透明人間 第5話
TODA RABA大学に入ると、3人はそれぞれ別の道に進んだ。
お盆や正月に帰省するたびに、あの公園で集まって一緒にアイスを食べながら星空を見上げたが、あの時見た光は姿を現すことはない。
「価値の消滅と回転の停止」
Aのメモはだいぶ抽象度が高くなり、そして一つの結論のようなものに至っていた。
Bは睡眠時間を削ってサークルやアルバイトをこなしていた。しかし、その度が過ぎたのだと思う。気が付いた時、Aは双極性障害を発症する。
持ち物を徹底的に捨てる。それは強迫観念のようだった。本やCD、洋服、家具、家電、そういったすべてのものをAは処分した。写真や手紙、アルバムもシュレッダーにかけて処分した。携帯電話のメモリもすべて消した。
そして部屋の物がすべてなくなった。それでも講義は受け、単位は取得し、卒業論文を書いた。完成した卒業論文は処分した。
Bはしばらく行方不明になっていた。そしてAが逸脱した道をなんとかして回復しようとしていた。服を買いそろえ、家具を買いそろえ、知人の連絡先を集めた。サークルに顔を出し、明るくふるまった。それでも、一度失ってしまった信用は取り戻すことができなかった。
「あいつは精神的におかしくなってしまったらしい」
それが周囲の人たちの共通認識だった。
Cは戸田君に好意を持っていて、一緒に旅行に行ったりした。AもBもコントロールができないCの感情。そしてそれはBとさくらとの遠距離恋愛がうまくいかなくなっていく原因にもなっていた。
「今度の土曜日、会える?」
「いいよ」
僕らは公園で会うことにした。そして他愛もない話をして、解散しようとした時、さくらが言った。
「あたしたち、そろそろ、おわりじゃない?」
原因は分かっていた。大学に入ってから、会える時間も限られていた。そしてAは恋愛に無関心で、Bは適応のために彼女を必要としているだけで、Cは戸田くんのことが好きなのだ。
「別れよう」
「うん」
さくらは泣いていた。Bはそんなさくらを残して公園を後にした。
それがさくらと会える最後の日になるとは、この時の僕は思わなかった。
3人はそれぞれの学校を卒業し、そして新しい生活へ踏み出そうとしていた。