透明人間 第8話

透明人間 第8話

TODA RABA

2012年8月18日、いつものように眠りにつくと、透明の出口が出現した。

「さようなら。はじめまして」

どこからともなく声が聞こえ、体の境界線がなくなっていくのを感じる。

「これが透明の出口?」

自分の声は自分と他人の境界線を失い、どこから聞こえてくるのかわからなくなった。

Aの意識が扉から出ていくのを感じた。

というよりも、箱の中から出た水が、海に帰っていくような感じだった。

Bの意識も同じように、箱から出て行き、そして全体へと吸収された。

Cの意識も、空気のかたまりになってどこかに消えて行った。

「出現する」

そういう概念のようなものが現れて、気が付くとDが出現していた。

同様にへんてこ奥さん、床ずれエンジェル、サキソフォン洋平、わんぱく小錦も出現していた。

それは箱の中にいつの間にか入っていて、なくなったA、B、Cの意識と入れ替わりで、同じタイミングで発生したみたいだった。

「さようなら、はじめまして」

目が覚めると、Dが肉体を動かしていた。

メモを書きたい衝動に駆られ、書いたのはへんてこ奥さんだった。

その後、Dが生活を送り、残りのへんてこ、床ずれ、サキソフォン、わんぱくの4人がそれぞれ詩を書いたり、雑貨屋めぐりをしたり、音楽を楽しんだり、スポーツをしたりした。

「物語ができたよ」

戸田くんから連絡が来たのはしばらくしてからだった。

インターネットに物語を公開し、そしてこれまでのすべてをフィクションという形にして掲示板の更新を辞めた。

「助かったよ。ありがとう」

落ち着いてから戸田くんに連絡をしたが、戸田君の携帯電話はつながらなかった。

メールアドレスもすべてつながらなくなっていた。

「どうしたんだろう」

AもBもCも消滅した今、頼りになるのは戸田くんだけなのに。

透明の最終的な出口の2012年12月18日が近付いていた。

「そうだ、行ってみよう」

Dは戸田君のお母さんから戸田くんの自宅の住所を聞き出し、そして行くことにした。

そして世界は再び反転する。 



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