No Title(5)
「ここがキタカミの里かー!」
飛行機とバスに揺られて何時間
お尻が悲鳴をあげているものの、憧れの地に降り立つことができた私は歓喜の声をあげる。
倍率の高い林間学校合宿
私が入学する前から割と倍率が高かったみたいだけど『ある噂』が流れてから更に倍率は跳ね上がった。
『林間学校で結ばれたカップルは幸せになれる』
恋に恋するお年頃なんて言われるけれど私は、甘く幸せな恋というものを体験してみたいのだ。
それが今回一緒にいる憧れの先輩であれば尚良し!!!
引率の先生から諸注意を軽く受けてから旅館に向かって歩き出す。遠目からでもわかる立派な和邸だ。
昔は公民館だったみたいだが噂により参加者が増え、キャパが追いつかないとのことで新たに造られたのがこの旅館だそうだ。
一泊いくらぐらいするのだろう、と考えていると旅館の前に着いた。
「ようこそおいでくださいました」
宿の前で待っていた人に皆、目を奪われる。
さらりとした漆のように黒い髪、長くすらりとした足。
お淑やかな雰囲気、若女将の名に恥じぬ美貌。
「林間合宿の皆様ですね、お話は聞いております。本日から皆様のお世話をさせていただく女将です。よろしくお願いいたします」
礼ひとつとってみても様になる方だ。
私もあんな綺麗な女性になれるだろうか…?
そうして女将に見惚れていた私達の耳に何か、ドタリドタリと大きな音が近づいてくる。
「ゼイユさーーーん!!山菜取ってきたよー!!」
「アギャーース!!」
見ると赤く大きなモトトカゲ...だろうか?
それにライドした童顔な男性が両手いっぱいに山菜を抱えてこちらに向かっていた。
「〜〜〜!!!ばかハルト!!少しは空気読みなさいよー!!」
先程のお淑やか雰囲気が決壊し、女性は目を見開いて男性とモトトカゲに詰め寄る。
「どうせ何日かしたらバレるんだから無理しなくていいじゃないか」
「あたしにも面子ってモンがあるの!!こんな立派な旅館建ててくれたんだからそれくらい格好つけさせなさいよ!!」
そう言ってぎゃーぎゃーと言い争う二人。
だが険悪という雰囲気は全くなく、寧ろバカップルの痴話喧嘩というようだった。
「あー!!もうっ!!!」と女将が声を荒げると懐からモンスターボールを取り出す。
「今日こそ吠え面かかせてやるわ!キタカミの土、久しぶりに味わいなさい!!」
「おっ!いいね!望むところだ!!」
「だ、大丈夫なのでしょうか...」
「心配いらないよ」
オロオロする私たちに現地の人が笑いながら言う。
「あの二人の喧嘩、というかイチャつきはいつものことさね。それよりよく見ときな嬢ちゃん。あの二人、とんでもなく強いからさ」
「いけ!カラミンゴ!!」
「いきなさい!グラエナ!!」