夜釣りに集う恐竜達

夜釣りに集う恐竜達


海賊は騒ぐのが好きだ。戦う時も

こうして宴を開いている時も

喧しい位に騒ぐもんだ。

それはページワン自身だってそうだった。

思いのままに暴れるのも

強い奴と戦うのも嫌いでは無い。しかし…

「ぺーたん!

ぺーたんも飲むんでありんす!」

「やめろ姉貴!俺はもう飲めねえんだ…!」

珍しく泥酔した姉のうるティに

いつものように絡まれるページワン。

「やめろだとぉ!?」

「ヘブッ!」

酔っているとは思えない程に

正確な頭突きが飛び

一瞬意識が飛びそうになる。

そんなページワンを覚醒させたのは

飲み過ぎた腹に飛んで来た

2度目の頭突きだった。

堪らずにうぐぅ、という嗚咽を漏らす。

ついでに吐き気に襲われ

その場から去ろうとするページワンだが

うるティは離さない。

「ぺーたんが飲むと言うまで

離さないでありんす〜!」

「本当にやめろ姉「やめろだとお!?」

三度、頭突き。

吐き気は限界を迎え己の力とは

思えない程

強引にうるティを引き離した

ページワンは口元を抑えながら走り出す。

後を追おうと立ち上がるうるティだが

足がもつれて上手く歩けないようだ。

海賊は騒ぐのが好きだ。

それは彼自身も同じだった。

しかし…彼は喧騒に疲れていた。

「そうだ…釣りに行こう」

人混みから離れた草影で

呼吸を乱しながら一人ごちるのだった。


「静かなのはいいんもんだ…」

1人船に乗り訪れた午前3時の鬼ヶ島。

人々は眠りに着く時間に心地良い風と

波の音と静寂を包む宵闇の中で彼は佇む。

暫くは1人で釣りを楽しめた。

喧騒を避ける為の釣りだ。

それで良かった。

良かったのだが…。

大きな獲物を釣れた時。

全く釣れなかった時。

波や海鳥の歌声を聞いた時。

この1人釣りが習慣になり

近頃は一抹の寂しさを覚えていた。

誰か話し相手が居てくれたのなら…

「だけど姉貴は勘弁だ…」

あくまでも

釣り糸を垂らした水面を見つめ

心を落ち着かせる時間が

彼は好きなのだ。

しかし数週間も続けていると

話し相手がふと欲しくなる瞬間が

あるのも事実。

「姉貴には知られたくねえしな…」

それ以外にも

常に喧しそうなクイーンや

多くの部下と行動を共にする事が多い

ブラックマリアも出来れば避けたい。

持参した酒を煽り

いつ酔うか分からないカイドウ

なぞ論外だった。

…誘った所で来るかは怪しいものだが。

少し考えたページワンは

次の日から飛び六胞や

時折、大看板が使用する集会所

その男用厠に釣り仲間募集の

張り紙を掛ける事にした。

大勢に来られるのは困るが

少し距離のある鬼ヶ島の

日も登らないような時間なら

わざわざ来るモノ好きは少ない筈だ。

特に大看板はそれぞれの仕事も

立て込んでおり来る事は無いだろう。

そう高を括っていた。

「よぉ!ページワン!待っていたぜ!」

いつもの時間にいつもの釣具と

いつものお気に入りの釣りポイント。

1つ違うのはムハハと高笑いを浮かべる

クイーンが居る事だった。


「この前の釣りは…喧しかったな…」

釣り道具を纏め

鬼ヶ島へと向かうページワンは

クイーンとの釣りを思い出していた。

釣った獲物に手を掛けたと思えば

一瞬で絡繰魚へと改造したり

自分のビームを調整し特殊な光を用いて魚を 

誘き寄せたりたりと

めちゃくちゃだった。 

全く釣れなかったページワンに

元気出せとムハハと笑う顔を思い出す。

…つまらなかったと言えば嘘になる。

たまにはあんな釣りも悪くないなと

振り返りながら今夜も

鬼ヶ島へと船は行く。

釣具を手にいつものポイントへ進むも…

「今日は誰もいないのか…」

人影は無し。

寂しいという訳では無いが

誰かと釣りする楽しさを知った

ページワンは少し落胆してしまう。

「誰がいないって?」

無人のはずの島で

声を掛けられ思わず臨戦態勢をとり

そのまま恐竜へとページワンは変身する。

「…ドレークか」

人影は無かった。あるのは竜影だ。

高い岩の影。そこにいたのは

能力により恐竜になっていた

飛び六胞 ドレークだった。

よく見ると釣り竿も置いてあるようだ。

夜の浜辺で対峙する

月夜に照らされた2頭の恐竜。

「…遅かったな」

先に口を開いたのはアロサウルスだった。

能力を解き人へ戻る。

「何故変身していた?」

スピノサウルスから人間に戻りつつ

尋ねるもドレークは答えない。

「…釣りをしようか」

ページワンは自身の目的を思い出す。

