜めてくつくつ笑う様が、ルッチの脳裏には鮮明な写真のようにずっと焼き付いていた。女はまだルッチの中に残っていた器具をゆっくりと抜き取り、見せつけるように彼の目の前に掲げる。垂らされた潤滑剤かルッチ自身の体液か、それはてらてらと酷く下品な光沢を持って濡れていた。

 痙攣が治まってすぐルッチを襲ったのは、目の前で揺れる器具より更に太い物が侵入する感覚だった。女がまた別の道具を挿入していた。先ほどの無機物とはまた違う形と大きさと動きは、自分の中に何度も別の生き物が入り込んでくるようで、震えるくらいに不快だった。一度侵入を受け入れたそこはルッチ自身が驚くほどに弛んでしまっていて、道具はすぐにでも根元まで入り切ってしまった。長さもあるようで、先程ルッチに痙攣を起こさせた“不味いところ”にまでそれは簡単に辿り着く。そこをグッと押し込まれると、途端に彼の肌にぶわりと汗が滲んだ。土踏まずが攣るのも構わず足の指を丸め、奥歯に鉄の味を滲ませながら轡を噛み締めるが、それでも耐えられるものではなかった。“二回目”がルッチの全身に広がり、数秒の間呼吸が止まって、血色のいい皮膚に更に淡い紅が差す。息苦しさに舌で布を押すも碌に酸素は得られず、口の端から唾液が溢れるばかりだった。

 気を抜けばすぐにでも意識が飛びそうになっていたが、この時までは正気を保っていたはずだとルッチは思っている。思っているだけで、既におかしくなっていたかもしれない。その先は後ろだけでなく前や胸の突起まで弄ばれ、体は数えるのも億劫になるほど痙攣を起こし、その度に女に笑われまた別の場所を弄られた。正体を隠すべき場にも関わらず一度は獣の姿を見せてでも逃げようとして、それでも敢えなく捕まりその上獣のまま弄ばれたのを彼は覚えている。四足の動物らしくうつ伏せにされ、とうに毛の生えなくなった傷痕を舐められて反り返りながら斑の毛皮を逆立てるのも、無遠慮に尻を叩かれ、本能的に突き出したそこに異物を挿れられるのも、ルッチのもう三十近くもなった生涯で初めてのことだった。

 しかしそれらの陵辱の限りを受けて、その時自分が何を考えていたかをルッチは覚えていない。何も考えられなかったのかもしれない。口輪が外され、汚れ切った口元や腹を拭かれ、病衣を正されて女達が出て行った頃には、ルッチは茫然自失の状態だった。負け惜しみの罵声さえ出せず、部屋を出ていく女の後ろ姿も見れず、重くなった瞼を薄く開いて、ただ宙を眺めていた。

 ルッチが我に返ったのは、あの女達の手から逃れたカクが、自分の為に怪我をした彼を見舞いに来た時だった。ルッチはカクへと忠告と、己への戒めも込めて女の来襲と彼女に何をされたかを包み隠さず話したが、自分が狙われた時以上に狼狽えて取り乱すカクを見て、弄ばれたことまで詳細に語る必要はなかったな、と考えたのを記憶している。

 これがルッチの最初の敗北だった。認めたくないが、肉体的にも精神的にも、自分はあの時完全に負けていたと彼は思っている。この負けが全ての始まりだった。もっと言えば、終わりの始まりだった。カクを守ろうとしていたはずの自分が、完膚なきまでに屈服して一匹の雌猫に堕ちるまでの、もう戻れない最初の一歩だったのだと。

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