4話 おはなし

4話 おはなし


【あやかしのいる朝ごはん】


(一ページほど、タマちゃんが朝食を用意しているシーン。お味噌汁の味を見て、頷いている感じ)


扉絵(あれば)

※場面転換:幸臣の視点から本編


「……ふう。あっつ」


朝早くから起きて、僕は袴姿にたすき掛けをして、竹筒の修繕を行っていた。

早朝でも夏場は暑い。夏休みだからって、毎日家業に勤しんでいる僕も僕だけど。


「おい幸臣~、ぼくらの巣なんだからしっかり治せよ~」クダ猫


「結界もしっかり張れよ~ノラ外来種にまた食われちゃうよ~」クダ猫


「分かってる。せっせと育てたお前たちが、タダ食いされたらたまらない」幸臣


「うわ~~、育ての親気取りかよ~~~」クダ猫


ここ数日、夜な夜なノラの外来種が我が家の結界を越えて、クダ猫をタダ食いしていく。


やいのやいのとクダ猫と言い合いながら、僕はせっせと竹を直す。

縄を取ろうとしたら、いつの間にか側に居た、昨日我が家に招いた黒い外来種がソッと差し出してくれた。


「ああ……えっと……クロ、だ」


昨日、タマが名前をつけていた。

クロちゃんは嬉しそうにコクコク頷く。何が楽しいのか、ずっと僕の側で、僕の作業を見ているのだ。

でも時々、目の前を横切った虫を追いかけたりしている。子どもみたいな奴だな……


「おい、幸臣」


「ん?」


ちょうど作業をしていた場所の頭上から、声をかけられた。僕は疲れきった顔を上げる。


「……晶様」


内心、ゲ……と。

そこには山伏姿の、黒い翼を生やした金髪のイケメンが。

彼はこの土地に住む高等な天狗で、猫寺家のお得意様だった。


「あきらさま~あきらさま~」


クダ猫たちが一斉に晶様に群がった。


「合体して~~合体して~~~」


「あはは。相変わらず愛(う)い奴らめ」


「……」(幸臣しらっとした目)


クダ猫たちは本能的に、できるだけ強い奴に融合されたがる。

晶様は神格を持つ大天狗だから、クダ猫たちは晶様が好きだ。だいたい偉いあやかしに媚びる習性があるから。


晶様は僕の側まで翼を羽ばたかせ降りて来た。


「……晶様、何しに来たんですか?」


「いやなに、クダ猫を貰いに来たまでだ。わしの様な都会のあやかしは、こいつら無しでは霊力を回復できんからな」


「……」


そう。クダ猫は都会のあやかしたちにとって、必要不可欠な存在だ。

こいつらを体に取り込むと、霊力を大幅に回復でき、怪我を直したりパワーアップをはかる事ができる。

クダ猫はいわゆる超強力な合成素材モンスター。

都会のあやかしとは田舎のあやかしと違い、霊力を回復できるものが周辺に少ない。(低級あやかしや、自然のパワースポットなど)

人を食う事で霊力回復するあやかしもいるが、その手の事件を未然に防ぐ為に、クダ猫を育てあやかしたちに売る。それも猫寺家の事業の一つだ。


「というか晶様、前回分の代金を払っていないんですけど、そのこと覚えてます?」


「え?」


俺はじとっと晶様を見つめ、手を差し出した。

晶様、目を点にする。


「あれを払ってもらわないと、こちらも仕事ですからね……人間界のお金、持って来てるんですか? あなた人間界ではニートですよね、今」


「えっと……えっと……」


偉そうな態度が一変し、指をちょんちょんとして焦る晶様。

じー。ビジネスモードの僕。

晶彦様はあからさまに焦り、視線を逸らした。


「く……くそ、この守銭奴め。幸臣、きさまっ、ちっとはまけてくれてもいいだろう! わしはお前をこんなちっさな頃から見守って~」


「これでもまけてあげている方です。あまり贔屓しすぎると、他のお客に示しがつかないので」


「くっ……わしだってなあ、人間界に溶け込もうとしてあれこれバイトするが、長続きせんのだ!!」


わーわー喚き出した晶様。祟ってやる、呪ってやる、と、わがままばかり。

大天狗が聞いて呆れる。

まあそもそもそんなジジくさい喋り方でコンビニの店員とかされても怪しまれるよな……

まず現代人っぽくなってもらわないと。


「はあ……仕方ない。じゃあ、晶様について行きたがっているそいつら、三匹ほど譲ります」


「ほ、ほんとか? 幸臣!」


ぱあ、っと、分かりやすく表情を明るくする晶様。晶様はあやかしのクセに感情がめっちゃ分かりやすい。


クダ猫も喜んで晶様に吸収されにいく。

晶様はこの場で、クダ猫を用いて“強化合成”をしてみせた。しかも“大成功”だ。

(ここ、アプリゲームの一枚絵みたいに、晶様キメた感じの超かっこいい大成功ポーズみたいな。下に“合成大成功”と出す)