ここには釣りに来ていたのだ。

「釣り具は揃っているのか?」

「…一通りはある。まあよろしく頼む」

素っ気なく答えるドレークだが釣りは

ページワンの方が先輩だと判断し挨拶する。

そうでなくても技術は相手が上だろう。

使い込まれた釣り具がそれを物語っていた。

「それじゃあ…釣っていくか」

今日は静かな夜になると

一息つくページワン。

…ドレークは

採った魚が固く

噛み砕く為だけに恐竜になっていた、と

告白するタイミングを探していたが

それは逃してしまった。


最近は釣りの時間が好きだ。

元々孤独に竿を振る釣りが

ページワンは好きな筈だったが

この頃はそこに誰かが加わる事が多くなった。

鬱陶しいと思う瞬間が無い訳では無いが

近頃は誰かと釣りをするのは

意外にも心地良かったのだ。

…クイーンが釣りにハマり

最近は専らあちらから誘う事が

多くなったのは誤算だったが。

今日は、クイーンとの約束はせずに

鬼ヶ島へと向かっている。

誰が来るかは分からない。

(…まあ良いさ)

クイーンの人柄をどこか懐かしみながら

彼は思う。

(久しぶりの一人も悪くない)


「よぉ」

釣り場に着くとやや意外な人物の姿が見えた。

クイーンほどでは無いが恰幅の良いシルエット。

飛び六胞 ササキだった。

-まさかササキが来るとは。

都の狂死郎と親しいのは知っていたので

つるむとしたらそちら、と認識していた。

「…俺が来たらマズかったか?」

余りにもジロジロと見ていたからであろう、

ササキは少しバツが悪そうに呟く。

「狂死郎の奴は今夜は小紫と一緒に

居るみてえだからな…暇していたら

お前が1人らしいからよ」

空気を読んで彼の元へ行かなかった、

という事か。

「いや…悪かった」

漸くページワンは口を開く。

「釣りは初めて…ですか?」

あまり馴染みは無ぇ、と

返すササキだが

恰幅の良い中年が背を丸めて

釣竿片手に座り込む姿は

ある種、哀愁のようなものが漂い

ページワンより様になっていた。

さて初心者に釣りやすい

ポイントはどこだったかと考えていると…

「ヨォ!ぺーたんと…ササキぃ!」

「…うるせえのが来たな」

振り返ると今日は来ないと

言っていたクイーンが居る。

ササキは毒づくがどことなく

ページワンは嬉しかった。

どうも、と挨拶を交わす。

「おしるこパーティが終わったんで

夜食を求めてきてやったぜ!

今日も釣りしようぜぺーたん!」

陽気に振る舞うクイーンに

ややイラついているササキ。

「…お前らが最近仲良さげなのはこれか」

「何だササキ?男の嫉妬はモテねえぞ」

ササキに呆れと怒りが混ざる表情が浮かび

ページワンは内心慌てる。

暴れられでもしたら釣り所では無い。

幸いササキの表情はすぐに戻っていく。

「今日は釣りに来た…

ページワン、俺も夜食が食いてえ」

「俺はおしるこ食べた後だが…

しょっぱいもんが食いてえな」

さてどうしようかと考える。

何しろ料理は得意では無い。

調味料こそ有りそうだが、

とここで彼は閃いた。

「塩焼きはどうです?」

それでいいと言う事になり

3人はポイントに散っていく。


「俺とササキがまさか同じ数とはなぁ!」

日が昇り初めた鬼ヶ島の海岸。

朝焼けの美しさが

最早夜食ではなく

朝食の時間だと告げている。

鯖19匹に鯵16匹。

クイーンは大漁だった。

「…………」

黙々と鯖を齧るササキ。

鯖16匹に鯵19匹。

ササキも大漁である。

「俺たち結構仲良しなのかもなあ!」

ムハハと笑うクイーンの言葉に

やや不服そうな表情のササキ。

釣りは初心者だが

センスは良いようだ。

「…まさかお前が一番釣れないとはな」

丁寧に尾の近くの可食部まで

鯖を食べながらササキは

ページワンを見る。

鯖1匹に鯵8匹。

ページワンはあまり釣れなかった。

「俺に色々教えてくれていたからな…

良かったのか?」

ササキが尋ねる。

それで良かった。

「ぺーたんは優しいからな!」

あっという間に釣った魚を

平らげたクイーンが言う。

フォローのつもりなのだろう。

「久しぶりに釣りをしたが…」

小骨を楊枝代わりに咥えながらササキは続ける。

「悪くねえもんだった」

初心者のササキが釣りを楽しんでくれた。

ページワンはそれで良かった。

釣った獲物を食べ終えた恐竜達は

満腹感と充実感を覚え

日常へと戻っていく。


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