燦然と輝く無水エタノール

燦然と輝く無水エタノール

A

僕は知っていた。


なぜ人々は争うのか。


なぜいい学校に入っていい会社に入っていい人と結婚すべきだと大人は言うのか。


なぜいじめは無くならないのか。


理由は簡単だ。


僕たちが人間だから。


あまりに人間的で、どこまでも平成的な僕たちは、今日も最終電車で家路を目指している。


「先週入ったバイト、口調イラつかね?」


「語尾のイントネーション」


「どこ出身だよって言ってあげなよ」


「ウケるよねー」


人間関係に置いていかれないように。


仲間外れにされないように。


そんなすべての欲望が渦巻く人々を乗せて、電車は終着駅に向かっている。


「お客さん、終点ですよ」


車内を見回る車掌に起こされて、慌てて電車を降りる。


明日も早朝から出社しないと仕事が終わらない。


まどろむ意識をなんとかより合わせて、僕は自宅に向かう。


「ただいま」


僕は知っている。


どうして僕が社会に適応できないのかを。


「君は人間であることを肯定したくないんだね」


どこからともなく聞こえてくる声に、僕は返事をしない。


僕の部屋じゅうの電気をかき集めて、そこに無水エタノールを振りまく。


きらきらと輝くその薬品に、僕は美しさを感じている。


きっと僕はどこまで行っても仲間外れなんだろう。


明日の朝、ベランダから無水エタノールを噴霧しよう。


僕はそうやって毎日眠りについているのだ。






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