あなたから欲しい

あなたから欲しい

陛下の苗字捏造幼馴染時空

「隊長、義理でも僕に対するチョコは無いんですか?」

「見ればわかるやろ」

「おや残念ですね…今年も沢山貰ったので良ければ一緒に食べませんか?」

「要らんわ。甘いモンて何かずっしりせぇへん?ヨォそんな食べれるな」

「想いを形に込めた日ですから、せめてこれくらいは」


2月14日が何の日であるかなど、もはや誰もが知っているだろう…かつての大戦時、滅却師の皇帝ユーハバッハ・バレンタインが「平和あれ」という言葉を唱えながら滅却師に朱古力を配り渡し終えた後、そのお返しとして魂を貰いパワーアップしたという死神にとっては非常に嫌な日である。

現在の尸魂界ではチョコレートと名を変え、義理か本命かなどというレベルの話では無く、いかに意中の相手にチョコレートを渡し、受け取って貰えるかという事が重要視される。ちなみにお返しは基本的に倍返しが鉄板であり、モテる男ほど出費が嵩む恐ろしいイベントである。


本日2月14日、五番隊副隊長を務める藍染惣右介の元にも多くの女性死神からチョコレート味の菓子や花束など……主に物で溢れていた。

しかし平子からチョコレートも物も贈られる気配が無いと、もうそれは悔しいとしか言いようがない。因みに去年はチョコばかりだと口が飽きるだろうと出前蕎麦を奢って貰った。

藍染はその端正な相貌と柔らかな物腰で女性死神にモテる割には浮ついた噂もほとんど無い。本命と云って差し支えのない女がいるからだ。

「このまま隊長から何も貰えなければ、僕は何かするかもしれません…そうですね、手始めに提出書類を紛失してしまうかもしれませんね」

聞くからに本気では無い声色なのだが、冷たくあしらったために暴走されかけたトラウマが平子にはあった。 

平子がしぶしぶと筆を置くのを見ると藍染は満足そうに笑い礼を言った。

「こっち来イ、惣右介」

平子に呼ばれた藍染は、期待に胸を膨らませている。

「目ェ閉じて、口開けて、じっとしい」

平子が藍染に顔を寄せる。唇に、ふにゃりと柔らかいものが触れた。

そのまま口内に侵入してきたのは、不必要に甘ったるいチョコレートだった。おそらく安物だろう。

しかし平子の舌の上に乗せられているのが『チョコレート』である事に気がついた時、藍染は高揚で心が満ち溢れた。

平子からも、普段ではありえない甘さが感じられるのは気のせいだろうか。

「……んぅ……」 

吐息を吐いて唇を離すと、目の前には目が死んでいると言わんばかりに胡乱な目つきをしたいつもの平子がいた。

「お返しは普通のモンくれや」

「すみません、まさか本当に貰えるとは思っていなかったので…質のいいチョコレートを沢山貰っているので、口直しにもう一度、しませんか?真子さん」


その後、1人で黙々とチョコレートを消費する藍染の頬が紅葉で赤く染まっている姿が確認出来たとか、出来なかったとか。

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