あいのこども
(カルデアでの一幕)
ふわりと、頭に乗せられたのは花冠だ。
きっと此度も見事な花を丁寧に編み上げて作ったのだろうと、そう思ってドゥリーヨダナは溜息を吐いた。
「神たるアルジュナよ」
そう呼ぶと、白髪をゆらゆらと揺らすサーヴァントは淋しそうな顔をした。
何だかとても調子が狂う、とドゥリーヨダナも眉尻を下げる。
「何度も言うが、これはわし様が受け取って良いものではなかろう?」
「いいえ。確かに最適ではないかもしれませんが、貴方に渡すのも正しいものなのです」
だって、貴方はあの子の欠片を掬い上げたでしょう、と。
いつかに赴いたインド異聞帯で取り込まれてしまった霊基を指して、やわらかく微笑んだ。
それが、ドゥリーヨダナにはむずむずと擽ったくて仕方がない。
嬉しくて、面映い。幸せだと、感じてしまうのだ。
父に愛されている、と。胸の奥に棲みついた幼子が跳ね回る。
伝聞で知る限り、この子どもは人格面での機能不全を抱えていて、ひとの想いの何たるかを理解していなかったというのに、ドゥリーヨダナに取り込まれてからというもの、このとおりだ。
まったく、仮住まいの身分で大家を困らすでないわ、と呆れた気持ちになる。
「触れても良いですか、スヨーダナ」
「花冠の礼だ。許す」
不遜な態度で言っても、かつて神として君臨した父は喜ぶばかりだ。
星を砕く指がドゥリーヨダナの頬をやさしく包み、慈しんで撫でる。
ドゥリーヨダナの胸の中で、幼子がきゃらきゃらと歓喜に震えて暴れ回る心地がする。
「いとしい、いとしい、わたしのこ」
そのやわらかな声に、「これも、父を愛しております」と、ドゥリーヨダナの中のスヨーダナが笑った。