あなたを抱擁した日

あなたを抱擁した日

気ぶりバルデ

なんかいろいろあって闇堕ちバーサーカーと化し世界の敵となって後戻り出来なくなってしまったスレッタちゃんと、ピタゴラスイッチの結果地球寮のスレッタちゃんの立場に取って替わってしまったグエルくんのお話。

MSの構造・性能や戦闘に関してはよくわからないまま書いたので、悪しからず。

一方的な、スレ→→→ミオ要素あり。あと、キャリバーン虐要素あり。




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宇宙空間での激しい戦闘の後。


ダリルバルデに羽交い締めにされ、共に大気圏の中に落ちていくキャリバーンの姿があった。

キャリバーンに乗ったスレッタは、形振り構わず滅茶苦茶に相手の機体を殴る蹴るなどし、もがきながらその腕からの脱出を試みるものの、残念ながらびくともしない。


「うわああああぁあぁんっ、どけっ、どけっ、どけっ!!

邪魔するな、邪魔するな……邪魔をするなら、殺してやる、殺してやる、殺してやるんだから………!!!

離せ、離せ、離せ、離せ、離せーーーーーーっっっ!!!!

私はミオリネさんのところへ行くんだッ!!

ミオリネさんを迎えに行って、クワイエットゼロのなかで結婚式を挙げて、二人仲良くいつまでもそこで暮らすんだっっ!!!

だからお願い、邪魔をしないで……!!

離して、離して、離してよおおおおおおぉおぉっ」


そんな悲痛な訴えなどはまるで聞こえていないかのように、ダリルバルデはキャリバーンを抱擁するその腕の力を、更にギリギリと強めていく。


ミシッ……ミシッ……ボキボキッ、ボキボキッ、ボギャッ……バキバキィッ!!!ゴシャアッ!!パキパキパキパキッ…。

ダリルバルデがその腕の力でもって容赦なく締め上げるものだから、可哀想なキャリバーンは悲鳴をあげ、なす術もなく少しずつ壊れていく。


最後にはすっかり小さくなってしまって、残ったのはコックピットだけになってしまった。


今までの強引さとは打って変わって、ダリルバルデは小さなコックピットを壊れ物でも扱うかのように、その両手でそっと包み込む。

そして彼の主人を収めているダリルバルデ自身のコックピットに向かって、接吻でもさせるかのようにコツリと引き寄せてやった。


ドンドン!ドンドン!

お相手様の操縦席までは聞こえていないのかも知れないが、スレッタは目の前のキャリバーンのコックピットの扉を叩き、号泣しながら訴える。


「うっぐ、ひっく、ぐすっ、ぐすっ……どうしてぇ?

どうして、あなたはわざわざこんなことをするんですかあ…?

私はただミオリネさんを貴方から取り戻したいだけなのに、どうして、どうして…。


やっぱり。やっぱり、あの決闘のときに、ちゃんとライフルで吹き飛ばしておくんだった………!!


ミオリネさんも、エアリアルも、地球寮のみんなのことも。全部全部私に返してよお……!」


ブヅッ、ツーツー…ツーーーーッ…。

通信機能は辛うじて生きていたようだ。

聞き覚えのある男の声が、ノイズ混じりに聞こえてくる。


『…ツ-………ジジ…ジジッ……済まん。本当は生け捕りにして、皆のもとへ帰してやりたかった。


俺が_らないばかりにこんなことになっちまって____に、済まん。いくらどれだけ詫びようとも、足りはしない。


…………いや、ほんとのこと言っちまうとなぁ。

お前、相変わらず強過ぎんだよ。

生け捕りなんて___い真似、どだい無理な話って___ぜ』


泣きわめいてスッキリしたのか、あるいは強いなどと言われてほんの少し溜飲を下げたのか。

落ち着いた声で、スレッタは男に応答し始める。


「……ふんっ、馬鹿な人ですねぇ。

せっかく私を捕縛できたのは良いですけれど、もう間に合いませんよ。

……今からでは、もうこの大気圏からは逃げ仰せられない」


『だよな!あともうちょ____ケリをつけられりゃあ、生き残れる目だってあったんだけどなぁ。しくっじっちまった。

お前が___に暴れるからだぜ?くくくくっ、ははははっ、まった__んでもねえじゃじゃ馬女!』


こんな事態において、ひたすら愉快そうな男の様子を、スレッタは訝しく思うほかなかった。


「わかってるんですか?

