No Title(7)
もう何度目かにもなる林間学校。
今年も例年通り、パルデアの後輩達を連れてキタカミの里へやってきて、一日目を無事終えて。
公民館で後輩達の色んな質問に答えていると、スグリに電話で呼び出された。
「あー、はるとだぁ」
急いでスグリの家に向かった僕を出迎えたのは、ゼイユさんだった。
どこかぽやぽやした口調で、ゼイユさんは僕に抱きついてきた。
「ねえちゃん、ちょっと待って……ああ、遅かったかー」
家の奥から、スグリがこちらに歩いてくる。
「うふふ、はるとーはーるとー」
「あー……スグリ? これ、何事?」
遠慮なしに抱きしめ、頬擦りを繰り返すゼイユさんを指差して、スグリに訊ねる。
「ねえちゃん、間違えてじいちゃんのお酒呑んじゃってさー。去年成人してから初めてだったんだけど……すっかり酔っちゃって、こうなっちまったべや」
「ゼイユさん、お酒弱かったんだね……」
よく見れば確かに顔が赤いし、吐き出される息にもお酒の匂いが薄らと混ざっている。
「で、僕が呼び出された理由は?」
「あたしがねー、はるとにあいたかっただけー!! うふふ、うれしい? うれしい?」
「……っていう訳なんだべさ。今はこんなだけど、さっきまで『ハルトに会いたい会いたい会いたい!』って、とんでもない駄々っ子だったんだべ」
「そうだったんだ……なんか、ごめんね、スグリ」
ご機嫌なゼイユさんの代わりに、スグリに謝る。
「別にいいよ。ねえちゃんに迷惑かけられるのなんてこれが初めてじゃないし。ただおれ、今からちょっと出かけなきゃいけなくてさー。じいちゃんとばあちゃんも今は知り合いのとこさ行ってて、ねえちゃんを一人きりにする訳にもいけなくて」
「なるほどね。うん、わかったよ、スグリ。ゼイユさんは僕が見ておくよ」
「ごめんなぁ。ほんと助かるべさ。そんじゃ、後はお願いな。もしうるさかったら、ねえちゃんの部屋に放り込んで、布団の中に押し込んでくれたらいいから」
余程急いでいたのか、スグリはすぐさま家を出た。
後に残されたのは、玄関に立ち尽くす僕と、まだ頬擦りを続けているゼイユさん。
「あー、ゼイユさん、とりあえず家の中に入ろう? ね?」
「はぁい、わかったわ」
ゼイユさんは僕の身体に回していた腕を解くと、今度は僕の腕に抱きついて、グイグイと家の中へと引っ張っていった。
「はるとはここー。で、あたしがここー」
居間に連れてこられた僕は、ゼイユさんによって座布団に座らされた。
胡座をかいて座る僕の膝の上に、ゼイユさんが横向きに座る。
「ふふー、ひさしぶりのはるとだぁー」
「久しぶりって、昼にもあったでしょ、ゼイユさん」
「あれはよそいきのはるとだったでしょー!! いまのはるとはー、あたしのこいびとのはるとなんだから!!」
「、っ…………」
酔っているからか、いつもより素直なゼイユさんの言葉に、顔が赤くなっていくのを感じる。
普段の、しっかりしてるけどどこか抜けてて、かっこよさと可愛さを見事に同居させているゼイユさんも良いけど、今の、可愛さ全振りのゼイユさんも、いつもと違った魅力があった。