透明人間 第7話

透明人間 第7話

TODA RABA

「ここでいいのかわかんないけど」

Bがメモの内容をインターネットに公開したのは、2012年の8月のことだった。

「メモは人に見られてはいけない」というのがAの信念で、これまでもメモを絶対に他人に見られない様にしていた。

Bは掲示板を嫌っていたし、Aは公開されるのを嫌っていた。しかしCはAのプログラムが終了したのを知り、インターネットで公開することにしたのだ。

Aのメモは「プログラム」として組み立てられており、読んだ人が一定数を超えると集合無意識の変容が始まり、透明の出口が出現する、という内容だった。

メモは終わりを告げ、そしてBは適応する理由を失っていた。

「プログラム」

この時は、このプロジェクトを始めたのがBの破壊の概念だったとは知らなかった。

Aのプログラムは、価値の消滅と回転の停止によって透明の出口が出現するというもの。それが実はBの「みんな消えろ」というメッセージを含んでいたのだ。

Aは「2極性も重力も消滅したスーパーフラットな世界では個別性を失い、主語が消滅する」と言っており、それはBの「みんな消える」というメッセージと矛盾しない内容だった。

透明を選択すると、果たしてどうなるのか。

それは透明を選択した人にしか分からない。

Aのメモを読んだ人からは様々な書き込みがあったが、この時点ではプログラムがどういうものなのか、その具体的な内容については明らかにされていなかった。

「物語を書きたいんだ」

Bは戸田くんに相談をした。

「いいよ。原稿送ってくれれば体裁整えてみるけど」

Aは原稿を書き、そしてそれを印刷して戸田くんに送った。

「ちょっと時間くれるかな」

「いいよ」

戸田くんはこの原稿を見た時、かなり戸惑ったらしい。

「これってノンフィクションなの?」

Bはこれまで、自分の身に起きていたことを戸田くんに話していなかったので、戸田くんはとても驚いたらしい。

「もちろんフィクションだよ」

でも、BはAのメモやプログラムが本当であってほしいと願っていた。

Cは笑ったり泣いたりできる人間が素敵だと思っていた。

そして2012年の8月18日、透明の出口が出現する日に、世界は反転する。 



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