「おおっ、やった、“大成功あn”だ! やっぱり猫寺家のクダ猫は質が良い」


「そりゃどうも」


羨望の眼差しを送られても、僕はしらっと言い放つ。


「別にタダであげた訳じゃないですから。代わりに天狗の羽、十枚下さい。それ外来種避けに使えるんで」


「……」


「あと、早く仕事見つけて支払ってくださいね。ほんと」


「……あ、はい」


僕に羽をぶちぶちむしられながら、消え入りそうな声で頷く晶様。

僕はそんな晶様の羽をほくほくした様子で持って、スタスタと母屋へと戻った。


「あ、そうだ幸臣~、お前嫁を貰ったんだろ? あちこち噂になっておるぞ」


「もう? あやかしたちの噂ってほんと早いな……」


面倒な事にならなければ良いが。


「皆、お前の嫁を見たがっている。あんなにちっこかった幸臣が、もう嫁を娶る歳になるとは……」


「言っときますけど、別に結婚した訳じゃないですから。許嫁が家に居候するだけですから」


僕は至って淡々としていた。

そう、まだ結婚なんて遠い話だ。


その運命を、変えることは出来ないけれど。







「あ、幸臣様! おはようございます!」


母屋へ戻ると、縁側でタマがキョロキョロしていた。

僕を見つけると、嬉しそうに朝の挨拶をする。


「お、おはよう」


「朝ご飯が出来ていますよ。朝のお務めで、お腹が空いていませんか!?」


朝ご飯……?

朝ご飯をこの子が作ったのか?

おばば様ったら居候の子にそんな事をさせて……(ちょっと焦っている幸臣)


縁側から部屋に入って(ちょうどその座敷)中央の机でご飯を食べることになる。

タマと音羽がお膳やお櫃、お茶なんかを持って来た。


僕の目の前に出て来た朝食は、とても立派なもので、お豆腐とわかめのお味噌汁に、焼き鮭、出し巻き卵(大根おろしのせ)に、きゅうととタコの酢の物とお漬物といったところだった。(美味しそうなご飯描写)


す、すごい……


我が家は誰もまともに料理をしない。

おばば様もあれでかなりの脳筋だから料理出来ないし、

普段は自分で適当に出前を取ったりカップラーメンを食べたり、

音羽に任せてたら朝食は菓子パンとインスタントスープばっかり出て来るし……(ここら辺チビキャラで表現できれば)



「お口に合うか分かりませんが……」


タマがお櫃からお茶碗にたんと白ごはんを盛って、こちらに手渡してくれた。

こ、古風だな……


名家とは言え、そこそこ現代なペースで生きて来た僕にとっては、新鮮な状況だ。

なぜか隣ですでに音羽が「いただきまーす」と言って食べ始めている。KYめ。


僕も「いただきます」と言って、お味噌汁を一口。


「…………」


そして、出し巻き卵を一口。

こ、これは……


「……美味しい」


僕は思わず、そう呟いていた。

仕事の後だったこともあり、がつがつ食べる。


やっぱりとても美味しい。


「タマは……料理上手なんだな」


「はい! 田舎のお屋敷では嫁入り修行ということで、いつも料理をしていました!」


「………」


得意げなキラキラした顔をしているタマ。

へえ……荻常家では、本家の娘にも料理なんかさせるんだな。

(※これは、タマが結構こき使われていたという伏線。本家の娘ではあるが、管巫女はもう一人居て、そちらが大事にされていた。タマは出来損ないのような扱いを受けていた。伏線の確認までに。)


