透明人間 第6話
TODA RABA2011年3月。3人はそれぞれの職場で仕事をしていた。
Aのメモと卒業論文に時間を取られ、CがぼんやりしているうちにBは就職活動に失敗し、かろうじて地元の小さな会社に就職した。
戸田くんは東京にある広告代理店に就職した。
さくらは東北の沿岸にある保育園で働いていた。
「この揺れは長すぎる」
地震直後に停電になり、情報が入ってこなかった。
「キャー!」
誰かがワンセグでNHKの映像を見て絶句する。それは想像を絶するものだった。
「なにかしなくちゃ」
次の週、寝袋を背負い、自転車で被災地に行った。沿岸の漁師町のボランティアで、偶然にも戸田くんと再会した。
「来てたんだ!」
「俺、会社辞めてきた」
戸田くんはあの日、交通機関が麻痺していたので、数十キロ離れた自宅まで歩いて帰ったのだと言う。
「さくらのことなんだけど」
戸田くんからさくらは助からなかった、と聞いて、Bは体中から力が抜けていくのを感じた。
「そうなんだ…」
Bは1週間ボランティアとして滞在し、戸田くんは現地のボランティア団体で働くことが決まった。
「じゃあまた」
「おう」
こうして戸田くんと別れ、帰りの自転車に乗りながら、さくらのことを思い出して暗い気持ちになった。
果たしてBは本当にさくらのことが好きだったのだろうか?カバンの中には、Aが書いたメモが入っている。
「すべての2極性は対消滅する」
そこに、さくらへの思いは一つも含まれていない。
「なんで持ち主はこの世界からいなくなったんだろう」
Bは自分とAが出現し、Cがこの肉体に入り込んだ理由を考えた。
「帰ったら、とりあえずぐっすり眠ろう」
家に着くと、着替えもせずにぐっすり眠った。そこには無意識の世界があるだけだった。