死ぬんですよ、あなた。

私と一緒に、大気圏で焼き尽くされて。

………………もしかして、私が知らないだけで、何かの勝算でもあるんですか?」


いくばくかの沈黙。

ついに通信が切れたか?と思った頃、ぽつりぽつりと男は話し始めた。


『お前にとっちゃ、単なる迷惑だったかも__ねえな。

可哀想にな。こんな好きでもねえ男にしつこくつけ回されちまってよ。


残____家族や仲間達に対しては、本当に__訳ない……。


だけれどな。不思議と俺は、後悔をしていない。


自分の心に則って、思うままに闘い抜いた。

その結果最期は、__な女と一緒に__てやれるんだ。


こんな_深い俺に___みれば、あまりに過ぎた僥幸だよ』



嗚咽と共に男の声が聞こえる。紛れもなく、泣いている声だった。

だけれども、同時に心底満たされているかのような、不思議と穏やかな声でもあった。


ろくな感慨も乗せず、スレッタは呟いた。


「ふうん。

やっぱりあなたって、わけのわからない人__


轟音。

閃光。


何もかもが跡形もなく爆散し、あとは流れ星のような燃えかすだけが、長い尾っぽを引きずりながら大地に向かって落ちていくだけであった。


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「…ヒッッッ!!!!」


暗闇の中、汗まみれで飛び起きた。


なに……なんだったの、あれ、夢……?えっ、夢なんだよね……??

あんな、あんな…あまりにも、悪趣味すぎる…。


急に不安になり、傍らに眠っているはずのグエルさんの存在を確認する。


……良かったあ。ちゃんと居てくれてる。


裸の胸に耳を寄せ、心音を確認する。

よしよし、正常!


そのまま彼の身体中をぺたぺたと触って確認する。

ここは大丈夫…ここも大丈夫…どこも、おかしな怪我なんかしてないよね…あとは、あとは、脚の方も確認しなくちゃ……。


「おいおい。まだ日も昇らねえうちから、随分積極的だなあ…」


少し掠れた声が頭上から聞こえてくる。

どうやら起こしてしまったようだ。


「このまま狸寝入りを決め込んで、お前がイタズラしてる様子を楽しもうかとも思ったんだが。

……どうした?なんか様子が変だな」


大きな両手で頬をはさんで私の顔を覗き込み、心配そうにグエルさんが聞いてくる。

その優しい瞳を見ていたら、涙が溢れてくるのを抑えられなくなった。


「うっ、うっ、ひぐっ、うええええんっ。


ごべんなさい、ごべんなさいぃ!私夢の中でグエルさんにぃっ、ほんとに酷いこと言っちゃってええ、ひっく、まるで路傍の石みたくぞんざいに扱ってぇ、そのうえあんな、あんな……うっ、うっ、うううっ、わおおおお~んっ!


とぼがぐ、ほんとに生きていてくれて、良"か"っ"た"ですぅ~~~~!グエルさあん、グエルさああああああぁんっっ、今ここに生きていてくれて本当にありがとうございますううううっ!」


「お、おう。どういたしまして?

どうなってんだ、こりゃ……ううーん、ええーと。ん~んん~~……。

ああ、こういうことか?

夢の中で、お前は俺に対し何らかの罵詈雑言を浴びせ、そのうえ取り返しのつかないような危害を加えてしまった、と。こんな感じで合ってるか?」


「うっ、うぐっ、ひぐっ、うおおん……ごめんなさいぃ…」


「いや、別に夢の中の話を謝られてもなあ…。

ほらほら、大丈夫だ!生きてる生きてる。ご覧の通りピンピンしてるって。だから安心しろよな。


…わかった!アレだろ。さては寝る前に読んでた、あのコミックの影響だな?

可愛らしい絵柄でスコシフシギコミックだとか銘打ってあったが、ありゃあな、一種の詐欺だぜ。ガチホラーコミックにでも改名しろっての。まあ、面白くはあったけどよ。流石はお義姉さんのセレクト。

だけれどな、ありゃお前のような奴が夜眠る前に読むもんじゃあねえなあ。次からは気を付けろよ。わかったな?」


「……ずずっ、ずびっ……。ひゃい」


ん、とグエルさんがその腕を広げてくれるので、私はすかさずその胸の中に飛び込む。ぎゅーっと太い腕と逞しい胸板で包み込みながら、抱き締めてくれる。

ああ、素肌同士が触れ合って、凄く安心するなあ…。


するっ、するっ…と、微睡む私の背中を撫でてくれながら、グエルさんは語りかけてくる。


「俺もあんまりこういう哲学っぽい話は、得意な方ではないんだが…。


その夢の中の…その世界の俺は、どんな様子だった?お前にいろいろやられて、そんなに無念そうな声を出していたか?後から化けて出てきそうな恨み辛みばかりを言い残して、お前のことを呪ってでもいた?……そんなこたあ無いって、自負してるんだがなあ。


まあどちらでも良いよ。今この世界に確実に存在するのは、お互いの気持ちを通じ合わせて、幸せに毎日を過ごしている俺達だ。今目の前にある幸せに感謝し、これからも大切に守り抜いていく。それが大事だと思うぜ。

……暴れすぎてベッドを破壊するのだけは、ちょっとばかし自重しないといかんがな。またラウダに叱られちまう、ひゃははっ!













ともかくな、お前がそんなふうに俺を悼んでくれたというだけで、もう十分だよ。

だからお前は、そんな悲しいことは早く忘れて、そして安心してお休み。スレッタ」

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