「えへへ。お口に合った様で良かったです~」


タマはなんだかホッ胸を撫で下ろしていた。


「タマはお料理しか出来ないので」


「いや、でもほんと……最近手作りの料理なんて久々に食べたから」


なんかもっと上手く褒め言葉が出てくれば良いんだけど、なかなか難しい。

でもタマはすごく嬉しそうにして喜んでいる。


「よろしければ、今後猫寺家の家事全般はこのタマにお任せください!」


「え、で、でもそんな家政婦みたいなこと……」


「いえ! 猫寺のおばば様もお願いしますと言ってくれました!」


こちらとしては、居候の身にそんな事をさせられないと思ったが、どうやら先におばば様が了解してしまったらしい。


「……え、というかおばば様に会ったのか?」


「はい! 先ほど朝食をお持ちしました!」


「…………」


よ、嫁力高い……


最初はほんとヤバい子が来たかと思ったけど。


「皆さんにもご飯ですよー」


縁側の向こう側の庭で遊ぶ小さなあやかしたちにおにぎりを配るタマ。

なぜかおにぎりを求めて、小さなあやかしたちに紛れてわーわー言ってる天狗の晶様。


「そこ! 羽のついた高等ニート! あんたはもう帰ってください」


「えー、ケチー。幸臣の噂の嫁御の手料理、わしだって食べたいぞ!」


はじめまして、はじめまして、と謎の挨拶を交わしている晶様とタマ……


「……ん?」


庭の片隅でぽつんと立って、なかなかこちらに来れない、例のクロちゃん。

指を咥えて、ひもじそうにしているが、遠慮がちに遠くから見ている。


「おい、クロ。こっちへ来い」


僕が縁側に出て行ってクロちゃんを呼ぶと、クロちゃんはててて…とやってきて、もじもじした。


「これ、良いか?」


「はい、勿論です」


タマにおにぎりを一つ貰って、それをクロに与える。

クロは大きな口を開けて、一口で食べてしまった。


ハムスターみたいに頬袋をもごもごさせて。


「やい、外来種! 新入りのくせに飯を貰おうなんておこがましい奴め!」


「いびってやる~~」


「世に言う上下関係ってものを教えてあげるよね」


クダ猫がクロを「やいやい」と頭突きをして虐めている。


「おいこら。いじめはやめろクダ猫共」


僕がそう注意するとクダ猫たちは「きゃっきゃ」と笑いながら、スイーと逃げて行った。

小河童たちが「こっち来るでちぃ~」「性悪な猫ちゃんとはかかわらない方がいいでち」とクロちゃんを自分たちの住処へと招いていた。

奴らとの方が気が合いそうだな……


「ふふ、賑やかですね~」


「はは……うちにはどうも、あやかしたちが集いやすくて」


「いいえ。素敵な事です。荻常家の者たちは、あやかしを道具のようにしか思っていませんから……」


「…………」


タマは少しだけ意味深な言い方をして、寂しそうに笑った。


「私も皆さんに紹介したい子たちが居るのですが、知らない土地に警戒しているようで、なかなか出て来てくれなくて」


「もしかして……使い魔か?」


「はい。可愛い子が三匹居るんですよ~」


タマが自慢げに3本指を立てる。

使い魔は術者のサポートをしてくれる、主従の関係にあるあやかしの事だ。

きっとタマには凄い使い魔がついているんだろうな。なんせ管巫女だし……


「幸臣様幸臣様ー、ゆーきーおーみーさーま~」


音羽が廊下側から緩い声で僕を呼ぶ。

あれが僕の使い魔か……なんか悲しくなってきた。


「何だ音羽」


「おばば様が呼んでます」


「え」


「タマさんも一緒にって」


僕とタマは顔を見合わせた。

おばば様に呼び出されるとは、何だか嫌な予感もする。





おばば様は母屋から渡り廊下で繋がった離れで暮らしている。

先代の死去、当主の座は祖父から僕に移り、おばば様は隠居の身となったのだ。


「失礼します」


僕とタマは、障子の開け放たれた外廊下で並んで頭を下げ、部屋へ入る。

風鈴の音だけが響く中、おばば様はお花を生けていた。


「よく来たね。……タマさん、さっきは朝食をありがとう。とても美味しかったです」


「は、はいっ」


タマは背筋をピンと伸ばして、大きな声で返事。

おばば様はいつもは怖い人だが、タマの前なので笑顔だ。

ちょっとまだ営業スマイル感があるけど……


「幸臣は幸せものだ。料理上手な嫁がここに嫁いで来ることは珍しいのだからね」


「そ、そうですね……」


これはだいたいおばば様の意味だ。


「幸臣、猫寺家の裏山の猫鏡神社におわす“紅尾”様に、タマさんを連れて挨拶に行きなさい。土産に特上のクダ猫と、“人間界で今流行のお菓子”を忘れてはいけないよ。紅尾様はその手のものに興味津々だからね」


「……は、はい」


きた。やっぱりその手の話だ。

晶様も言っていたけれど、タマがここへやってきたと言う噂を聞いて、タマを見たがっているあやかしは多いのだろう。


その筆頭が、我が家の守り神である“紅尾”様だ。


だけど今流行のお菓子って何だ……?


「タマさん、もし良かったら、我が家の守り神の為に何かこしらえてくれませんか?」


「え? わ、私がですか?」


「ええ。タマさんはお料理上手ですし、きっと紅尾様も、タマさんのお料理を気に入るかと……」


おばば様の目は、優しそうに微笑んでいるように見えて、どこかタマを試しているようでもあった。

タマは何だかすごく緊張していたが、膝の上で手をぎゅっと握ると、「はい! 作ってみます!」と元気よく言った。


(最後に幸臣が若干心配そうにタマを見ているコマと、クダ猫がアホ面して「話終わった~」と言ってるようなコマがあれば和やかかな、と)






※書いている以外にも、今までみたいにクダ猫たちはガンガンに出して、勝手にあれこれ言わせて良いです。有象無象にしている感じが面白いので^^

※新キャラ、天狗の晶様の見た目はおまかせします。あんスタとかキンプリとか参考に、可愛げのあるイケメンよろしく^^人気キャラになりそうな感じで!



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